債務整理で差し押さえを受ける? 差し押さえの可能性と対処法を解説
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2019年に千葉市の消費生活センターに寄せられた、多重債務に関する相談は115件でした。
債務整理を検討するとき、「財産を差し押さえられてしまうのではないか」と不安に思う方もおられるでしょう。しかし、実際には、債務整理を行うことによって、財産の差し押さえ(差押え)を回避できることが多々あります。債権者から取り立ての連絡を受けており、財産の差し押さえが心配な方は、むしろ債務整理をすることで事態を改善できる可能性があるのです。
本コラムでは、債務整理と差し押さえの関係について、ベリーベスト法律事務所千葉オフィスの弁護士が解説します。
目次
1、債務整理をすると差し押さえを回避できるのか?
債務整理は、借金問題を解決するための有力な方法です。
債権者による差し押さえが想定される場合や、すでに差し押さえが実行されてしまった場合には、債務整理を行うことで状況を改善できる可能性があります。
以下では、債務整理をした場合における差し押さえの取り扱いについて、手続きごとに解説します。
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(1)差し押さえ前の任意整理|担保を提供していなければ回避できることが多い
「任意整理」とは、債権者との交渉(協議)によって、債務の減額や支払期日の変更などを取り決める手続きです。
- ア 担保を提供していない場合 債務について担保を債権者に提供していない場合において、任意整理の交渉が続いている最中は、債権者が強制執行を申し立てるなどの強硬な手段に出る可能性は低くなるといえます。
- イ 担保を提供している場合 債務について担保を債権者に提供している場合においては、任意整理をすると、担保として提供した物が債権者に差し押さえられて担保権を実行される可能性が高くなります。債権者は、債務者が契約どおりに債務の弁済ができなくなれば、担保権を実行して、担保として提供された目的物を競売にかけて、売却代金から債権を回収できるからです。
債権者は「無理のないスケジュールで債務を支払ってもらい、少しでも多くの金額を回収したい」と考えているからこそ任意整理に応じて交渉している、と考えられるためです。
したがって、財産が差し押さえられる前に、債権者に対して任意整理を打診すれば、差し押さえを回避できる可能性があります。
もっとも、債権者の中には任意整理に応じない債権者もいますので、そのような債権者は、債務の滞納期間が長期化したり滞納した債務が積み重なれば、訴訟を提起して差押をしてくる可能性が高いでしょう。
また、任意整理の打診に応じる債権者であっても、任意整理の交渉が長期化してなかなか和解ができない場合は、訴訟を提起して差押をしてくる可能性があります。
したがって、任意整理において早期に和解することが重要です。
そのような事態を避けるためには、任意整理は対象とする債権者を選択できますので、住宅ローンや、自動車ローン、クレジットカードローン等、担保を提供している債権者は任意整理の対象から外す必要があります。 -
(2)差し押さえ後の任意整理|債権者次第
すでに財産が差し押さえられた後である場合には、任意整理を打診したとしても、差し押さえを解除してもらえるとは限りません。
差し押さえを解除してもらうには、債権者が強制執行の申し立てを取り下げることが必要です。
したがって、すでに強制執行を申し立てた債権者を翻意させて、任意整理の交渉のテーブルについてもらえるかどうかが重要になるのです。
差し押さえの前後どちらにおいても、任意整理に応じて差し押さえを解除してもらえるかどうかは、債務者による説得と債権者の判断次第となります。
しかし、現実的には債権者が説得に応じるケースは少ないと思われます。債権者は一括返済を求めて財産的価値ある物に対してすでに強制執行を申し立てているのに、債務者が分割払いを前提に任意整理の交渉を求めても債権者にとってメリットがほとんどないからです。 -
(3)個人再生|差し押さえは中止され、最終的に失効する
「個人再生」とは、裁判所の個人再生手続きを通じて、原則としてすべての債権者との間で、債務の減額や返済期日の変更を取り決める手続きです。
個人再生では、任意整理よりも大きな減額効果が期待できます。
個人再生手続開始の決定があった場合、その時点で、強制執行は中止されます(民事再生法第39条第1項)。
また、債務者の生活を維持する必要性などが認められて、裁判所により強制執行の取消命令が発せられれば、差し押さえの効果は失われます(同条第2項)。
裁判所の取消命令が行われない場合でも、最終的に個人再生計画認可の決定が確定した段階で、差し押さえは失効することになるのです(同法第184条)。 -
(4)自己破産|差し押さえは失効するが、財産の処分に要注意
「自己破産」は、裁判所の破産手続きを通じて、財産の処分と引き換えに債務全額を免除してもらう手続きです。
すべての債務整理手続きのなかで、もっとも強力な効果を持つ手続きとなります。
破産手続開始の決定があった場合、その時点で、強制執行は失効します(破産法第42条第2項)。
したがって、自己破産を申し立てて、裁判所が破産手続の開始を決定すれば財産の差し押さえを解除してもらえるのです。
給与債権を差し押さえられたケースなどでは、早急に自己破産を申し立てることが有力な解決策になるでしょう。
ただし、破産手続開始の決定時点で債務者が所有していた財産は、一部の差押禁止財産を除き、破産手続きによる換価や処分の対象となってしまう点に注意してください。
2、差し押さえを受ける可能性がある財産・差押禁止財産
借金の返済などを滞納した場合、強制執行手続きを通じて、財産を差し押さえられる可能性があります。
差し押さえの対象になるのは、「差押禁止財産」を除くすべての財産です。
以下では、差し押さえられる可能性がある財産・差押禁止財産のそれぞれについて、具体例を解説します。
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(1)差し押さえられる可能性がある財産の例
差し押さえの対象になり得る財産としては、以下のようなものがあります。
- 現金
- 預貯金債権
- 給与債権
- 不動産
- 有価証券(株式など)
- 生命保険の解約返戻金請求権
なお、債権者は、強制執行を申し立てる際に、差し押さえるべき債務者の財産を特定しなければなりません。
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(2)差押禁止財産の例
以下の財産については、民事執行法第131条や第152条に基づき、差し押さえが禁止されています。
<差押禁止動産>- 生活に欠くことができない衣服、寝具、台所用具、畳、建具
- 1か月間の生活に必要な食料、燃料
- 66万円以下の金銭
- 農業に欠くことができない器具、肥料、家畜、飼料、種子、農産物
- 漁業者による水産物の採捕、養殖に欠くことができない漁具、えさ、稚魚、水産物
- 知的労働、肉体的労働の業務に欠くことができない器具、物
- 実印その他の印で、職業または生活に欠くことができないもの
- 仏像、位牌(いはい)など、礼拝または祭祀(さいし)に欠くことができない物
- 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿、及びこれらに類する書類
- 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
- 学校などでの学習に必要な書類、器具
- 未公表の発明、著作
- 義手、義足、その他の身体の補足に供する物
- 法令に基づく消防用機械、器具、避難器具、備品
<差押禁止債権>- 公的年金の請求権(ただし、国税の滞納の場合は差し押さえられる場合があります。)
- 給与債権の4分の3(毎月の手取り額が44万円を超える場合には、33万円以下の部分のみ)
- 退職金債権の4分の3
3、差し押さえ予告通知や督促状が届いたらどうすべき?
借金の返済などを滞納した結果、債権者から差し押さえ予告通知や督促状が送付されてきた場合、強制執行により財産を失ってしまう一歩手前の段階にあるといえます。
単に支払いを忘れていただけであり、債務を支払う資金の余裕が存在する場合には、書面で指定された期限までに必ず支払いを行いましょう。
未払いの債務が支払われれば、強制執行によって財産を失ってしまうことはありません。
これに対して、債務を支払う資金の余裕がない場合には、まずは債権者に連絡して支払いを待ってもらうように交渉しましょう。
具体的な返済の見込みを根拠とともに示せば、債権者が支払いの猶予に応じてくれる可能性があります。
債務の金額自体が非常に大きく、完済の見込みがない場合には、債務整理を実行することも選択肢の一つとして検討するべきでしょう。
まずは、債務整理を実行すべきかどうか、信頼できる弁護士に相談して判断してください。
実行すべきだと決断した場合には、早めに方針を定めたうえで、債務整理の手続きに着手しましょう。
4、財産の差し押さえを解除する方法は?
すでに財産が差し押さえられている場合、そのままでは競売(不動産等の場合)や転付命令(債権の場合)などによって、債務者の財産が失われてしまいます。
以下では、財産の差し押さえを解除するための方法を解説します。
どの方法をとるとしても、できる限り早く着手することが重要です。
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(1)債務を完済する
未払いとなっている債務を完済すれば、強制執行に基づく差し押さえは解除されます。
家族にお金を借りるなどして、資金のめどが立つ場合には、速やかに債務を完済することが最善でしょう。 -
(2)差押禁止債権の範囲変更を申し立てる
給与債権などが差し押さえられたことにより、生活が大きく圧迫されてしまっている場合には、裁判所に対する差押禁止債権の範囲変更の申し立てを検討しましょう(民事執行法第153条)。
裁判所は、債務者・債権者の双方の生活状況などを考慮して、差し押さえが債務者にとって酷であると認めた場合には、差押命令の全部または一部を取り消します。
この際、債務者としては、差し押さえを取り消すべき理由を裁判所に対して十分に説明することが重要になります。
裁判所に申し立てする場合には、適切に理由を説明できるようにするため、まずは法律の専門家である弁護士にご相談ください。 -
(3)債務整理を行う
これまでに解説してきた通り、債務整理(任意整理・個人再生・自己破産)を試みれば、すでに行われた差し押さえを解除してもらえる可能性があります。
各債務整理手続きには異なる特徴があり、どの手続きが適しているかについては、債務者の状況によって異なります。
弁護士であれば、丁寧なヒアリングを通じて債務者の状況を適切に把握したうえで、借金問題を抜本的に解決できる債務整理の方法を提案することができます。
借金などの返済が困難になってしまい、財産の差し押さえを心配している方は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
債務整理をすると、今後行われそうな財産の差し押さえを回避できる可能性があります。
また、すでに財産が差し押さえられている場合にも、債務整理は状況を改善するための有力な選択肢となるのです。
債務整理を行う場合には、ご自身が置かれている状況に適した手続きを選択することが大切です。
ベリーベスト法律事務所は、手続きの選択から実際の準備・対応に至るまで、債務整理による借金問題の解決を一貫してサポートいたします。
借金の返済が難しくなった方や財産の差し押さえを不安に感じている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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