時効が近い借金は逃げ切ればOK? 時効の援用と行うべき借金対策とは
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千葉県では、千葉県多重債務問題対策本部を設置し、都道府県の関係部署、警察、弁護士会・司法書士会などが連携し、相談体制の強化およびヤミ金融の撲滅に向けて活動しています。
多重債務に陥っていると、もう返済が不可能だからと借金を踏み倒したい気持ちになることがあるかもしれません。あるいは、かなり前に借りたのだから時効が完成してはいないかと、気になっている方もいるでしょう。今回は、借金と時効の問題に着目し、時効が完成する時期や完成が阻止される事由などについて、千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、借金の時効とは
借金の時効(消滅時効)とは、債権者(お金を貸した人)が債務者(お金を借りた人)に対し、一定期間権利を行使しない事実を尊重し、その権利を消滅させるというものです。したがいまして、本来返すべき借金でも一定期間借金を返さないという事実状態が継続することにより借金の消滅が認められます。一定期間が経過すると、債権者は権利を行使できなくなりますので、債務者はお金を返す必要がなくなるということです。
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(1)借金の時効は何年?
改正前の債権法では民事債権の時効は10年となっていました。友人・知人、家族といった個人からの借金のほか、個人で信用金庫や農協から借り入れる場合や、奨学金なども同様です。
一方、銀行や消費者金融、カード会社などからの借り入れは商事債権といい、5年で時効となっていました。個人が事業用資金として借りたケースのように、借入れ自体に商事性が認められると商事債権として扱われます。
また、飲食料は1年、工事請負代金や診療報酬は3年など、職業別の短期消滅時効も存在していました。 -
(2)債権法の改正について
しかし、令和2年4月1日に施行された改正債権法(民法の一部)では、権利を行使することができる時から10年という時効期間は維持しつつ、権利を行使することができることを知った時から5年という時効期間を追加しました。そのため、時効は下記のいずれか早い方が到来したときに完成します。
- 権利を行使できるときから10年
- 権利を行使できると知ったときから5年
また、時効期間をシンプルに統一化するため、商事債権の時効および短期消滅時効も廃止されました。商事債権の時効は商法に定められていましたが廃止され改正債権法の時効に統一化され、上で述べた飲食料は1年、工事請負代金や診療報酬は3年などの職業別の短期消滅時効も権利を行使できると知った時から5年、権利を行使できる時から10年に統一化されました。
友人からお金を借りる場合、改正前の債権法の規定では、10年で時効となっていましたが、改正債権法により権利を行使できると知った時から5年に短縮されるわけです。ただし、改正債権法は施行日以降の債権が対象となりますので、それより前に借金をした場合の時効は従来どおりの時効の規定が適用されます。 -
(3)時効はいつからカウントするのか
債権者が権利を行使できる日、すなわち債務者に請求することができる日を起算日といいます。初日不算入の原則により請求できる日の翌日から数えます。
返済期日の定めがある場合には、返済期日を過ぎることで、初めて債権者は債務者に返済を請求できるので、滞納が問題となります。つまり、時効は返済期日の翌日から進行します。返済期日の定めがない場合、いつでも返済を請求できるので、借入れをした翌日から進行します。
また、確実に到来する出来事はあるがその到来する日が分からない債務を「不確定期限付債務」といいます。この場合は不確定期限到来日の翌日から消滅時効が進行します。たとえば、退職金が支払われてから返済する約束だった場合、退職金の支払いがあった日の翌日が起算日となります。 -
(4)「援用」が必要
時効は、期日がくれば自動的に完成、すなわち請求することができなくなるわけではありません。「時効が完成したので返済義務はありません」と債権者に伝えなければ時効は完成せず、返済義務を負い続けることになります。これを「時効の援用」といいます。
時効の援用は、配達証明記録をつけた内容証明郵便を用いて通知されることが一般的です。時効の援用は口頭でも成立しますが、言った、言わないの水掛け論になりかねません。配達証明記録をつけることで、相手に郵便物が届けられた日時を、内容証明郵便を使うことで相手に届けられた内容を明確な記録として残すことができます。
2、時効の完成は現実問題として難しい
何年か我慢すれば借金の踏み倒しが可能であるとも思えますが、そう簡単にはいきません。「更新」と呼ばれる、時効の完成を阻止する制度があるからです。今回の改正債権法が施行される前までは「中断」と呼ばれていた制度です。
時効の更新事由が認められますと、これまでの債権者が債務者に対し請求しなかったことによる経過日はリセットされ、改めてゼロからカウントが開始されます。たとえば消費者金融から借金をして4年目に時効が更新されてしまうと、そこから再び5年もの月日が経過しなければ時効は完成しないということです。
3、時効の完成猶予と更新事由
上記に述べましたように、改正債権法が施行されて、改正債権法は改正前の債権法の時効の停止と中断の制度を再編し、新たに時効の「完成猶予」と「更新」の制度を設けました。時効の完成猶予とは本来時効となる期日が訪れても時効の完成を一定期間猶予することをいい、時効の更新とは当初設定した時効期間を無にして代わって新しい時効期間を設定する概念をいいます。以下、完成猶予と更新事由について説明します。
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(1)裁判上の請求等
①裁判上の請求、②支払督促、③裁判上の和解、民事調停・家事調停、④破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加のいずれかの事由が生じますと、時効の完成が猶予されます。
これらの各事由に係る裁判手続きにより権利が確定したときは、各事由の終了まで時効の完成が猶予されたうえで、その事由の終了の時において時効は更新され、時効期間は新たにその進行を始めます。
他方で、確定判決等による権利の確定に至ることなく中途で各事由が終了した場合には、その終了時から6か月を経過するまでは、引き続き時効の完成が猶予されます。 -
(2)強制執行等
①強制執行、②担保権の実行、③形式競売、④財産開示手続等の各事由が生ずれば、その事由の終了まで、時効の完成が猶予されます。そのうえで、その事由の終了の時において時効は更新され、時効期間は新たにその進行を始めます。
ただし、申し立ての取下げ、または法律の規定に従わないことによる取消によってその事由が終了したときは、時効の更新は生じませんが、その終了の時から6か月を経過するまでは、引き続き時効の完成が猶予されます。 -
(3)仮差し押え等
①仮差し押え、②仮処分の各事由があれば、その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は、時効の完成が猶予されます。仮差し押え、または仮処分の各事由には、時効の更新の効果はありません。仮差し押えや仮処分は、民事保全法の手続きに債務名義が不要であり、その後に本案訴訟の提起が予定されていますので、権利の確定に至るまで債務者の財産等を保全する暫定的なものに過ぎないからです。
もっとも、仮差し押え等に引き続いて本案訴訟が提起された場合には、裁判上の請求に該当しますので確定判決によって権利が確定したときは時効の更新の効果が生じます。 -
(4)催告
催告とは、相手方に対し一定の行為を請求することです。催告(裁判上の催告は上記⑴参照)があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効の完成は猶予されます。もっとも、催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、時効完成の猶予の効力を有しません。したがって、裁判外で相手方に請求したからと言って何もしないままに6か月が経過してしまうと時効が完成してしまいますので注意が必要です。
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(5)協議を行う旨の合意
改正債権法により新たに権利についての協議を行う旨の合意が、書面または電磁的記録によりされたときは、所定の期間、時効の完成が猶予される制度が設けられました。
改正前の債権法の下において時効の完成が迫ると、完成を阻止するためだけに訴訟の提起等の措置をとらざるを得なかったことから、改正債権法は当事者間の自発的で柔軟な紛争解決に向けた協議を制度として尊重しようとするものです。電磁的記録による合意も対象とされていますので電子メールによりされたものであっても時効の完成猶予は認められることになります。 -
(6)承認
権利の承認があったときは、時効は更新され、その時から時効期間は新たにその進行を始めます。改正前の債権法の承認と実質的な変更はありません。債務者が「債権は確かにあります。」と支払書類にサインした場合や、借金を少しでも返した場合などが承認にあたります。たとえば100万円のうち10万円を返した場合、10万円を返した日の翌日から時効が新たにカウントされることになります。
4、借金の時効成立まで、逃げることのリスク
債権者が法人の場合、当然ながらどのような場合に時効の完成を阻止するのかを知っています。友人・知人であっても、ネットなどを使って基本的な知識を得ることは可能ですし、困れば弁護士などの専門家を頼ることも考えられます。
