民事事件とは? 刑事事件が終わってもまた裁判所に呼び出される理由
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- 民事事件とは
千葉県警が公表している令和4年版「犯罪統計 犯罪の概要」によると、令和4年中に起きた刑法犯のうち財産犯による被害額の総計は88億3386万円以上にのぼることがわかっています。犯罪が認知されて刑事事件化し、加害者が刑事裁判を通じて有罪となって罪を償ったとしても、被害者が受けた損害が賠償されるわけではありません。
被害者との間で示談などを行い成立していれば、被害者が受けた被害はすでに賠償されていると考えられます。しかし、そうでなければ、民事裁判によって損害賠償請求が行われるケースは少なくありません。つまり、刑事事件を起こした方は民事でも訴えられる可能性が非常に高いといえます。しかし、多くの方は民事事件と刑事事件の区別がつかず、刑事裁判が終結したのに、民事で訴えられるのはなぜか、などと困惑します。
本記事では、民事事件と刑事事件の違いをベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が分かりやすく解説します。
1、民事事件とは?
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(1)民事事件の定義
民事事件とは、個人同士や企業同士、または個人と企業との間の紛争の解決や、損害賠償請求などを求めて裁判所に提起されたものをいいます。
民事事件は、民事調停、民事訴訟、労働審判や支払督促、保護命令などさまざまな手続きがあります。
民事事件は、非常に簡単にいうと「私人間のトラブルを解決するための手続きを裁判所に求めること」といえます。
民事事件の当事者は、原則として、企業や個人などの「私人」です。
私人同士のトラブルを、裁判所を通じて解決する方法が民事事件と考えてよいでしょう。 -
(2)民事事件の訴状が届いた! 無視するとどうなる?
民事事件の訴えを提起する場合は、原告(訴えを提起する者)もしくは原告の訴訟代理人が裁判所に訴状を提出しなければなりません。
すでにあなたの元に訴状が届いている場合は、すでに原告側には弁護士がついて動いている可能性が高いと考えられます。
民事事件では、口頭弁論において、訴えを提起した側である原告が自身の請求を主張します。
訴状が届いたのに無視をして、口頭弁論に出廷しなかった場合は、原告の主張が100%認められてしまうケースが一般的です。
だからこそ、可能な限り弁護士を依頼して対応されることを強くおすすめします。
民事裁判では、原告と被告(訴えられた者)の双方の主張を確認したうえで、裁判官が判決を言い渡すことで終了します。
しかし、たとえ裁判が始まったあとであっても、原告と被告の双方で話し合ったうえで和解をしたり、原告側が訴えを取り下げたりすることによって、裁判を終了させることができます。
2、民事事件で争われる具体的な案件とは
定義だけではわかりづらいので具体例を確認してみましょう。
具体的な民事事件はこちらです。
- 交通事故の損害賠償請求
- 債権回収
- 離婚などに伴う慰謝料請求
- 相続
- 自己破産などの債務整理
- 刑事事件の被害者による損害賠償請求
- 著作権侵害
- 名誉毀損による損害賠償請求
これを見てもわかるように、民事事件は、お金を請求したり権利を確認したりといった内容を争うものです。罪の有無や懲役などを決めるのではありません。
あくまでも私人同士のトラブルを、裁判所が仲介して解決するものをいいます。刑事裁判が終了しているのに民事裁判が提起された場合は、損害賠償を求められているケースが多いでしょう。
損害賠償請求の裁判では、損害賠償すべき不法行為が存在したかどうか、存在した場合は請求している賠償金額が妥当かどうか、などが争われます。
3、刑事事件とは? 民事事件と何が違うの?
刑事事件と民事事件の違いについて、ひとつずつわかりやすく説明していきます。
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(1)当事者の違い
①刑事事件の場合
刑事事件の当事者は、検察官と、検察官から犯罪を行ったとされ起訴された被告人です。
警察が、事件を捜査して、検察官が引き継ぎ、証拠を集めたうえで、検察官が犯罪を行ったとされる者を被告人として起訴して、被告人の罪の有無や量刑を問うのが刑事事件です。
②民事事件の場合
それに対して民事事件の当事者は、原則として私人同士です。
企業と企業、個人と企業、または個人と個人などです。 -
(2)和解の有無
①刑事事件の場合
刑事事件の当事者である検察官と被告人との間に和解はありません。
刑事事件を起訴して裁判にするかどうかを検察官が判断し、起訴して裁判が開かれれば、必ず有罪または無罪、有罪の場合は量刑などが言い渡されます。
②民事事件の場合
それに対して、民事事件は当事者同士の「和解」によって解決することができます。訴訟を提起したあとでも、当事者同士が和解を成立させれば、事件は終結できます。
民事事件では私人同士の和解が可能ですが、刑事事件では検察官と被告人が和解することはできません。 -
(3)強制力の違い
①刑事事件の場合
刑事事件では、警察や検察などに強力な権限が与えられています。
逮捕、勾留、捜査のための家宅捜索など、犯罪を行ったとされた被疑者または被告人の身柄を拘束するなどの生活に大きな影響を与える行為も可能です。
②民事事件の場合
それに対して、民事事件は、刑事事件ほど証拠を確保するための強力な権限は付与されません。
原告または被告の申し立てによる証拠保全の手続きは可能ではあるものの、警察や検察に認められているほどの強制力はありません。
4、刑事裁判が終わったのに民事訴訟を提起される理由
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(1)刑事事件の処罰には、被害者に対する損害賠償は盛り込まれていない
刑事裁判で有罪判決が下されたにもかかわらず、後日になって民事で訴訟を提起されることがあります。
「刑事裁判で罪を償うことが決まったのにどうして」と驚かれる方も多々いらっしゃいます。
しかし、これは被害者がいる犯罪であれば当然のことです。
これまでお話ししたように、刑事事件は、加害者とされた被告人の罪の有無や量刑を決めるものです。検察官が起訴して、被告人は起訴された者としてそれぞれが当事者となり、手続きが進みます。
刑事裁判で下る判決は、あくまでも被告人が科される処罰にすぎません。
この処罰に、被害者に対する損害賠償は盛り込まれていないのです。
被告人の懲役刑が決まったとしても、それで被害者になんらかの慰謝料等が支払われるわけではありません。
また、被告人が判決によって罰金を支払ったとしても、それは財産に影響を与える刑罰である罰金刑として国家に対しお金を支払っただけにすぎず、被害者の損害を補填するものではないのです。
事件によって、「怪我をした・物を壊された・精神的苦痛を負わされた」などの被害を受けた者は、加害者に対して、損害賠償を請求する権利を有しています。
そして加害者は、自身の不法行為について損害賠償する義務があります。 -
(2)事例で考える「刑事事件」と「民事事件」の違い
①交通事故のケース
わかりやすいのが、交通事故です。
飲酒運転による交通事故を起こして、被害者に怪我をさせた場合、加害者は被告人として道路交通法違反などに問われます。これが刑事事件です。
判決によって、罰金を支払ったり交通刑務所に服役したりすることになります。
しかし、これだけでは被害者への賠償は一切完了していません。
被害者の壊れた車や、怪我をした身体についての賠償を行う義務があります。
具体的には、車の修理代、怪我の治療費、慰謝料や休業損害などです。これらの損害賠償請求は民事訴訟を提起して行います。
②痴漢などの犯罪のケース
これは、痴漢などの犯罪にも当てはまります。
痴漢は、多くの都道府県の迷惑行為防止条例や、強制わいせつ罪に問われます。これらの罪で有罪になり、罰金刑に処されても、その罰金は被害者に支払われるわけではありません。
被害者は、痴漢行為でこうむった精神的苦痛を慰謝料として民事訴訟を提起して請求します。これが民事事件です。 -
(3)刑事事件の加害者は民事事件で訴訟を提起されるリスクが高い
刑事裁判で処罰が決定しているかどうかに関わらず、刑事事件の加害者は民事事件で訴訟を提起されるリスクが非常に高くなっています。
通常であれば、刑事事件の手続きと同時並行で、弁護士が被害者との示談交渉を進めます。示談が成立すれば、その時点で損害を賠償する義務を果たしたことになるため、民事訴訟を提起されることは一般的にはありません。
しかし、なんらかの理由で示談をしなかった場合や、被害者が示談に応じなかった場合は、民事上の責任を果たしていないため、刑事裁判終了後でも訴えられる可能性があるのです。
5、民事訴訟を提起されたらすぐに弁護士に相談を
民事訴訟を提起されてしまったら、早急に弁護士にご相談ください。
民事訴訟は、たとえ提起後でも、示談が成立すれば訴えを取り下げてもらうことができます。
民事訴訟では、主に損害賠償すべき不法行為の有無や、損害賠償すべき金額について争われます。
訴訟を提起されてすぐの早い段階で弁護士に依頼すれば、裁判が開かれる前に相手と示談交渉を進めることが可能となります。
相手が交渉に応じれば、相手に訴えを取り下げさせて訴訟を回避できる可能性が高まります。
ご自身で、弁護士に依頼した相手と示談交渉をした場合、法律に詳しいとはいえない方と、法律のプロである弁護士が直接交渉することになり、非常に不利です。
相手が請求する慰謝料等が相場より高額であったとしても、相手の言い値を支払わざるをえなくなる危険性もあります。
このような金銭的リスクを回避するためには、弁護士への相談が必須です。
弁護士同士での交渉であれば、妥当な慰謝料の支払いで示談が成立する公算が高く、訴訟の費用が必要なくなる場合もあり得ます。
すでに訴状が届いている場合は、時間がありません。
なるべく早く弁護士に交渉を依頼しましょう。
口頭弁論などの期日が迫っていても、相手が訴えを取り下げれば裁判になることはありませんので、悩む前に弁護士に相談することを強くおすすめします。
6、まとめ
刑事裁判が終了して、事件がすべて解決したと思っていたところに、民事訴訟を提起されたのであれば、大変驚いたことでしょう。
しかし、刑事上の罰と民事上の責任は、まったく別のものです。刑事裁判で裁かれたからといって、被害者への賠償責任が消えるわけではありません。
すでに訴訟を提起されている場合は、早急に相手と示談を成立させなければ、再び裁判に臨まなければならないのです。
裁判は結論が出るまでに、手間や時間がかかるというデメリットがあります。可能な限り、裁判が開かれる前に、弁護士に依頼して相手との示談交渉を一任しましょう。
ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスでは刑事事件に伴う示談交渉や民事訴訟にも対応しています。まずはご一報ください。
早急に対応して、不利な状況に陥らないようにベストを尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています