イラスト(似顔絵・人物画)は肖像権侵害? 肖像権の概要を解説
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令和2年に千葉地方裁判所本庁が受理した民事・行政事件(民事調停を除く)は2万501件でした。
すべての人は、自分の容貌を勝手に撮影されたり、自分の写真などを勝手に商業利用されたりしない権利である「肖像権」を有しています。肖像権侵害は、写真だけでなくイラスト(AI自動生成肖像などを含む)によっても発生することがあります。
そのため、他人のイラストを作成・公開する際には、十分に注意する必要があります。本コラムでは、肖像権(人格権・パブリシティ権)の概要、侵害の判断基準、他人の肖像権を侵害した場合の法的責任などについて、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、肖像権とは?
肖像権とは、自分の容貌を無断で撮影されたり、商業的に利用されたりしない権利です。
肖像権は憲法に明文で規定された人権ではありませんが、過去の判例の積み重ねによって実質的に権利として認められている、法律上の利益のことをいいます。
肖像権は「人格権」と「パブリシティ権」の2つに分類されます。
みだりに自己の容貌等を撮影され、公表されない人格的利益(最高裁第1小法廷平成17年11月10日判決)。
② パブリシティ権
商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する氏名・肖像等につき、その顧客吸引力を排他的に利用する権利を意味します(最高裁第1小法廷平成24年2月2日判決)。
2、他人のイラストを描く場合には許可が必要?
他人の容貌を撮影した写真だけでなく、他人の容貌を描写したイラストも肖像権の侵害となることがあります。
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(1)イラストも写真と同様、肖像権侵害に当たり得る
最高裁第1小法廷平成17年11月10日判決では、カレーに毒物を混入したとして殺人罪等で逮捕・起訴された刑事被告人について、写真週刊誌が、法廷での容貌を撮影した写真と、容貌を描写したイラストをそれぞれ掲載したことが問題になりました。
同判決は、まず、肖像権に関する一般論として、「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」と判示しました。
そのうえで、写真だけでなくイラストについても、「人は、自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても、これをみだりに公表されない人格的利益を有すると解するのが相当である」と判示したのです。
このように、イラストによっても肖像権侵害が発生し得ることは、最高裁判例によって認められています。
実際に、同判決は、刑事被告人が手錠・腰縄により身体の拘束を受けている状態を描いたイラストの公表について、本人の「人格的利益を侵害するもの」として違法性を認定しているのです。
したがって、仮にイラストが他人の肖像権(人格権ないし人格的利益)を侵害する可能性がある場合には、そのイラストを作成または公表するためには、本人の承諾を得ることが必要になります。 -
(2)肖像権(人格権)侵害の判断基準
最高裁第1小法廷平成17年11月10日判決は、は「人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もある」と指摘しました。
そのうえで、本人の承諾なく容貌等を撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、以下の事情を総合考慮して、「人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」と示したのです。
以下が、その考慮要素です。- 被撮影者の社会的地位
- 撮影された被撮影者の活動内容
- 撮影の場所
- 撮影の目的
- 撮影の態様
- 撮影の必要性等
また、同判決は、写真が被撮影者の容貌等をありのままに示したものであるのに対して、イラストはその描写に作者の主観や技術が反映するものであり、おのおのそのことを前提とした受け取られ方をするという違いを指摘しました。
そして、「イラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては、写真とは異なるイラスト画の上記特質が参酌されなければならない」と示したのです。
上記の判示を分析すると、イラストであっても写真と同様に肖像権侵害が発生する可能性はある、ということになります。
ただし、描写されたイラストに作者の主観的な要素の程度が著しく含まれる場合や、あまりにも描写技術が稚拙な場合などには、肖像権侵害が認定される可能性は低くなるでしょう。
3、有名人のイラストを公開するときはパブリシティ権にも要注意
有名人の名前や容貌は、商品やサービスに付されることで潜在ユーザーの購入意欲をかき立てるなど、一定の顧客吸引力を有します。
このような有名人の顧客吸引力は、本人や所属事務所などが活用すべき権利であるため、無関係の他人が勝手に利用するのは不当だといえます。
したがって、自分の名前やイメージ(肖像)が有する顧客吸引力を商業的に利用する権利は、実質的には「パブリシティ権」として保護されると解されているのです(ただし、パブリシティ権は法律上に明記された権利ではないことに留意してください)(最高裁第1小法廷平成24年2月2日判決)。
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(1)パブリシティ権の侵害が問題となる場合の例
パブリシティ権の侵害が問題となる典型的な事例は、芸能人・スポーツ選手・You Tuberなどの有名人の写真やイラストを、商品やサービスの販促活動で勝手に使用した場合です。
たとえば、以下のような場合にはパブリシティ権侵害が成立すると考えられます。- 芸能人の写真をプリントしたキーホルダーを勝手に販売した。
- 「〇〇さんも愛用しているらしいです!」などという勧誘文句とともに、サプリメントの販促を目的としたホームページ上で、スポーツ選手の写真を勝手に掲載した。
- ブログのアクセス数を稼いで広告収入を得る目的で、人気芸能人のイラストを大量に作成して、ブログ上で公開した。
なお、パブリシティ権侵害は、写真やイラストを商業利用した場合に限り発生します。
これに対して、撮影・描写した有名人の写真やイラストを公表したことがあくまでも趣味の一環に過ぎず、収益を得る目的がない場合には、少なくともパブリシティ権の侵害は問題になりません(ただし、この場合でも人格権侵害が問題になることはあり得ます)。 -
(2)パブリシティ権侵害の判断基準
最高裁第1小法廷平成24年2月2日判決では、有名女性歌手の写真が週刊誌に無断掲載された事案が問題となりました。
同判決は、写真の掲載が専ら肖像などの顧客吸引力の利用を目的とする場合、当該利用行為がパブリシティ権侵害に当たり違法になると示しました。
パブリシティ権侵害が成立する場合の例として、最高裁は以下のようなケースを挙げています。- 肖像等それ自体を、独立して鑑賞の対象となる商品等として使用している
- 商品等の差別化を図る目的で、肖像等を商品等に付している
- 肖像等を商品等の広告として使用している
上記の判断基準は、写真だけでなくイラストにも適用し得るものであるため、イラストによるパブリシティ権侵害も成立し得ると考えられます。
ただし、人格権侵害の場合と同様に、描写に作者の主観や技術が反映するものであるというイラストの特質は、パブリシティ権侵害の有無を判断するに当たって考慮されることになるでしょう。
4、他人の肖像権を侵害したらどうなる?
肖像権を侵害する形で他人の容貌を撮影した、もしくはイラストを作成した、またはそれらを公表したという場合には、本人から差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。
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(1)差止請求を受ける
写真やイラストによって肖像権(人格権・パブリシティ権)を侵害された者は、侵害行為の停止や予防を請求できると解されています。
侵害者が差止請求を受けた場合、以下のような対応を取る必要が生じる可能性があります。- 写真やイラストのウェブ掲載を取りやめる
- 写真やイラストが掲載された出版物の販売を停止し、店頭に並んでいる出版物については回収する
- 保有している写真やイラストを速やかに破棄する
これらの対応が生じる場合、これまでかけてきたコストが無駄になるだけでなく、新たに大きなコストがかかるケースも多い点に注意してください。
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(2)損害賠償請求を受ける
肖像権(人格権・パブリシティ権)を侵害された場合、侵害者に対して不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償を請求できます。
人格権侵害の場合は、精神的損害に対応する慰謝料や、本人の名誉が害されたことによって生じた損失などが損害賠償の対象になるでしょう。
パブリシティ権侵害の場合は、人物肖像を利用することで増加した売り上げ・利益について、一部または全部の吐き出しを命じられる可能性があります。
特にパブリシティ権侵害の場合には、損害賠償額が極めて高額になることもあり得るため、有名人の写真やイラストを無断で商業利用しないように、十分に注意しましょう。
5、まとめ
肖像権(人格権・パブリシティ権)の侵害は、写真だけでなくイラストによっても成立する可能性があります。
他人の肖像権を侵害した場合、差止請求や損害賠償請求を受けてしまい、思わぬ損失を被るおそれがあります。
したがって、少しでも肖像権侵害の疑いがある場合には、写真撮影・イラスト作成やそれらの公表は差し控えたほうがよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、著作権侵害をはじめとした知的財産関連のトラブルや、肖像権侵害のトラブルに関する法律相談を随時受け付けております。
インターネットビジネスやコンテンツ制作などを行うに当たり、「知的財産権や肖像権の侵害になるのではないか」といった懸念が生じた場合には、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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