台風による倒木で家が壊れた! 賠償責任は誰にあるのか?
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令和元年、千葉県は台風15号および台風19号の「令和元年房総半島台風・東日本台風」によって甚大な被害を受けました。
特に被害が大きかった3市町では1万3409棟が全半壊の被害に遭いながらも、業者不足のためいまだに修理工事が行き届いていないという切実な問題を抱えています。
台風による被害のなかでも危険なのが「倒木」です。
平常時は緑をたたえる大きな庭木も、暴風にあおられて人や建物に倒れてくれば強大な危険物となります。
もし台風で隣家の樹木が倒れてしまい、自宅の屋根や外壁が破損してしまった場合、誰が責任を負うことになるのでしょうか?
倒木でケガをしてしまった場合、樹木の所有者に対して治療費などの支払いを求めることは可能なのでしょうか?
本コラムでは「倒木トラブルにおける賠償責任」に注目して、誰が責任を負うのか、どのように解決するべきなのかを千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、隣家の倒木は誰の責任になるのか
隣家に背の高い庭木があっても、それは隣家の自由です。
ただし、その庭木が朽ちて倒れたり、台風などの自然災害によって倒れたりしたことで、自宅の屋根・外壁や駐車中の車などが損壊すれば「弁償してほしい」と考えるのも当然でしょう。
ところが、当の隣家に弁償を求めても「勝手に倒れた」「台風だから仕方ない」といった反論をしてくるだけで解決しないというケースも少なくありません。
隣家からの倒木で損害が発生した場合、誰が責任を負うのでしょうか?
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(1)民法の考え方では占有者・所有者は責任を負わない
倒木によるトラブルを考えるにあたって重要なのが、民法717条です。
【民法717条】
- 1、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
- 2、前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
これは民法の「土地の工作物などの占有者および所有者の責任」について定めた規定です。
土地の工作物とは、土地のうえに設置された人工物のことをいいます。
建物、塀、瓦、樋(とい)、電柱などのことを指すと考えればよいでしょう。また、建物内の設置物も含まれます。
そして、民法第717条1項は「設置または保存に瑕疵がある」ことで他人に損害が発生した場合にその占有者が賠償責任を負い、占有者が損害発生の注意を尽くしていた場合は所有者が賠償することを規定しています。
この規定は、裏を返せば「瑕疵がない場合、占有者は賠償責任を負わない」と解釈できるでしょう。そして、所有者についても、そもそも瑕疵がない場合には、瑕疵と発生した損害との間に因果関係がないので、責任を負わないと考えられます。
そのため台風などの自然災害という不可抗力によって屋根瓦が飛散した場合であっても、工作物に瑕疵がなければ責任を負うことはありません。
つまり、民法の定めでは基本的に瑕疵がなければ「責任を負わない」という考え方になります。 -
(2)「竹木の栽植・支持」に瑕疵がない場合
さて、民法第717条第1項は土地の工作物を対象とした規定ですが、第2条は「竹木」を対象としています。
竹木とは、庭木や垣根などを指すと考えればよいでしょう。
そして、竹木については「栽植・支持」に瑕疵がある場合において民法第717条1項の規定が準用されて賠償責任が生じます。
栽植・支持とは、植樹や栽培の状況や、木が傾いた状態の補強といった意味です。
つまり、倒木の危険があることを知りながら放置していたなど瑕疵ある設置・保存をしていなければ、たとえ損害が発生しても占有者・所有者に責任はないといえます。
2、隣家の木が越境している! 勝手に切っても問題ないか?
隣家の庭木などが倒れてくるおそれがあれば、幹や枝が敷地を超えて張り出している部分についても不安になるでしょう。
そもそも、無断で庭木などが越境している場合は、こちらが勝手に切っても文句はいえないのではないかとも考えられます。
隣家の庭木などが越境している場合に、断りなく勝手に切ることに問題はないのでしょうか?
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(1)無断伐採は違法、原則は「切ってもらう」
隣家の庭木に関する権利は隣家にあります。
無断で伐採すると、故意に他人の物を損壊されたと解釈されるため、刑法第261条に規定されている器物損壊罪が成立してしまいます。
隣家の庭木が越境している場合は、民法第233条1項の規定にしたがって「竹木の所有者にその枝を切断させることができる」ので、原則は「切ってほしい」と求めるべきです。
なお、同条2項では「根」が越境した場合について「切り取ることができる」と定めています。
幹や枝は無断で伐採できませんが、根は無断でも伐採可能ということです。ただし、近隣トラブルへ発展することがないように切り取る場合には、相手に一言声をかけて許可を得ておく方が良いかもしれません。 -
(2)伐採に応じてもらえない場合の対応
隣家の庭木が越境しているため「切ってほしい」と求めたにもかかわらず応じてくれない場合もあるでしょう。
たとえば「伐採することで庭木が枯れる」と拒否されるといった事態も考えられます。
伐採に応じてもらえない場合でも、無断で伐採してはいけません。
基本的には話し合いによって解決する問題ですが、伐採に応じてもらえない場合は造園業者などに依頼して枝が伸びる方向を人為的に操作するといった解決策もあります。
隣家が要求に一切応じてくれない場合、最終的には裁判所の判断を仰ぐことになるでしょう。
また近年、隣家が空き家となっている場合で、危険性が高い状態であるにもかかわらず話し合う相手の居場所もわからないようなケースも少なくありません。
不在者の代わりに財産を管理するものを裁判所に選任してもらい、その方と解決策を検討する方法もあります。
その他、放置された空き家の庭木などについて倒木の危険がある場合は、自治体への相談をおすすめします。
空き家等対策の推進に関する特別措置法、通称「空き家特措法」や市の条例による規制を根拠に自治体から庭木の伐採を指導してもらうほか、緊急の対応が必要な場合は自治体が必要最小限の応急措置を取ることも可能です。
3、倒木によってケガをした! 法的責任は?
倒木に関するトラブルとして代表的な事例が「道路側に倒れて通行人などがケガをした」といったケースです。
同様に、たとえば隣家の庭木が自宅側に倒れてきてケガをしてしまったというケースも想定されるでしょう。
隣家からの倒木に対する民法の基本的な考え方は以下のとおりです。
- 栽植・支持が徹底されていれば隣家に責任はない
- 管理を怠り根元が腐っていた、たびたび「倒木の危険がある」と指摘していたなどのケースでは隣家が賠償責任を負う
この考え方は、対象が住宅や車などの物であっても、人であっても同じです。
倒木によってケガが発生した場合でも、庭木をしっかりと管理しており、通常は庭木が倒れるなど予見できなかったようなケースでは、ケガの治療費や慰謝料の請求は認められないでしょう。
ところで、瑕疵の有無は、通常有するべき安全性があるかという基準で考えられますので、庭木を管理している人が一生懸命に管理をしていたということだけで瑕疵がないことにはなりません。
民法の基本的な考え方をふまえたうえで弁護士に相談し、相手の瑕疵を追求できる部分が存在しないのかを検討するとよいでしょう。
4、倒木トラブルで損害賠償を請求する場合の手順
隣家からの倒木によって何らかの損害が発生し相手に賠償を求める場合は、次の手順を踏むことになります。
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(1)直接請求する
まずは実際に発生した損害や慰謝料を算出して、倒木の占有者・所有者に直接支払いを求めます。
民法の定めは別として、相手が隣家の住人であればご近所関係の悪化を避けるためにある程度の譲歩が期待できる可能性があります。
相手の管理に明らかな瑕疵があれば、民法の定めに従って賠償を求めるのは当然の行為でしょう。 -
(2)裁判を起こす
隣家同士であればごく初期はお互いによる話し合いになるのが通常の流れですが、相手がまったく応じてくれない場合やこじれた場合は法的な手続きを踏むことになります。
民事調停や民事訴訟の方法が考えられます。
裁判では原告・被告のそれぞれが提出した証拠をもとに裁判官が判断します。
相手に「危険なので伐採してほしい」と伝えた記録や倒れてしまう前の状態を記録した写真などは重要な証拠となり得るでしょう。
また、台風などの自然災害が一因となっている場合は、賠償請求がそもそも認められないことや減額されることもありえますので心得ておく必要があります。 -
(3)弁護士への相談がベスト
倒木トラブルは、庭木などの占有者・所有者は責任を問われないという見解からスタートする難しい問題です。
倒木に至った原因にどのような瑕疵が認められるのかを合理的に証明しない限り、裁判を起こしても損害賠償が認められるケースはまれでしょう。
弁護士に相談してサポートを依頼することで、相手の管理に瑕疵はなかったのか、庭木などが倒れる事態を予見できていたのではないかという主張が認められる可能性があります。
また、弁護士が代理人として交渉すれば、裁判所の手続きをとらずとも賠償に応じてくれることも期待できるでしょう。
隣家同士でのトラブルであれば、解決後の関係悪化を避けるために双方が譲り合える限界点を探って和解するといった解決法も現実的です。
5、まとめ
台風などの自然災害によって発生した倒木トラブルでも、倒木の危険が高い状態が以前から存在していた場合は損害賠償請求が認められる可能性があります。
隣家同士で発生した問題であれば円満な解決を目指すのがベストですが、相手が交渉にまったく応じてくれないようなケースやこじれた場合などは法的な措置を講じる必要もあるでしょう。
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