賃借人の家賃滞納(テナント料滞納)への対処法は? 手続きの流れ・注意点

2021年02月09日
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賃借人の家賃滞納(テナント料滞納)への対処法は? 手続きの流れ・注意点

令和2年12月2日15時現在において、千葉県内で確認された新型コロナウイルス感染症の陽性者数は、累積で7158名です。
また、同時刻現在の感染者数は839名となっています。

新型コロナウイルス感染症は、不動産の賃貸借にも大きな影響をおよぼしています。
賃借人(テナント、入居者)による家賃滞納が発生した場合、建物のオーナーとしては、法律上どのような対処をすべきなのでしょうか。

この記事では、賃借人の家賃滞納に対する対処法や、各手続きの流れ・注意点などを中心に、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「患者の発生について|新型コロナウイルス感染症」(千葉県))

1、新型コロナの影響で家賃滞納は増えている

新型コロナウイルスの影響により、不動産に関する家賃滞納の件数は大幅に増加しており、これからも増加することが予想されます。
(参考:「新型コロナウイルスの影響「家賃が払えない」相談が急増」(NHK))

特に飲食系の店舗については、都道府県による自粛要請などが深刻な影響を与えており、売り上げ減少を原因とするテナント料の滞納が多く発生しているようです。

不動産のオーナーとしては、家賃滞納(テナント料滞納)が発生すると、不動産の収益性が大きく悪化してしまいますので、一刻も早く対処する必要があります。

2、家賃滞納(テナント料滞納)時にオーナーができること

家賃滞納(テナント料滞納)が発生した場合に、不動産のオーナーができる対処法は、おおむね以下のとおりです。

  1. (1)敷金を未払い賃料に充当する

    入居時に賃借人から敷金を差し入れられている場合には、未払い賃料の金額に対して敷金を充当することができます

    敷金とは、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいいます(民法第622条の2第1項)。

    賃料は賃料債務そのものですので、賃貸借契約継続中でも敷金充当の対象となります。
    敷金は賃借人の債務に当然に充当され、オーナーから賃借人に対して、「滞納家賃と敷金を相殺する。」といった意思表示をする必要はありません。

  2. (2)未払い賃料の支払いを請求する|連帯保証人に対する請求も可能

    賃貸人は、敷金から充当せずに、賃借人に対して未払い賃料の支払いを請求することができます。

    なお連帯保証人との間で、賃貸借契約に基づく債務に関する保証契約を締結している場合には、連帯保証人に対して未払い賃料の全額を請求することも可能です
    家賃滞納が発生している場合には、賃借人自身には資金力がないことが多いため、連帯保証人に対する請求も併せて検討しておくと良いでしょう。

    連帯保証人は、賃借人との間に、何らかの人的関係があるため連帯保証人となっているケースが多いです。連帯保証人は、賃借人と連絡を取ることが可能であることが多いと思われます。賃借人も人的関係のある連帯保証人に迷惑をかけたくないと思っていることが多いため、連帯保証人への働きかけには、未払賃料の回収に効果があると考えられます。

    なお、主たる債務者(本記事では賃借人)の任意退去が遅れれば遅れるほど連帯保証人の負担が増えるため、次の項で述べる賃貸借契約の解除及び早期退去との関係でも、連帯保証人に対する働きかけは有効と考えられます。

  3. (3)賃貸借契約を解除する

    賃借人が今後賃料を支払う見込みがない場合は、オーナーとしては、物件収益の安定のためにテナントを入れ替えたいところです。賃借人に物件からの退去してもらうために、賃貸借契約の解除を検討しましょう。

    賃貸借契約の解除は、賃貸借契約における解除に関する条項に従って行われます

    契約書の中に解除事由が列挙されており、通常その中には、家賃滞納に関する文言も含まれています。

    「〇か月以上賃料を滞納した場合、賃貸人は本契約を解除できる」という形の定めになっていることが多いので、解除事由に該当するかどうかを確認してください。

    その家賃滞納が賃貸人に対する信頼関係を破壊する行為であると認められれば、賃貸借契約の解除が認められます。

3、家賃滞納時の未払い賃料請求の流れと注意点

ここでは賃借人による家賃滞納時の未払い賃料請求の流れと注意点を解説します。
なお、連帯保証人に対する請求を行う場合にも、基本的には同様です。

  1. (1)内容証明郵便により任意の支払いを求める

    通常のケースでは、未払い賃料の請求は、賃借人に対して支払いを求める内容証明郵便の送付から始まります。
    内容証明郵便とは、郵便で送る文書の内容を、郵便事業株式会社が証明する制度ですが、その文書で相手方に対して何らかの意思表示をしたときに、その内容を証明することができるという郵便です。この内容証明郵便に、配達記録をつければ、その文書が相手方に届いたことを証明することができます。

    内容証明郵便を送りますと、賃貸人にとっては、賃借人に対して、賃料債権に対する時効中断の効力が生じたことの証拠を残すことができます

    内容証明郵便を弁護士名義で送付すれば、賃借人も深刻度を理解して、未払い賃料を任意に支払う可能性があります。内容証明郵便の作成方法の詳細は、弁護士にご確認ください。

  2. (2)訴訟・強制執行により金銭の支払いを受ける

    内容証明郵便を送付しても、賃借人が任意に未払い賃料を支払わない場合には、訴訟を提起して請求を行うほかありません。

    訴訟を提起する際は、裁判所に対して訴状を提出します。
    賃料請求の訴状の中には、

    1. ①賃貸借契約を締結した事実
    2. ②建物を賃借人に対して引き渡した事実
    3. ③賃貸借契約で定められた賃料支払期限の到来


    などは最低限記載したうえで、これらの事実に関連する証拠資料を併せて提出する必要があります。

    訴訟手続は専門的・複雑・面倒な部分がありますので、弁護士のサポートを受けながら準備を進めると安心です。

    訴訟でオーナー側の言い分が認められ、勝訴判決が確定した場合には、強制執行の手続を取ることができます

    強制執行の手続では、債務者の財産を差し押さえたうえで、現金や預金であればそのまま、その他の資産であれば換価・処分のうえで未払い賃料に充当します。

  3. (3)強制執行時は差し押さえ対象財産の特定が必要

    オーナーが勝訴判決を確定させ、債務者に対して強制執行をする権利を得たとしても、どの財産に対して強制執行をかけるかについては、オーナー側で特定をしなければなりません。

    たとえば賃借人が不動産を所有していることを知っているなど、わかりやすい財産を把握できる場合は問題ないでしょう。
    賃料を銀行振り込みにしている場合は、振り込み元の口座に預金があるかもしれませんので、預金債権を差し押さえましょう。

    その一方で、明確に把握できる財産だけでは未払い賃料の金額に不足する場合には、債務者の財産がありそうなところを推測してアプローチするしかありません。
    もし強制執行可能な財産が全く見つからなければ、訴訟にかかった費用が無駄に終わる可能性があります。

    そのため、実際に訴訟・強制執行の手続きを取る際には、強制執行可能な財産が存在するのかどうかについて、事前に確認・検討しておくことが重要です。

    弁護士は、強制執行の可能性についての検討も行いますし過去の経験から弁護士はある程度事情を把握すれば、財産を推測できる可能性もあるので、この点からも一度ご相談することをおすすめします。

4、家賃滞納時の賃貸借契約解除の流れと注意点

賃借人が賃料を支払う見込みがなく、賃貸借契約の解除を決断した場合の流れと注意点は、以下のとおりです。

  1. (1)契約に従って解除を通知する|事前の催告が必要

    賃貸借契約を解除するためには、契約上の解除事由に該当していることが必要です。
    家賃滞納については、2か月分から4か月分程度の滞納が解除事由とされていることが多いので、まずは要件を満たしているかどうか確認しましょう

    なお、家賃滞納を理由として賃貸借契約を解除するには、原則として、相当な期間を定めたうえで賃料支払いの催告をすることが必要です(民法第541条)。

    滞納の程度が甚だしい場合などには、例外的に無催告解除が認められる場合もありますが(最高裁昭和43年11月21日判決など参照)、確実を期すためには、内容証明郵便による催告を行っておくことをおすすめします。
    内容証明郵便には、期日を示して建物の明け渡しを求める旨も併せて記載しておきましょう。内容証明郵便の内容については、注意点も多いため、弁護士に相談されることをおすすめします。

  2. (2)訴訟・強制執行により明け渡しを受ける

    賃借人が建物から任意に立ち退かない場合には、訴訟手続きにより明け渡しを求めていくことになります。

    賃料不払を理由とする解除の場合の、賃貸借終了に基づく賃借物明渡請求の場合、オーナー側が主張すべき主な事実は以下のとおりです。

    1. ① 賃貸借契約を締結した事実
    2. ② ①に基づく賃借人への賃借物の引渡し
    3. ③ 契約において定めた賃料前払特約を締結した事実(ない場合は③´賃料不払期間の経過および④´民法614条所定の賃料支払期限の経過)
    4. ④ ②賃料の支払期日の到来
    5. ⑤ (相当期間を定めた)催告
    6. ⑥ 催告期間が経過したこと(相当期間を定めた場合には相当期間が経過したこと)
    7. ⑦ 解除の意思表示


    建物明渡請求訴訟において、オーナー勝訴の判決が確定した場合は、強制執行の手続に移行することができます。

    不動産の明け渡しに関する強制執行は、執行官が賃借人の不動産に対する占有を解いて、オーナーにその占有を取得させる方法により行われます。

    開錠作業や荷物の搬出についても、執行官による執行手続きの際に行われますが、鍵業者や運搬業者に対する費用はオーナー持ちになるので注意が必要です。
    なお、オーナーが強制執行のために支出した費用は、後で賃借人や保証人に対して求償できます

  3. (3)自力救済は厳禁

    賃借人に否があって賃貸借契約を解除する場合であっても、オーナーが自分で鍵を壊したり、勝手に居室内に立ち入ったりする行為(いわゆる「自力救済」)は、原則として違法行為であり、許されません。

    したがって、建物の明け渡しはあくまでも、任意交渉または明渡訴訟を提起する方法による必要があります。

    なお、昨今「追い出し屋」といわれるような業者がいます。
    裁判より早く、安く退去させようとするものです。追い出し屋に依頼して、社会通念上相当といえないような方法で賃借人に退去を迫った場合には、違法な自力救済として賃借人より損害賠償責任を追及されるだけでなく、強要罪や不退去罪などの刑事責任を問われる可能性もありますので、そのような方法は控えましょう

    家賃滞納により賃貸借契約を解除する場合には、法律にのっとった手続きによって適切に対応しましょう。

5、まとめ

賃借人による家賃滞納が発生した場合、オーナーとしては敷金充当・未払賃料請求・賃貸借契約解除などの対処法を取ることが可能です。

いずれも法令や賃貸借契約の規定に従って行う必要があり、要件を満たさない場合には違法となったり、思うような結果が得られなかったりするおそれがあります。

そのため、実際に家賃滞納への対処法を検討する際には、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスにご相談ください。
弁護士が具体的な状況を丁寧に分析したうえで、適切な対処法についてご助言を差し上げます。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています