他人への暴言は犯罪? 問われる可能性のある罪を弁護士が解説

2021年04月19日
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他人への暴言は犯罪? 問われる可能性のある罪を弁護士が解説

千葉県警察の資料によると、2019年中における刑法犯の認知件数は4万1793件で、前年と比較して4905件の減少となりました。

他人に対して軽い気持ちで暴言を吐いた場合であっても、犯罪に問われてしまう可能性があります。
暴言の程度や暴言が行われた状況によって問われる罪が異なりますが、いずれにしても軽率な暴言は慎まなければなりません。

この記事では、他人に対して暴言を吐いた人が問われる可能性のある犯罪について、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「犯罪の概要 令和元年」(千葉県警察本部))

1、いろいろなタイプの暴言について

ひと口に暴言といっても、その悪質性の程度や行われる状況によって、非難されるべき度合いが変わってきます。

  1. (1)暴言の悪質性の程度はさまざま

    暴言を浴びせられた場合、誰しも不快な思いをするでしょう。
    一度や二度であればまだ我慢できたとしても、繰り返し暴言が行われる場合には、法的にも社会的にも非難の度合いが高まります。

    また、暴言が行われたのが1回だけだとしても、その目的によっては極めて悪質な行為になり得ます。

    たとえば金品を奪う目的の恐喝行為や、他人の名誉を傷つけるための誹謗中傷などは、目的自体が違法であり、悪質性の高い行為といえるでしょう。

  2. (2)暴言が行われた状況によって生じ得る問題が異なる

    また、暴言が行われる状況によっても、なぜその暴言が非難に値するのかという理由が変わってきます。

    たとえば職場におけるパワハラの一環として暴言が行われる場合、優越的地位を利用した弱い者いじめとして法的・社会的に非難されると同時に、職場の秩序を乱す行為として職場における処分の対象になり得ます。

    警察官などの公務員の職務や、店舗の業務などを暴言により妨害する場合は、単に相手の感情を害するというだけでなく、円滑な職務・業務の遂行を妨害し、第三者に迷惑をかける行為としても非難に値するでしょう。

    このように、感情面でのダメージに加えて、暴言によって何らかの被害が生まれているという場合は、よりいっそう非難の度合いが高まることになるのです。

2、暴言が犯罪になるケースとは|成立する罪を解説

暴言について成立する犯罪は、どのような法益(被害者の権利や社会的な利益)が侵害されているのかによって異なります。

以下では、暴言について成立する可能性がある犯罪について見ていきましょう。

  1. (1)軽犯罪法違反

    暴言について成立する可能性がある犯罪の中でもっとも軽いものが、「軽犯罪法違反」です。

    軽犯罪法第1条第5号では、公共の娯楽場や公共の乗り物の中で、入場者や乗客に対して著しく粗野または乱暴な言動で迷惑をかけた者について、「拘留又は科料」に処すことを定めています。

    拘留とは、1日以上30日未満の期間、刑事施設に拘置される自由刑です(刑法第16条)。
    科料とは、1000円以上1万円未満を科される財産刑です(刑法第17条)。

    軽犯罪法違反に該当する暴言は、他人に危害や損害を与えず、他人を不快にさせたということにとどまるため、比較的軽い刑となっているのです。

  2. (2)名誉毀損(きそん)罪・侮辱罪

    公然と事実を摘示(てきし)し、他人の名誉を毀損した暴言は「名誉毀損罪」が成立し、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」に処されます(刑法第230条第1項)。

    名誉毀損罪に該当する暴言は、他人の気分を害するというだけでなく、他人の社会的な評判を傷つけ得るという観点でも被害を発生させているため、比較的厳しい刑事罰が科されているといえます。

    また、名誉毀損罪は、「その事実の有無にかかわらず」、すなわち摘示した事実が真実であっても罰せられるのが原則です。

    もっとも、例外として、公然と事実を摘示した行為が他人の名誉を毀損した場合であっても、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる場合には、摘示した事実が真実であると証明できたときは処罰されません(刑法第230条の2 第1項)。

    しかし、暴言が専ら公益を図る目的であったと認められる可能性はまずないでしょう。

    なお、事実の摘示をせずに他人を侮辱した場合には「侮辱罪」が成立する可能性があります。同罪が成立する場合には「拘留又は科料」に処されることになります(刑法第231条)。

  3. (3)脅迫罪・恐喝罪・強要罪

    他人の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知して脅迫した場合、「脅迫罪」が成立して「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処されます(刑法第222条第1項)。

    脅迫罪に該当する脅迫行為は、一般的に人を怖がらせるに足りる害悪を告知することで足り、脅迫行為の結果相手が現実に恐怖を感じたかどうかは問わないとされています。

    さらに、脅迫行為によって他人に金品などの財物を交付させた場合は「恐喝罪」が成立し、「10年以下の懲役」に処されます(刑法第249条第1項)。

    「恐喝」とは、財物の交付に向けて行われる脅迫や暴行をいいます。恐喝罪に該当する脅迫行為において告知される害悪の種類には制限がなく、脅迫罪の「脅迫」行為と異なり、他人の生命・身体・自由・名誉・財産に対する害悪の告知に限定されません

