万引きも窃盗罪? 窃盗罪の概要や示談について弁護士が解説
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平成30年1月、千葉県千葉市内のスーパーで時価2万8000円相当の食品を万引きしたとして、育児休業中だった女性が窃盗容疑で書類送検された事件が発生しました。後日、女性は停職6ヶ月の懲戒処分を受け、依願退職したと報道されています。
該当のケースではやや金額が大きいですが、万引きといえば、「100円程度の商品を盗んでしまう」というイメージが多いものでしょう。被害が少額であるがゆえに、「万引き程度なら犯罪ではない」、「万引きが見つかっても、ちゃんとお金を払えば大丈夫」などという認識を持つ方も少なからずいるようです。
しかし、「万引き」は言うまでもなく犯罪です。冒頭の事件のように、窃盗の罪が問われ、処罰を科されることになります。
そこで今回は、窃盗罪の概要や罰則、逮捕後の流れや示談交渉の進め方などについて、千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、窃盗罪とはどのような犯罪?
繰り返しになりますが、万引きは犯罪です。盗んだ物が少額の商品だったとしても、刑法で規定された「窃盗罪」が成立します。
では、窃盗罪とはどのような犯罪なのでしょうか。あらためて、その概要や要件について知っておきましょう。
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(1)窃盗罪の定義
窃盗罪は刑法第235条に規定されている犯罪です。条文では「他人の財物を窃取した者」が窃盗の罪と定義することが明示されていることから、他人・財物・窃取という各要件を満たすことが窃盗罪を構成していることがわかります。
「他人」とは、まさに自分を除く人のことです。次に「財物」とは、金銭的な価値がある物とされています。そして「窃取」とは、本来は「こっそりと盗み取る」という意味の言葉ですが、法的には「ひったくり」など、堂々と盗む手口も含まれます。
この、他人・財物・窃取の全ての要件を満たす場合に、窃盗罪が成立することになります。つまり、万引きは、「『他人』が管理する『商品』をこっそり『盗み取る』行為」であるため、窃盗罪に該当することは、ご理解いただけるでしょう。
なお、一般的には換金価値がなくても持ち主だけが価値を感じている物や、けん銃や覚せい剤などのように所持することが禁じられている禁制品であっても「財物」に該当するとされています。さらに、「管理可能な物」である、電気も財物に含まれます。つまり、こっそり店舗の電源を借りてスマートフォンの充電をする行為も、窃盗に該当する可能性があるということです。十分に注意してください。 -
(2)窃盗罪の罰則
窃盗罪の罰則は、刑法第235条の規定によって「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」とされています。
かつては「お金がないからこそ窃盗を犯す」と考えられて、罰金刑の規定がありませんでした。ところが、最近では、十分な金銭が入った財布を所持しながらもスリルを味わったり、さみしさを紛らわせたりするために窃盗を繰り返す被疑者が増加したことから、平成18年の改正によって罰金刑が追加されました。
さまざまな調査や研究の結果、万引きをはじめとした窃盗を繰り返してしまう精神疾患「クレプトマニア」なども存在することも明らかになりつつあります。もし、万引きを繰り返すようでしたら、精神科のクリニックなど、専門機関に頼ることも必要でしょう。 -
(3)窃盗罪の時効
窃盗罪の時効は7年です。犯罪が発生した日から起算して7年が経過すると、検察官が公訴を提起することができなくなります。
公訴が提起できなくなるということは、裁判を開けないため、刑罰を受けることがなくなります。とはいえ、万引きで逮捕されてしまう状況から逃れるために、7年も罪の意識を抱えて、もしくはビクビクしながら過ごすことは、負担が大きく、けして容易ではないはずです。早期に謝罪し、罪を償ったほうが、精神衛生面にも有効かと思われます。まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。
2、窃盗罪で逮捕される可能性は?
「『逮捕』されなければ、罪は裁かれない」と考えていませんか? しかし、実のところ「逮捕」とは、捜査のためとはいえ、個人の身柄を拘束するという特別な処分です。つまり、窃盗罪においても、発覚すれば必ず「逮捕」されるというわけではありません。
警察などの統計では、事件が起きたことを警察が把握することを「認知」と呼びます。認知した事件は、捜査に着手し、罪を犯した疑惑がある「被疑者」を特定します。警察は、被疑者を特定すると、逮捕を含めた取り調べを行うことになりますが、これを「検挙」と呼んでいます。
窃盗罪と逮捕の関係を解説しましょう。
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(1)逮捕されないケース
窃盗罪は、身柄の拘束が伴う「逮捕」には至らず、「在宅事件扱い」として刑事手続きを受けるケースも珍しくはありません。冒頭でご紹介した事例でも、「逮捕された」という報道はありません。署で事情を聞かれたあと「書類送検」されているとのことです。
もし、あなたやあなたの家族の万引きが、店舗の従業員に露呈したとき、現場で声をかけられる可能性があります。その後、素直に罪を認めて警察の事情聴取などにも応じれば、身柄の拘束は受けないまま捜査が進められる可能性が出てくるでしょう。
また、犯行現場では露呈せず、誰にも声をかけられずに帰宅できたとしても、安心はできません。後日、防犯カメラの映像などを証拠として、店舗が被害届を出すこともあります。すると警察は、まずは被疑者となったあなたやあなたの家族に「事情聴取のため、出頭してください」などと連絡して、任意聴取の要請を行います。もちろん任意ですから、拒否することも可能ですが、かたくなに拒否をしたり、逃亡・証拠隠滅の危険性をうかがわせたりすると、逮捕に至る可能性がある点に注意が必要です。
もし、任意聴取に応じるときに不安があれば、弁護士に同行を依頼することも可能です。犯行の自覚があるときは、素直に罪を認め、反省の態度をみせれば、冒頭の事件のように「書類送検」され、身柄が拘束されない「在宅事件扱い」として捜査が進む可能性が高くなります。状況によっては、「微罪処分」もしくは「不起訴」となり、前科がつくことを回避できる可能性が高まります。 -
(2)逮捕されるケース
身柄を拘束する「逮捕」をするためには、刑事訴訟法によって、特定の条件が定められています。警察が逮捕する権利を乱用しないよう、基本的には、「逮捕状がなければ逮捕はできない」ということになっているのです。
「通常逮捕」と呼ばれる逮捕では、原則にのっとり、犯行の後日、逮捕状を発行したうえで逮捕に至ることになります。万引きのケースでは、たとえば、防犯カメラの録画映像などを根拠に、身元の特定に至り、逮捕される……ということになります。
また、警察が、証拠を基に出頭や任意聴取を求めても、犯行が明らかであるにもかかわらず強く否認している、逃亡・証拠隠滅する危険性があると判断したときは、裁判所から逮捕状の発付を受け、通常逮捕に至ることになります。
一方、ドラマやニュースなどでよく耳にする「現行犯逮捕」は、本来、さらに特別な措置です。万引きのケースでは、犯行中もしくは犯行直後に身柄を取り押さえられたときは、「現行犯逮捕」となります。
現行犯逮捕は、犯行が明らかであることが大前提となる逮捕方法です。刑事訴訟法第213条によって、逮捕状がなくても、警察ではなく私人であっても身柄の拘束ができると定めています。もし万引きをした被疑者が抵抗したときや、逃げようとしたときなど、警備員や店員が、警察官の到着を待たずに身柄を取り押さえることができます。
3、万引きによる窃盗罪で逮捕されたあとの流れ
窃盗罪に限らず、刑法犯として逮捕されると、刑事訴訟法に定められた手順にのっとり、次のようなプロセスで刑事手続きを受けることになります。
- 警察の「逮捕」による48時間以内の身柄拘束
- 送致後、検察官による24時間以内の身柄拘束
- 「勾留(こうりゅう)」による原則10日間、最大で20日間の身柄拘束
- 起訴後、被告人として結審までの勾留
もし窃盗罪で逮捕されたあと、書類手続きによって裁判を行う「略式請求」という形で起訴されれば、最大で23日間の身柄拘束を受けることになります。
正式な刑事裁判で裁くことを求める「公判請求」として起訴されると、傍聴人と呼ばれる一般人も自由に傍聴できる、公開された裁判で、その罪が裁かれます。刑事事件の多くは、およそ月に1回開催され、数回の裁判が行われます。罪を認めている、窃盗のほかに問われる罪がないときなどは、2回で判決が下りることもあるでしょう。
なお、公判請求を受けたときは、判決が下りるまでは、保釈請求が認められるまで、身柄の拘束を受け続けることになります。
つまり、逮捕されてしまうと、1日から数ヶ月単位で外の社会からは隔離されてしまう可能性が高いということです。会社や学校など、日常生活への影響を考えると、1日でも早く身柄の拘束を解くことが重要なポイントとなるでしょう。
4、窃盗事件を示談で解決するメリットと示談の方法
刑事事件における「示談(じだん)」とは、犯人と被害者が話し合いで事件を解決することを指します。窃盗事件を示談で解決するメリットは、まずは犯人側・被害者側の双方が、煩わしい刑事手続きの負担を軽減できるという点が挙げられます。被害者にとっては、被害状況の事情聴取などは大きな負担になりますし、犯人にとってもつらい身柄拘束と取り調べを回避することができます。
- 加害者が被害者へ渡すもの
賠償請求、謝罪、商品の買い取りなど - 被害者が加害者に渡すもの
被害者による「処罰を望まない」「罪は許した」などの明確な言葉
示談を成立させておくことによって得られるメリットは以下のとおりです。
- 事件化を回避できる可能性がある
- 事件化されていたとしても被害届の取り下げを得ることができる
- 逮捕されていても即時釈放が期待できる
- 起訴されていたとすれば刑罰の軽減が期待できる
なお、逮捕されるまでに示談交渉がまとまれば、逮捕という強力な身柄拘束を回避できるだけでなく、勤務先や周囲への悪影響を未然に防ぐ可能性が高まります。たしかに、加害者側にとって、示談金の支払い負担が発生する点はデメリットかもしれません。しかし、前科がついてしまうなど、今後受けるかもしれない損害を考えれば、さほど大きなものではないはずです。
しかし、万引きに限らず、多くの刑法犯において被害者は加害者と直接交渉することを避ける傾向があります。万引き事件を起こしてしまい、示談による解決を目指したとしても、加害者本人やその家族だけで示談交渉を進めるは難しいでしょう。特に相手が個人ではなく、チェーン店などの店舗であれば、なおさらです。
また、被疑者として逮捕されてしまうと、勾留が決まるまでは、家族とも面会ができないこともあるなど、さまざまな制約があります。逮捕されてしまえば、示談したいと考えても、万引きした本人はもちろん、家族も状況がわからず、交渉ができないのです。
しかし、弁護士であれば、「接見」と呼ばれる面会を自由に行うことが許されています。しかも、あくまでも公平中正な第三者の立場として、被害者と犯人の双方の利益を主張して示談交渉を進めることも可能です。また、被害者の中には、被害者であるという立場に乗じて、不当に高額な示談金を求めてくる者もいます。弁護士に一任していれば、相場や過去の事例に照らして妥当な示談金を提示できるため、余計な負担を回避できるでしょう。
万引きによって逮捕される可能性があるときや、逮捕されてしまったときは、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談することを強くおすすめします。
5、まとめ
ここでは、万引き行為によって問われる「窃盗罪」の概要や要件をおさらいするとともに、窃盗事件を起こしてしまった場合に有効な示談について解説しました。
「わが家の家族に限って……」と思うかもしれませんが、決して人ごとではありません。平成29年度の統計によると、千葉県下で起きた65歳以上の高齢者が犯した罪も、14歳以上の未成年が起こした事件でも、30%以上が「万引き」で検挙されていることがわかっています。
万引きは、お金を持っていてもしてしまう方が多く、しかも、犯行を繰り返す傾向がある犯罪なのです。
万引きをはじめとした、窃盗罪に該当する可能性がある行為をしてしまったなどの悩みを抱えている方は、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。罪が露呈する前に反省し、正式に謝罪すれば、将来に傷がついてしまう事態を避けられる可能性が高まるでしょう。
まずは、ベリーベスト法律事務所・千葉オフィスまでご相談ください。窃盗事件の弁護や示談に精通した弁護士が、お悩みの内容を詳しくうかがい、最適な対応をアドバイスするとともに、適切な弁護活動を行います。
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