「野菜」「手押し」は違法薬物の隠語。 所持・使用・売買で問われる罪

2021年04月22日
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「野菜」「手押し」は違法薬物の隠語。 所持・使用・売買で問われる罪

千葉県警察のデータによると、令和元年中の千葉県内における薬物犯罪の送致件数は、覚醒剤取締法違反が665件、大麻取締法違反が150件、麻薬および向精神薬取締法違反が45件でした。

インターネット(特にTwitter(ツイッター)などのSNS)上では、「野菜」「手押し」「アイス」などの隠語を用いて、違法薬物に関する裏取引が横行しています。
違法薬物の取引は、各種の規制法によって厳罰に処されますので、軽い気持ちで手を出してはいけません。

この記事では、違法薬物に関して成立する犯罪や刑事罰の内容などを中心に、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「犯罪の概要 令和元年」(千葉県警察)23頁)

1、違法薬物の取引では隠語が使われている

違法薬物取引の現場では、捜査機関による監視の目を逃れるため、さまざまな隠語が用いられます。

たとえば、薬物自体を表す隠語としては、以下のものが知られています。

・覚せい剤
→エス、スピード、シャブ、アイス、アッパー、ラッシュ、クラッシュなど

・大麻
→マリファナ、葉っぱ、草、チョコ、野菜、ドライフルーツなど

・LSD
→アシッド、ペーパー、ドラゴンなど

・MDMA
→エクスタシー、E(イー)など

・コカイン
→クラック、コーク、ホワイトなど

・ヘロイン
→スマック、ジャンク、ホースなど


また、当事者同士が待ち合わせて対面取引で違法薬物を販売することを「手押し」と呼ぶなど、取引に伴う行為を表す隠語も存在しているようです。

もし会話の最中に上記のような隠語を耳にした場合、違法薬物への警戒を強めることが大切です。

2、違法薬物の売買で問われる罪

違法薬物の売買取引は、各種の法律で厳しく規制されています。
違法薬物を規制する代表的な法律は以下の三つです。

①覚醒剤取締法
覚醒剤の使用、所持、譲渡・譲受(取引)などを規制する法律です。

②大麻取締法
大麻の所持、譲渡・譲受(取引)などを規制する法律です。

③麻薬及び向精神薬取締法
覚せい剤・大麻以外の違法薬物を全般的に規制する法律です。
LSDやMDMAなども規制対象に含まれます。


これらの規制法に照らして、違法薬物の売買などに関して、具体的にどのような犯罪が成立するかについて見てみましょう。

  1. (1)違法薬物の譲渡・譲り受けは重罪

    違法薬物の売買取引を行った当事者は、販売者・購入者ともに重罪となります
    違法薬物の譲渡・譲り受けについて科される法定刑は、以下の表のとおりです。

    違法薬物の譲渡・譲り受けの法定刑(営利目的なし)
    覚せい剤取締法 10年以下の懲役(同法第41条の2第1項)
    大麻取締法 5年以下の懲役(同法第24条の2第1項)
    麻薬及び向精神薬取締法 ジアセチルモルヒネ等(ヘロイン等) 10年以下の懲役(同法第64条の2第1項)
    上記以外の麻薬 7年以下の懲役(同法第66条第1項)
    向精神薬(譲渡のみ) 3年以下の懲役(同法第66条の4第1項)


    なお、営利目的による譲渡・譲り受けについては、以下のとおりさらに刑が加重されます。

    違法薬物の譲渡・譲り受けの法定刑(営利目的あり)
    覚せい剤取締法 1年以上の有期懲役又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金(同法第41条の2第2項)
    大麻取締法 7年以下の懲役又は情状により7年以下の懲役及び200万円以下の罰金(同法第24条の2第2項)
    麻薬及び向精神薬取締法 ジアセチルモルヒネ等 1年以上の有期懲役又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金(同法第64条の2第2項)
    上記以外の麻薬 1年以上10年以下の懲役又は情状により1年以上10年以下の懲役及び300万円以下の罰金(同法第66条第2項)
    向精神薬(譲渡のみ) 5年以下の懲役又は情状により5年以下の懲役及び100万円以下の罰金(同法第66条の4第2項)
  2. (2)売買目的の輸入・輸出・製造はさらに厳罰

    違法薬物の売買を目的として、違法薬物を海外から輸入・海外へ輸出・製造した場合、単純に売買を行った場合よりもさらに刑が重くなります
    違法薬物を売買目的で輸入・輸出・製造した場合の法定刑は、以下の表のとおりです。

    違法薬物の売買目的での輸入・輸出・製造の法定刑(営利目的なし)
    覚せい剤取締法 1年以上の有期懲役(同法第41条第1項)
    大麻取締法 7年以下の懲役(同法第24条第1項)
    麻薬及び向精神薬取締法 ジアセチルモルヒネ等 1年以上の有期懲役(同法第64条第1項)
    上記以外の麻薬 1年以上10年以下の懲役(同法第65条第1項第1号)
    向精神薬 5年以下の懲役(同法第66条の3第1項)


    さらに、営利目的がある場合には、以下のとおり刑が加重されます。

    違法薬物の売買目的での輸入・輸出・製造の法定刑(営利目的あり)
    覚せい剤取締法 無期または3年以上の懲役又は情状により無期または3年以上の懲役及び1000万円以下の罰金(同法第41条第2項)
    大麻取締法 10年以下の懲役又は情状により10年以下の懲役及び300万円以下の罰金(同法第24条第2項)
    麻薬及び向精神薬取締法 ジアセチルモルヒネ等 無期または3年以上の懲役又は情状により無期または3年以上の懲役及び1000万円以下の罰金(同法第64条第2項)
    上記以外の麻薬 1年以上の有期懲役又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金(同法第65条第2項)
    向精神薬 7年以下の懲役又は情状により7年以下の懲役及び200万円以下の罰金(同法第66条の3第2項)

3、違法薬物の所持・使用で問われる罪

次に、各種違法薬物の所持・使用行為について科される法定刑について見てみましょう。

  1. (1)単純所持も厳しく罰せられる

    違法薬物は、自分で使う目的などで、単に所持しているだけでも犯罪になります

    違法薬物の単純所持行為について科される法定刑は、以下の表のとおりです。

    違法薬物の所持の法定刑(営利目的なし)
    覚せい剤取締法 10年以下の懲役(同法第41条の2第1項)
    大麻取締法 5年以下の懲役(同法第24条の2第1項)
    麻薬及び向精神薬取締法 ジアセチルモルヒネ等 1年以上の有期懲役(同法第64条第1項)
    上記以外の麻薬 1年以上10年以下の懲役(同法第65条第1項第1号)
    向精神薬(譲渡目的の場合のみ) 3年以下の懲役(同法第66条の4第1項)
  2. (2)営利目的所持はさらに刑が加重

    さらに、後に違法薬物を第三者に有償で販売する目的を有するなど、営利目的を持って違法薬物を所持している場合は、さらに刑が加重されます

    違法薬物の所持の法定刑(営利目的あり)
    覚せい剤取締法 1年以上の有期懲役又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金(同法第41条の2第2項)
    大麻取締法 7年以下の懲役又は情状により7年以下の懲役及び200万円以下の罰金(同法第24条の2第2項)
    麻薬及び向精神薬取締法 ジアセチルモルヒネ等 1年以上の有期懲役又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金(同法第64条の2第2項)
    上記以外の麻薬 1年以上10年以下の懲役又は情状により1年以上10年以下の懲役及び300万円以下の罰金(同法第66条第2項)
    向精神薬(譲渡目的の場合のみ) 5年以下の懲役又は情状により5年以下の懲役及び100万円以下の罰金を併科(同法第66条の4第2項)
  3. (3)大麻以外は使用行為自体も罰せられる

    覚せい剤と麻薬については、違法薬物の使用(施用)行為自体も処罰の対象となっています。

    違法薬物の使用の法定刑(営利目的なし)
    覚せい剤取締法 10年以下の懲役(同法第41条の3第1項第1号)
    麻薬及び向精神薬取締法 ジアセチルモルヒネ等 10年以下の懲役(同法第64条の3第1項)
    上記以外の麻薬 7年以下の懲役(同法第66条の2第1項)


    さらに、営利目的による使用の場合には、以下の表のとおり刑が加重されます。

    違法薬物の使用の法定刑(営利目的あり)
    覚せい剤取締法 1年以上の有期懲役又は情状により1年以上の有期懲及び500万円以下の罰金(同法第41条の3第2項)
    麻薬及び向精神薬取締法 ジアセチルモルヒネ等 1年以上の有期懲役又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金(同法第64条の3第2項)
    上記以外の麻薬 1年以上10年以下の懲役又は情状により1年以上10年以下の懲役及び300万円以下の罰金(同法第66条の2第2項)


    これに対して、大麻と向精神薬については、使用行為自体が処罰の対象とはなっていません

4、薬物犯罪で逮捕された場合の流れ

薬物犯罪で逮捕された場合、その後起訴前勾留と併せて、最大で23日間の身柄拘束が行われます

その後、検察官が捜査の結果を踏まえて起訴・不起訴の判断を行いますので、被疑者にとっては、身柄拘束期間中の活動も重要な意味を持ちます。

たとえば反省の態度をアピールする、家族などから更生に向けた監督を約束してもらうなどが考えられますが、身柄拘束をされたままでは、これらの活動を満足に行うことはできません。

そのため、万が一薬物犯罪で逮捕されてしまった場合には、いち早く弁護士に相談して、上記の活動を行うことが大切です。

さらに、検察官により起訴された場合には、その後も原則として、公判が始まるまで身柄拘束が継続します。

起訴後は、保釈請求による身柄解放や、公判手続きに向けた準備など、被告人としてやるべきことがたくさん発生します

事前に弁護士に依頼しておけば、これらの活動へとスムーズに取り組むことができます。薬物犯罪で逮捕されてしまった場合には、お早めに弁護士にご相談ください。

5、まとめ

カジュアルな隠語を入り口として、軽い気持ちで違法薬物に手を染めてしまうと、身体がボロボロになってしまうばかりでなく、刑事手続きによる重大な制裁を受けることになってしまいます。

もし違法薬物関連の罪に問われ、捜査機関に逮捕された場合には、速やかにベリーベスト法律事務所 千葉オフィスにご相談ください。

依頼者が刑事手続きで不利益を受けないように、また違法薬物への依存からいち早く脱却できるように、法律の専門家として親身になってサポートいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています