車上荒らしをしてしまった場合、どのような罪に問われるの?
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千葉県警の発表によると、千葉県内で令和元年中に認知された車上荒らし(車上ねらい)の件数は、2353件で、前年より399件減少しました。
ここ5年間で最少件数となったとはいえ、ショッピングセンターなどの駐車場で「車上荒らしにご注意」といった看板や貼り紙を見かけることも少なくないでしょう。
また4割以上が、無施錠で被害にあっています。カギがかかっていない車の座席にバッグがあって、つい出来心で犯行に及ぶケースもあるかもしれません。
もしも「あなたの家族が車上荒らしをしたので、逮捕しました」と、警察から連絡が来たら、だれでも慌ててしまうはずです。そのようなとき、まず何をすべきなのかご存じでしょうか。
ここでは、車上荒らしはどのような刑罰を受けるのか、また逮捕された後の流れについて、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、車上荒らし行為で問われる可能性がある罪
「車上荒らし」は駐車中の車内から金品を盗む行為です。警察の統計では「車上ねらい」と記載されることが多いです。
ドラッグストアやスーパーマーケットなどの店舗の駐車場、月極め駐車場だけでなく、空き地や路上などに駐車していた車の中から金品を盗むケースが多くみられます。
他人の車から金品を奪えば刑法の「窃盗罪」に該当する可能性が高いでしょう。また、態様によっては「器物損壊罪」に問われるケースもあります。ここではそれぞれの罪について解説します。
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(1)窃盗罪
窃盗罪は、刑法第235条によって「他人の財物を窃取した者」を罰する罪です。
法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金と定められています。
未遂に終わった場合も窃盗未遂罪に問われる可能性があります。未遂でも法定刑は同じです。
元来、窃盗罪はお金がない者が行う犯罪だと考えられてきたため、財産刑である罰金刑は有効ではないとされ、懲役刑のみが規定されていました。
ところが、近年では商品代金を持ち合わせているのに窃盗をはたらいてしまうケースが非常に多いため、平成18年の刑法改正によって罰金刑も科せられることとなりました。 -
(2)器物損壊罪
車上荒らしでは、犯行のために車の窓ガラス等を破壊するケースが多々あります。
その場合は刑法第261条の器物損壊罪も成立する可能性があります。
条文では、「他人の物を損壊し、又は傷害した者」は「3年以下の懲役」または「30万円以下の罰金」もしくは「科料(かりょう)」に処するとされています。
科料とは、1万円未満の金銭を強制的に徴収する刑罰です。
2、車上荒らし、窃盗罪と器物損壊罪は同時に成立する?
たとえば、車の窓ガラスやキーシリンダーを破壊して車内の金品を盗んだ場合、窃盗罪と器物損壊罪は同時に問われるのでしょうか。
刑法では、犯罪の手段もしくは結果である行為が別の犯罪に該当する場合、もっとも重い刑で処断されます(刑法第54条1項後段)。これを「牽連(けんれん)犯」といいます。
車上荒らしの態様が、施錠されている車の窓ガラスやキーシリンダーを破壊して車内の金品を盗んだ場合等のように、窃盗行為と器物損壊行為が目的と手段の関係にある場合には、個別にみると窃盗罪と器物損壊罪の両方が成立するようにみえますが、刑罰が重い窃盗罪のみに問われることが多いでしょう。
3、車上荒らしで逮捕されるケース
車上荒らしは、同一犯が何件も犯行を重ねるケースが少なくなく、計画的犯行であると考えられることが多いものです。
もし、警察の捜査によって車上荒らしの犯人として疑われた場合、逮捕によって身柄を拘束される可能性は多いにあり得るでしょう。
ここでは、逮捕の種類や逮捕後の手続きの流れを解説します。
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(1)現行犯逮捕されるケース
犯行現場に居合わせた警察官が、現に犯行を行っている最中の犯人、または現に犯行を行い終わった直後の犯人を取り押さえた場合、現行犯逮捕になります。
特に、特定のエリアで連続して犯行に及んでいれば捜査員が張り込み捜査をしていることが多く、現行犯逮捕されるケースも少なくありません。
また、現行犯逮捕は警察官だけでなく一般人にも認められています。
たまたま周囲で犯行を目撃した人に取り押さえられ、身柄を確保された場合は「私人の現行犯逮捕」または「常人逮捕」とも呼ばれます。
犯人は、通報を受け現場に到着した警察官に引き渡されることとなります。 -
(2)逮捕状によって逮捕されるケース
犯行を目撃されなかった場合でも、警察の捜査により逮捕に至るケースももちろんあります。
警察は、聞き込み、ドライブレコーダーの記録、周辺の防犯カメラの記録、指紋などの鑑識資料などから「この人物が犯人だ」と疑うに足りる十分な証拠が集まったら、その証拠とともに裁判官に対し逮捕状の請求を行います。
裁判官は、その証拠から、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、逮捕の必要性もあると認めた場合、逮捕状を発付します。
逮捕状の発付を受けて、警察官は被疑者の自宅などに赴き、被疑者に対し逮捕状の内容を明らかにした上で身柄を拘束します。
4、逮捕された後の流れ
逮捕されると、次のような流れで刑事手続きが進みます。
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(1)警察での取り調べ
警察署に連行され、警察官による取り調べを受けて、供述調書が作成されます。
この間、原則として家族であっても面会することはできません。
ただし弁護士であれば原則としていつでも接見することが可能です。 -
(2)検察官への送致
警察は逮捕から48時間以内に、検察官に事件を送致します。
被疑者の身柄ごと検察官に送致する場合と、事件書類のみを送致し被疑者の身柄は釈放する場合(在宅事件扱い)に分かれます。 -
(3)勾留(こうりゅう)
被疑者の身柄ごと検察官に送致された場合、検察官は、被疑者の身柄を受け取った時から24時間以内かつ被疑者の逮捕から72時間以内に、裁判官に対し引き続き身柄を拘束する「勾留」を請求するか判断します。勾留が認められれば原則10日間、最長20日間の身柄拘束を受けます。
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(4)起訴・不起訴の判断
検察官は勾留満期までに刑事裁判を提起するかを判断し、刑事裁判によって刑罰に問う必要があると判断すれば起訴します。
刑罰に問う必要がないと判断されれば不起訴となり、身柄は釈放され、自宅に帰ることができます。
起訴のうち、略式起訴をされたときは、書類上の手続きのみで罰金刑に処されることになります。この場合、身柄は釈放されますが、罰金刑は有罪を意味しますから、前科がつくことになります。
起訴され刑事裁判が開かれる場合、起訴後は、保釈請求が認められれば、保釈金を納めることで自宅に帰ることができます。 -
(5)裁判・判決
裁判所で刑事裁判が開かれます。
裁判官は、検察官の主張と弁護人の主張をそれぞれ聞いて証拠を検討した上で有罪か無罪かを判断します。判決により有罪であれば刑罰が言い渡されます。
5、家族が逮捕されたときにできる対応方法
ご家族が車上荒らしを犯してしまった場合は、どうすればよいのでしょうか?
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(1)弁護士に相談
家族が犯罪に手を染めたかもしれない、と気づいた場合は、すぐに弁護士に相談しましょう。現時点で逮捕されていなくとも、いつ捜査の手が伸びるか分かりません。
自首や示談などの対策を講じることで、将来への影響を最小限にとどめるための対策を打つべきです。
また、もし逮捕されてしまっても、弁護士は取り調べの対策を共に考えたり、家族との連絡役をつとめたりすることで、被疑者の権利を保護し、精神的にサポートします。初犯であれば、適切な弁護により微罪処分や不起訴処分になる可能性もあります。
早期釈放を目指すためにも、嫌疑がかけられた時点で弁護士に依頼することをおすすめします。 -
(2)示談交渉
逮捕や重すぎる刑罰を回避するもっとも有効な解決策は、被害者との示談です。
示談とは、当事者同士で事件の解決をはかることであり、被害者に対して、加害者の謝罪と賠償を受け入れ刑事罰を望まないという意思を示談書で示してもらうことを目的とします。
ただし、示談交渉は加害者が直接行うことは被害者の処罰感情をより刺激してしまう可能性もあるため、第三者である弁護士に交渉を依頼したほうが成立する可能性が高まります。弁護士を介して被害者に謝罪し、示談金を支払うことで、警察への届け出を思いとどまってもらうことが期待できる場合もあるでしょう。
もし警察に被害届を提出した後でも、逮捕された場合であっても、示談は可能です。
示談によって、被害者が処罰を望んでいないことを示すことができれば、警察の捜査や逮捕後の手続きが終了して不起訴となる可能性を高めることができるでしょう。
6、まとめ
車上荒らしの罪は、場合によっては非常に重くなります。悪質な犯罪グループによる組織的犯行であるケースも少なくないため、警察も厳正に対処する傾向があるのです。
また、車に対する犯罪は防犯カメラやドライブレコーダー、指紋など証拠が残りやすいため、その場は逃げおおせたと思っていても、突然逮捕されてしまうことも十分に予想されます。
あなたのご家族が車上荒らしに関わってしまったのならば、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスにご相談ください。
重すぎる罪が科されないよう、刑事事件の経験が豊富な弁護士がサポートします。
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