アパートを建て替えには立退料の交渉が必要? 借地借家法のルールとは
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国土交通省土地鑑定委員会の調査によると、令和2年1月1日を基準日とする千葉県の公示地価は、1㎡あたり12万8600円(1坪あたり約42万5124円)で、前年度から1.3%の上昇となりました。特に商業地では3.4%、工業地では3.3%の大きな上昇が見られています。
アパートやマンションのオーナー(大家)にとっては、老朽化などによる建て替え時の賃借人(借家人、入居者)との立ち退き交渉が悩みの種になります。
借地借家法上、賃借人には強い権利が認められているため、賃貸人にとってはシビアな交渉を強いられることもあります。
特に立退料については粘り強い交渉が必要になりがちです。
借地借家法の規定上、賃貸物件からの立ち退きに関する立退料の金額はどのように決定されるのか、気になるオーナーの方も多いでしょう。
この記事では、アパートやマンションを建て替える場合に、賃借人に立ち退きを求めるのに必要となる正当事由や立退料などについて、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「令和2年地価公示に基づく地価動向について《千葉県》」(千葉県県土整備部用地課))
1、賃貸人側から立ち退きを求める際に要求される手続きは?
賃貸人から立ち退きを求められ、どんな場合でもすぐに建物を出ていかなければならないとすれば、賃借人にとって酷な事態になってしまいます。
そこで、賃借人を保護するために、「借地借家法」という法律で、建物からの立ち退きに関する詳細なルールが定められています。
まずは、賃貸人側から賃借人に対して立ち退きを求める際に、借地借家法上要求される手続きを押さえておきましょう。
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(1)期間満了または解約の6か月前までに賃借人への通知が必要
借地借家法上、期間の定めがある建物の賃貸借契約については自動更新が原則とされています。
賃貸人が、期間の定めのある建物賃貸借契約を終了させたい場合には、期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃借人に対して更新をしない旨の通知、または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなければなりません。これらの通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したとみなされます。ただし、その期間は、定めのないものとされます(借地借家法第26条第1項)。
また、期間の定めがない建物の賃貸借契約については、賃貸人からの解約申し入れがあってから6か月を経過した時点で終了することとされています(同法第27条第1項)。
いずれにしても、賃貸人が建物賃貸借契約を終了させるには、終了日の6か月以上前に契約終了の意思表示をする必要があると理解しておきましょう。 -
(2)賃貸借契約終了後も賃借人が居座る場合には遅滞なく異議を述べる
なお、賃貸人から更新拒絶の通知や解約申し入れを行ったにもかかわらず、賃借人が建物から出ていかないケースも考えられます。
この場合には、賃貸人は賃借人に対して、遅滞なく異議を述べることが必要です。
もし、賃貸人が異議を述べずに、賃借人の無権原使用を黙認していると、建物賃貸借契約が自動更新されたものとみなされてしまうため、十分に注意が必要です(借地借家法第26条第2項、第27条第2項)。
2、立ち退きが認められるために必要となる正当事由とは?
賃貸人から賃借人に対する賃貸借契約を更新しない旨の通知や、建物賃貸借の解約の申し入れは、どんな場合でも認められるわけではなく、立ち退きについての「正当の事由」が必要とされています(借地借家法第28条)。
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(1)賃借人保護のため、更新拒絶・解約には正当事由が必要
建物賃貸借契約が有効に存続している状態では、実際に建物を使用しているのは賃借人側です。
賃借人側には、現実に建物を生活や事業の拠点として利用している事情があるため、その現状を保護しなければならないという価値判断が存在します。
そこで、借地借家法は賃借人の権利を強く保護し、賃貸人からの更新拒絶や解約について正当事由を要求しているのです。 -
(2)正当事由の判断において考慮される要素とは?
正当事由の判断において考慮すべき要素については、借地借家法第28条において以下のとおり列挙されています。
それぞれの要素について、賃貸人と賃借人のいずれに有利に働くかを総合的に考慮して、正当事由の有無が判断されます。
①建物の使用を必要とする事情
正当事由の判断において、もっとも中心的となる考慮要素です。
賃貸人と賃借人、どちらの方がより建物の使用を必要としているかが考慮されます。
②建物の賃貸借に関する従前の経過
賃貸借の条件が圧倒的に賃借人に有利であったり、賃借人側に背信的行為が認められたりする場合には、従前の経過に鑑みて正当事由ありと判断される場合があります。
③建物の利用状況
賃借人が契約に従い、建物を正しく利用しているかどうかなどが考慮されます。
④建物の現況
老朽化が進み、立て替えの必要性が生じているかなどが考慮されます。
⑤立退料などの財産上の給付
賃借人が建物を使えなくなることについて、賃貸人から賃借人に対して立退料などの財産上の給付による補塡(ほてん)が十分行われたといえるかどうかが判断されます。
立退料についての詳細は、次の項目で解説します。
3、立退料の金額はどのように決まる? 相場はあるの?
建物賃貸借契約の更新拒絶・解約に関する正当事由の有無を判断するにあたっては、賃貸人から賃借人に対する立退料の支払いが重要なポイントになります。
以下では、立退料の金額がどのように決まるかについて解説します。
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(1)立退料の金額はケース・バイ・ケース
借家の立退料を算定する明確な基準や計算式は、法律上存在しません。
立退料としてどの程度の金額が妥当であるかについては、賃貸人側と賃借人側の具体的な事情を比較して決定されます。
そのため、立退料の金額はケース・バイ・ケースであり、特に明確な相場が決まっているものではありません。
立退料が賃貸人と賃借人の間の交渉で決まる場合には、当事者同士が互いに納得する金額であれば問題ありません。
一方、話し合いがまとまらずに明け渡し訴訟に発展した場合には、裁判所による事実認定を経て、次の項目で解説する各費用の金額を反映した立退料の金額が認定されることになります。 -
(2)立退料の金額に反映されうる費用の種類について
立退料の金額に反映されうる費用にはさまざまなものがありますが、一例として以下のものが挙げられます。
①移転経費
建物から立ち退き、新しい場所で活動を再開するための費用です。
引っ越し費用などがこれに該当します。
②借家権価格
賃貸借期間中に、建物の価格が上昇する場合があります。
建物価格の増加分の一部が賃借人の貢献によるものと解される場合は、立退料の金額に上乗せされる場合があり得ます。
③営業補償
賃借人が建物において事業を営んでいる場合、立ち退きにより一時的に営業を停止せざるを得ません。
そのため、営業停止に対する補償金が立退料として考慮されます。
④精神的苦痛
立ち退きにより、長年当該地域で生活してきた利便性や近所付き合いを失うことなどについての精神的苦痛に対する慰謝料相当額が、立退料に上乗せされる場合があり得ます。
4、アパート・マンションの建て替えに伴う立ち退き交渉のポイント
上記の借地借家法上の規定などを踏まえたうえで、賃貸人側が賃借人に対して建物からの立ち退き交渉を行う際には、どのようなことに注意すれば良いのでしょうか。
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(1)賃借人の不安を取り除く
立ち退きに関する交渉をまとめるためには、立退料の金額を含めて、立ち退きの条件に同意してもらうことが必要です。
賃借人が立ち退きにすんなり同意できない理由の多くは、「立ち退いた後で生活していけるかどうか(事業がうまくいくかどうか)不安だから」というものです。
そのため、賃貸人側は賃借人の話にきちんと耳を傾け、その不安を解消してあげることが重要になります。 -
(2)類似事案の裁判例を踏まえた立退料の目安を理解する
立退料として合理的な金額を提示することも、賃借人側の信頼を得るためには重要なポイントになります。
不当に低い金額を提示して、賃借人側に「搾取されようとしている」という印象を与えてしまえば、立ち退き交渉がうまくいくことは期待できません。
立退料に明確な相場はありませんが、類似事案の裁判例を分析したうえで具体的な事情を総合考慮すれば、おおよそ合理的な立退料の金額の目安が見えてきます。
裁判例の分析には専門的な検討を要しますので、弁護士へのご相談をおすすめします。
5、まとめ
建物の賃貸借契約については、アパートオーナー・マンションオーナー側からの更新拒絶・解約時には正当事由の存在が要件とされています。
正当事由の有無を判断する際の重要な考慮要素のひとつとして、立退料の支払いがあります。
立退料としてどの程度の金額が合理的かについては、賃貸人側と賃借人側の事情を具体的に比較検討して決定されます。
賃貸人側が立ち退きの交渉に臨む際には、賃借人側の話をよく聞き、合理的な立退料の金額を提示することで、賃借人側の信頼を得ることが大切です。
立ち退きの交渉においてどのような振る舞いが望ましいのか、どのような事前準備をすれば良いのかについては、専門家であるベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所には、不動産に関連する紛争や交渉に精通した弁護士が多数在籍していますので、立ち退き交渉についても安心してお任せいただけます。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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