    また、他人の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知して脅迫し、他人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した場合は「強要罪」が成立し、「3年以下の懲役」に処されます(刑法第223条第1項)。

    このように、単なる脅迫行為に加えて、被害者に実害を与えた場合は、さらに重い刑事罰が成立する可能性があります。

  4. (4)威力業務妨害罪

    「威力」、すなわち、他人の意思を制圧するに足りる暴言によって他人の業務を妨害した場合には「威力業務妨害罪」が成立し、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処されます(刑法第234条、第233条)。

    たとえば、店舗に対して過剰なクレームを入れて、店舗を休業に追い込んだ場合などには、威力業務妨害罪が成立する可能性があります

    威力業務妨害罪に該当する暴言についても、被害者に経済的な実害を与えるおそれのある行為である点で、非難すべき度合いが強いといえるでしょう。

  5. (5)公務執行妨害罪

    警察官など、職務中の公務員に対して暴言を吐くなどの脅迫を行った場合は「公務執行妨害罪」が成立し、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」に処されます(刑法第95条第1項)。

    公務執行妨害罪は、公務員の職務を執行に対して暴行や脅迫を加えれば直ちに成立し、現実に公務が妨害された結果が発生したことを必要としません

    公務執行妨害罪に該当する暴言は、公務を妨害する危険性があるという点が大きく問題視されます。

3、暴言で逮捕されるケースはある?

他人に対して暴言を行った場合、その暴言が犯罪に該当するならば、逮捕される可能性は常に存在します。

特に、暴言をすぐにやめさせる必要性が高い状況下では、逮捕される可能性が高くなります

  1. (1)公務執行妨害罪・威力業務妨害罪の場合は逮捕される可能性が高い

    たとえば、公務執行妨害罪に該当する暴言については、その場でやめさせなければ公務の執行が阻害されてしまいます。

    特に警察官への暴言の場合は、治安の維持に対する障害になることが懸念されますので、その場で現行犯逮捕されてしまう可能性もあります

    また、店舗などに対する威力業務妨害に該当する暴言についても、店舗自体や、場合によっては店舗の従業員や利用客等のへの危害が発生するおそれがあるものとして、やはり逮捕の対象になりやすい類型といえます。

  2. (2)執拗に暴言を繰り返した場合も逮捕され得る

    暴言を執拗に繰り返した場合も、同様に逮捕の可能性が高まります

    暴言を繰り返された被害者は、暴言が放置されたままだと、どんどん精神的苦痛が増加してしまいますので、被害者を救済する必要性が高くなるからです。

4、暴言を受けた場合の対処法は?

他人から暴言を受けた場合、状況や考え方によって対処法はさまざまに考えられます。
基本的には、以下のいずれかの方法を採ることをおすすめします。

  1. (1)職場であればパワハラとして告発する

    暴言を受けたのが職場である場合には、パワハラ行為として人事担当者やハラスメント相談窓口に告発することが有効です。

    適切に被害状況を訴えることができれば、加害者から離れたところに座席を変えてもらえたり、配置転換により加害者と会わずに済むようになったりする可能性があります。

    会社が満足な対応を取ってくれない場合には、労働基準監督署に相談することや、会社と加害者を相手に損害賠償請求を行うことも考えられます

  2. (2)刑事告訴する

    暴言の程度がひどい場合や、相手が悪質な意図を持って行われている場合には、ご自身だけで対処するのが難しいこともあります。その場合は、警察に被害を申告して刑事告訴を行うことも選択肢となり得ます。

    特に名誉毀損・恐喝・強要・業務妨害などに当たる暴言を受けている場合には、その状況を放置しているとどんどん被害が拡大してしまいますので、一刻も早く警察に相談しましょう

    捜査機関に刑事告訴を行うと、検察・警察が犯罪捜査に着手し、加害者に対して処罰を加える道が開けます。

    刑事告訴をする際には、被害の状況を捜査機関に適切に伝える必要がありますので、不安がある方は弁護士にご相談ください。

5、まとめ

他人に対して暴言を吐く行為には、刑法その他の法令に基づき、さまざまな犯罪が成立する可能性があります。

もし他人から暴言を受けた場合には、民事上の損害賠償請求とともに、刑事告訴をして処罰を求めるという対処法も選択肢として考えられます。

特に暴言によって精神的・経済的に実害が生じており、無視するわけにもいかないという場合には、一刻も早く警察などの捜査機関に相談してください

ベリーベスト法律事務所では、暴言を含む犯罪被害者を救済するため、刑事事件の専門チームが親身になってご相談を伺います。

他人から暴言を受けて精神的に参ってしまっている方、職場でのパワハラ的な暴言に悩んでいる方などは、お一人で悩むことなく、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています