金融商品取引法違反の行為とは? インサイダー取引や罰則などを解説
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- 金融商品取引法違反
千葉県警察の統計によると、令和5年中の千葉県内における刑法犯の認知件数は3万7538件でした。
株取引などを行う人は、金融商品取引法(旧:証券取引法)のルールを知っておかなければなりません。金融商品取引法では、市場の公正を確保し、投資家を保護するため、有価証券取引やデリバティブ取引についてさまざまなルールを定めています。金融商品取引法違反を犯してしまうと、刑事罰や課徴金の対象となるおそれがあるため、正しい知識を身に着けておきましょう。
本コラムでお伝えすることは、大きく以下の2つです。
・金融商品取引法違反に当たる個人の行為
・金融商品取引法に違反した個人に科されるペナルティー
金融商品取引法のルールを知りたい方や、金融商品取引法違反の行為に手を染めてしまった方に向けて、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「刑法犯罪種別認知件数」千葉県警察本部)
1、金融商品取引法とは?
金融商品取引法とは、「有価証券などの取引の公正を確保し、その円滑な流通や公正な価格形成等を促進し、もって経済の健全な発展と投資者の保護に図ること」を目的とした法律です。
株・投資信託・仕組み商品などの金融商品への投資は、投資家の自己責任であると語られるケースが多いかもしれません。
しかし、業者や有価証券の発行会社と、一般投資家の間の情報格差は埋めがたいものがあります。
また、投資に有利な情報を手に入れやすいポジションにいる人と、そうでない人の間では、やはり同じ土俵で公正に競争するという前提は成り立ちません。
そこで金融商品取引法では、金融商品取引業者・有価証券の発行会社・投資に有利な情報を手に入れやすい人(インサイダー)などを対象として、一般投資家に対する搾取を防ぐためのさまざまな仕組みを設けています。
つまり金融商品取引法は、金融商品取引市場における関係者間の情報格差を是正し、「自己責任」による投資の前提となる土台を整備することを目指して制定された法律といえるでしょう。
2、金融商品取引法による規制の対象範囲
金融商品取引法によってどのような取引が規制されるのか、具体的にどのような規制が敷かれているのかについて、大まかな枠組みを理解しておきましょう。
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(1)有価証券取引とデリバティブ取引が規制対象
金融商品取引法によって規制されているのは、「有価証券」の取引と「デリバティブ取引」です。
① 有価証券
「有価証券」とは、金融商品取引法第2条第1項に列挙された証券・証書(1項有価証券)をいい、代表的なものは以下のとおりです。- 国債証券
- 社債券
- 株券
- 新株予約権証券
- 投資信託の受益証券
- 約束手形 など
なお現実には、上記の証券について券面が発行されていないケースも多いところです。
そのため、券面(証券)不発行の場合には、権利自体が「有価証券」とみなされることになっています(同条第2項前段)。
さらに、以下の権利については、「みなし有価証券(2条2項)」として、1項有価証券に準じて規制されています(同項後段)。- 信託の受益権(外国法に基づくものを含む)
- 合名会社若しくは合資会社の社員権
- 外国法人の社員権
- 組合契約、匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)
- 特定電子記録債権 など
② デリバティブ取引
「デリバティブ取引」とは、市場デリバティブ取引、店頭デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引の総称となります(法2条20項)。
差金決済の仕組みを有する金融派生商品(仕組み商品)を意味し、先物取引・オプション取引・スワップ取引の3つの取引類型に分けて捉えることもできます。 -
(2)金融商品取引法による規制の全体像
金融商品取引法では、市場の参加者に向けた規制として、主に以下のカテゴリーに分類される規制を定めています。
① 開示規制
上場会社の株式等は、不特定多数の投資家による投資の対象となります。
投資家が、金融商品の投資適格性を適切に判断するためには、十分な情報へのアクセス確保が必要不可欠です。
そこで金融商品取引法では、上場会社等を対象として、企業情報の開示に関するルールを詳細に定めています。
② 業規制
有価証券の売買・デリバティブ取引やそれらの媒介・取り次ぎ・代理、さらに投資助言や一任運用などを行い、投資家と市場の中間者となる金融商品取引業者については、投資家から不当な搾取を行わないように規制する必要があります。
金融商品取引法では、金融商品取引業を原則として登録制とし、金融商品取引業者に厳しい行為規制を設けて、投資家からの搾取を防止しています。
③ 不公正取引規制(インサイダー取引規制)
会社の内部者など、投資判断に影響を与える重要情報を得やすいポジションにいる人が、他の投資家に先回りして有価証券の売買やデリバティブ取引をする行為は、市場の公正を著しく阻害します。
金融商品取引法では、こうした抜け駆け的な行為を「インサイダー取引」として規制し、刑事罰の対象としています。
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3、金融商品取引法によって禁止される主な個人の行為
金融商品取引法の中で、個人の方が気を付けなければならない主な禁止行為は、以下のとりです。