逃げるにしても住民票を移すこともできず、行政サービスを受けられない、会社を辞めざるを得なくなるなど、さまざまな不利益が生じることは間違いありません。
つまり、時効を完成させようにも非常に難しく、実際に完成して借金を逃れられるケースはとても少ないことを知っておきましょう。それどころか、逃げている間に利息や遅延損害金が増え続ける、連帯保証人に迷惑をかける、人としての信用を失うなど、リスクを上げれば枚挙にいとまがないのです。
これらの点を考慮すると、時効の成立を期待して逃げ続けるよりも、次項で述べる債務整理を行うことを強くおすすめします。
5、借金に困ったら時効よりも債務整理を検討するべき
債務整理とは主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」の手続きを指します。
それぞれの特徴をご説明します。
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(1)任意整理
裁判所を介さず、債権者と交渉し、将来利息のカットや支払期日の延長などによって月々の返済負担を軽減してもらう方法です。
一見すると債権者にメリットがなく難しいように思えますが、債権者は滞納されるより、少しでも借金を返済してほしいため任意整理に応じる可能性があります。裁判外の交渉になるため取り組みやすい反面、あくまでも債権者の任意による軽減ですので、交渉力が求められる方法です。 -
(2)個人再生
裁判所に借金を大幅に減額してもらい、残りを原則3年で分割返済する方法です。
継続的な収入があることなど一定の要件はありますが、住宅ローン特例を使えば持ち家を残すことができます。借金も5分の1程度にまで減額可能であることから、負担がかなり軽減されるでしょう。裁判所が債権者からの意見や財産調査などをしたうえで再生計画案を認めると、ご自身は計画にもとづき返済していきます。 -
(3)自己破産
収入や財産からして借金の返済ができない場合に、裁判所に借金をゼロにしてもらう方法です。
現金、預貯金、不動産などすべての財産を返済に充て、それでもなお借金が残る場合に認められます。裁判所が「破産手続開始決定」を行い、「免責許可の決定」がでると借金がなくなります。債務自体は自然債務として残るのですが、債権者は取立て、訴訟提起や強制執行ができなくなります。
一定の職業に制限が生じるなどのデメリットがありますが、生活に必要な最低限の現金や家財は残され、借金の返済から解放されます。
6、債務整理を弁護士へ相談するメリット
債務整理はご自身で手続きすることも可能ですが、弁護士へ相談されたほうがよいでしょう。
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(1)執拗な督促が止まる
依頼を受けた弁護士が、債権者に受任通知を送り、債権者が受け取った時点で、貸金業法21条の規定により、あなたに対する督促ができなくなります。つまり、弁護士に依頼することで、あなたに対する執拗な督促が止まり平穏な生活を取り戻すことができるのです。
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(2)適切な債務整理の方法を提案してくれる
どの債務整理が最適なのかはご自身の状況によって異なります。
弁護士でなければ状況に応じた判断を行うことができないでしょう。実際に債務整理を行う際にも弁護士のサポートが必要です。 -
(3)手続きは丸ごと弁護士にお任せでOK
手続きも丸ごと弁護士に委任できる点も大きなメリットです。
数年の滞納で利息が膨れ上がってしまっているときなども、あなたが矢面に立つ必要はありません。
たとえば任意整理であれば、弁護士があなたの代理人として交渉することで、応じてもらいやすく、減額されやすくなります。個人再生や自己破産についても、裁判所への申し立てや書類作成を代行することでご自身の負担を軽くし、スムーズに手続きを進めることができます。
弁護士に任せ、あなた自身は就職活動など、生活を立て直すための準備を進めることができます。
7、まとめ
今回は借金の時効について解説しました。借金には確かに時効がありますが、そもそも完成しないことが多く、時効の完成を待つリスクは大きすぎるといえます。それよりも、早期に債務整理を検討する方が現実的で有効な方法といえるでしょう。
とはいえ、債務整理を自力で行うには時間や労力がかかるとともに法的知識が必要となり、思うような結果にならないことも多々あります。弁護士へ相談し、適切な手続きを行ってもらうことが大切です。ベリーベスト法律事務所・千葉オフィスの弁護士も力になります。借金問題でお困りであれば、ぜひお問い合わせください。
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