奨学金の滞納リスクと解決方法を弁護士が解説。猶予制度や債務整理が有効!
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千葉県教育委員会では、経済的理由で修学が困難な方に向けた奨学金の貸付制度を実施しており、千葉県のホームページでも紹介されています。
家庭の経済事情によって修学が難しい方にとっては、奨学金制度は大きな助けとなるものでしょう。一方で奨学金が返済できず、困窮する若者の存在が指摘されるなど、制度そのものの運用が問題視される事態も起きています。
奨学金の返済で生活が苦しく、何とかしたいとお困りの方も多くいらっしゃることでしょう。本記事では、奨学金の返済問題を解決する方法について、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、奨学金の概要と問題点
奨学金とは、意欲や能力があるにもかかわらず、経済的な理由によって進学が難しい学生のために一定の学資を貸与又は給付し、援助する制度のことです。
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(1)奨学金の種類
奨学金の種類は運営元によって異なりますが、主に次のタイプがあります。
・貸与型
基本的には卒業後に返済していきますが、在学中に少額を返済するタイプもあります。無利息と利息付きに分類され、利息付き貸与型は、選定基準が緩いことから利用者が多くなっています。
・給付型
原則として返済義務がありませんので、貸与型と比較して選定基準が厳しくなります。たとえば、家計が著しく困窮状態にある場合、特に優秀な学生を選抜して実施する場合などがあります。
・返済免除型
指定の勤務場所、勤続年数など一定の条件を満たすことで返済が免除されます。医療・介護職を雇う施設や、Uターン就職を促す自治体などでおこなわれることがあります。 -
(2)奨学金の滞納が社会問題に
奨学金は「学びのためのお金」と言えば聞こえがいいですが、借金です。しかも、親ではなく子ども本人に返済義務があります。
借金を背負った状態で社会にでることの負担は大きいものです。そのうえ、低賃金や失業、傷病、非正規雇用など、本来の想定とは異なる事態を迎え、滞納してしまう若者があとを絶ちません。貧困や未婚率の上昇、少子化などにも影響を与えていると言われています。
日本学生支援機構の調査によると、平成28年度末における奨学金の延滞者はおよそ16万人です。また、奨学金を申請した際、親が主体となって手続きをしているケースでは、子ども自身が主体となったケースと比べて延滞者の割合が多くなっています。子どもが返済義務を自覚していなかったことも延滞の要因となっているようです。 -
(3)奨学金の滞納を放置するリスク
借金を返済することは当然の義務ながら、それとは別に滞納を放置しておくべきではない理由があります。
ひとつ目は、そのまま放置しておけば年5%の延滞金が課される点です。元本と利息以外に延滞金も加算されることになり、返済がさらに困難になると予想されます。
次に、滞納することでその情報が個人信用機関に登録されます。いわゆるブラックリストと呼ばれ、一定期間新たな借り入れやクレジットカードの利用ができなくなります。
さらに、一括返済の請求、裁判、差し押さえとリスクは続きます。
滞納が長期におよぶと一括返済を求められ、それでも返済の求めに応じなかった場合は最終的に裁判を起こされる可能性が高まります。給与や財産の差し押さえがおこなわれることになり、さらなる困窮が続くことになります。
2、奨学金返済に困ったらまずは猶予制度を利用する
奨学金には猶予制度があることをご存じでしょうか。失業や傷病といった返済が困難な事情が生じた場合に、一定の条件を満たすことで利用できます。
以下では、奨学金利用者が多い日本学生支援機構の猶予制度を紹介します。
・減額返済
災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じた場合に願い出できる制度です。最長15年を限度に、毎月の返済額を1/2または1/3に減額することができます。
給与所得者の場合、年間収入が325万円以下であれば利用できるため、継続返済は可能だけれど月々の負担が重い場合に適しています。ただし、すでに延滞している場合は利用できない点、利息を含む返済予定総額は変わらない点に注意が必要です。
・返済期限猶予
返済期限猶予制度も、減額返済制度と同様、災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じた場合に願い出できる制度です。一定期間、返済期限を延ばしてもらうことができます。
給与所得者の場合、年間収入が300万円以下であれば利用でき、一時的に収入の減額が起きた場合に適しています。ただし、こちらも返済予定総額は変わらず、猶予は最長10年までと制限があります。
・返済免除
本人が死亡し返還ができなくなったとき、精神若しくは身体の障害により労働能力を喪失、または労働能力に高度の制限を有し、返還ができなくなったときに、全部または一部の返済が免除されます。ただし、上記の本人の死亡や精神等の障害など特段の事情が必要となり、条件に当てはまらないケースが多くなります。
日本学生支援機構以外の奨学金を利用している方でも、運営元によって猶予制度を設けている場合があります。
運営団体のホームページを見る、問い合わせをするなどの方法で確認してみましょう。
3、奨学金問題の解決には債務整理も有効
奨学金の返済に多少の厳しさを感じていても、前述した猶予制度を利用できるのであれば、何とか返済していくことも可能です。しかし、他にも借金があり、奨学金を猶予してもらったところで返済のめどがたたないほど困窮している場合もあるはずです。
そのときは、債務整理を検討しましょう。
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(1)債務整理の種類と特徴
債務整理には「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3つがあり、主な特徴は次のとおりです。
・任意整理
裁判所を介さず、債権者との交渉により、未払い利息や将来利息のカット、返済期間の延長などをおこなう方法です。裁判外の手続きにあたるため取り入れやすく、多くの債務者が利用しています。
元本が減るわけではありませんが、借金総額が多くなく、利息分の返済負担を減らしたい方に向いています。ただし、奨学金はもともと低利息の借金ですので、奨学金自体を任意整理する方法は効果が低いことがあります。その場合、奨学金以外の借金を選んで整理する方法が考えられます。
・個人再生
裁判所に申し立て、借金総額をおおむね1/5程度に圧縮してもらい、残金を3年~5年で返済する方法です。安定収入があることが前提ですが、住宅や車などの財産を手放したくない方、任意整理では対応しきれない多額の借金(総額5000万円以下)を抱えている方に向いています。
・自己破産
裁判所を介して、保有する資産を金銭に変えて債権者に分配し(破産手続)、残った債務について全て免責してもらう手続(免責手続)です。生活に必要な最低限の財産以外は没収されますが、原則として借金がすべて免除されるため生活の再スタートを切ることができます。 -
(2)債務整理をするなら弁護士に相談することが大切
債務整理は本人が手続きをすることもできますが、一般の方が債権者との交渉や、煩雑な手続きをおこなうことは大変なことです。また、奨学金は親族が保証人になっていることが多く、どの債務整理を選ぶべきかの判断はかなり慎重さを要します。
昨今は「奨学金自己破産の連鎖」と呼ばれるように、詳細を理解せず自己破産した結果、年金暮らしの親までもが自己破産せざるを得なくなるケースが珍しくありません。すでに奨学金の運営元から裁判を起こされていた場合でも、弁護士への相談で運営元との和解が成立し、減額できることもあります。
このように、その方の状況によって、適した方法は異なります。
最善策を見つけるためには法律の専門家である弁護士への相談が有効であると言えるでしょう。
4、まとめ
今回は奨学金の返済で苦しんでいる方に向けて、滞納を放置するリスクと解決策を紹介しました。奨学金の返済が厳しくなると、ほかに借金をしてしまうなど自転車操業的な生活に突入してしまうことが少なくありません。
思い描いていた将来の実現がかなわず、心身ともにつらい思いをしてしまうこともあるでしょう。できるだけ早い段階で対処することが大切です。
ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスでもご相談をお受けします。奨学金の問題を解決するために最適な方法のご提案、サポートをおこないますので、ぜひ一度ご連絡ください。
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