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(1)無登録での金融商品取引業
金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができません(金融商品取引法第29条)。
金融商品取引業には、以下の4種類があります。- ① 第一種金融商品取引業
主に証券会社が営む業務で、1項有価証券の募集・私募、業としての有価証券売買、他人のために有価証券の売買を媒介・取り次ぎ・代理する行為などが含まれます。 - ② 第二種金融商品取引業
2項有価証券の募集・私募などが含まれます。 - ③ 投資助言・代理業
有価証券の価値などについて、報酬を受けて助言をする行為などが含まれます。 - ④ 投資運用業
顧客から投資判断を一任され、顧客資産を自ら運用する行為などが含まれます。
個人の方の中には、金融ビジネスを始めようと考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかしその場合には、予定している業務が金融商品取引業に該当するかどうかをきちんと確認する必要があります。
そのうえで、該当する登録を持っている企業とタイアップするなどの対応が必要です。 - ① 第一種金融商品取引業
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(2)損失補塡の要求
「損失補塡(ほてん)」とは、金融商品取引業者等が、顧客に生じた損失や実現しなかった利益を埋め合わせるために金銭等を支払うことをいいます。
金融商品取引法第39条第1項では、金融商品取引業者等が顧客の損失補填を行うことを禁止しています。
さらに、顧客の側でも、かかる損失補填を金融商品取引業者に対して要求する行為が禁止されているのです(同条第2項)。
投資の結果が悪かったことについて不満を持つのは仕方がありませんが、それを晴らすために、融商品取引業者等に対して損失補填を要求するのは違法金になります。
なお、金融商品取引業者等の側に何らかの違法・不当な行為、例えば義務違反(説明義務違反、適合性原則違反)などがあった場合に、顧客の損失を賠償(補償)することは、損失補填に該当せず適法です。 -
(3)インサイダー取引等
会社の役員・従業員などの関係者や、公開買い付けの関係者が、その職務等に関して、投資判断に影響を及ぼす重要事実を知った場合には、公表前に対象となる有価証券等の売買等を行うことが禁止されます(金融商品取引法第166条第1項、第167条第1項)。
これを「インサイダー取引の禁止」といいます。
さらに、上記の会社関係者・公開買い付け者等関係者(法166条1項参照)は、他人に利益を得させ、または損失を回避させる目的で、知るに至った重要事実を他人に伝達したり、対象となる有価証券等の売買等を勧めたりしてはいけません。
これを「未公表の重要事実の伝達等の禁止」といいます(法167条の2)。
自分だけが投資に有利な情報を得たことに興奮してしまう気持ちもわかりますが、インサイダー取引規制の内容を思い出して、不公正取引に手を染めるのは思いとどまりましょう。
4、金融商品取引法に違反した個人に科されるペナルティー
個人が金融商品取引法違反を犯した場合、刑事罰や課徴金の制裁が科されてしまいます。
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(1)刑事罰
金融商品取引法違反の行為は、刑事罰の対象となります。
すでに紹介した個人の各禁止行為については、以下の罰則が設けられています。
なお、法人は罰金の金額が異なりますのでご注意下さい。無登録での金融商品取引業 5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、または併科(金融商品取引法第197条の2第10号の4) 損失補填の要求 1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、または併科(同法第200条第14号) インサイダー取引等 5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、または併科(同法第197条の2第13号~第15号)
※未公表の重要事実の伝達等については、伝達先の他人が実際にインサイダー取引を行った場合に限ります。 -
(2)課徴金
インサイダー取引規制に違反した個人には、刑事罰とは別の行政処分として「課徴金」の納付が命じられます(金融商品取引法第175条第1項、第2項、第175条の2第1項、第2項)。
インサイダー取引規制違反の場合、課徴金の額は、「重要事実公表後2週間の最高値×買付等数量」から「重要事実公表前に買付け等した株券等の価格×買付等数量」を控除する方法等により算出されます。そのため、基本的にはインサイダー取引によって得た利益の全額となります。
インサイダー取引は、証券取引等監視委員会によって常に監視されているので、利益を持ち逃げできるとは考えないようにしましょう。
5、まとめ
有価証券取引やデリバティブ取引を行う以上は、思いがけず犯罪に手を染めないようにするため、金融商品取引法のルールを知っておくことが大切です。
もし知り合いからインサイダー情報を伝えられたり、その他金融商品取引法違反の行為をするようすすめられたりした場合には、正確な知識を基に、断固として断りましょう。
万が一、金融商品取引法違反の行為に手を染めてしまった場合には、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスにご相談ください。
その後の対処法について、親身になってアドバイスいたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています