後遺障害等級認定って何? 被害者が知っておきたい認定までの流れ
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平成30年12月、千葉県内でバスがトラックに追突し、16人がケガをするという事故が発生しました。追突事故では、命に関わるような重大なケガをするケースは多くないものの、不快な痛みや症状が長く続く「むちうち」の症状に苦しむ方が多い傾向にあります。
「頚椎捻挫(けいついねんざ)」等、骨折や脱臼のない頚椎(首)の損傷が、いわゆる「むちうち損傷」と呼ばれています。
むちうちは長期間通院しても完治しないケースもあり、終わらない苦しみと戦う被害者の方も数多くいます。適切な治療をしても完治しない場合は、後遺障害等級認定を受けて通常よりも高額の賠償金を受け取ることができる可能性があるので、自分の症状が後遺障害に該当するかどうかを確認しなければなりません。
そこで今回は、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が交通事故の後遺障害の等級や認定について、わかりやすく解説します。
1、後遺障害等級の認定とは何か?
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(1)後遺障害とは? 後遺症との違い
交通事故の賠償における後遺障害とは「傷害が治ったとき身体に存する障害」という言われ方をしています。後遺障害は自覚症状だけではなく医学的な見解やレントゲンなどを確認して「認定」されると、後遺障害の慰謝料や逸失利益といったお金を受け取ることが可能です。
しかし、「痛みや不快な症状が残っているだけ」では、「後遺障害がある」と認定されるわけではありません。慰謝料や逸失利益を受け取るためには、自分の症状に応じた「後遺障害の等級」を認定してもらわなければならないのです。
追突事故に遭い、むちうちになり半年近く通院したものの痛みや不快感が取れない、という状態は「後遺症がある」とは言えますが、後遺障害の等級の認定を受けていないことから後遺障害とはいえないため、保険会社や加害者から後遺障害慰謝料や逸失利益を受け取ることはできません。 -
(2)後遺障害の等級とは
交通事故の後遺障害は症状に応じて等級が決められています。1級から14級までに分けられており、1級が一番重い後遺障害です。後遺障害の等級は自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)について定めている「自動車損害賠償保障法施行令」によって定められています。
1級は、「両眼が失明した」場合や「腹部などの臓器に障害があり常に介護が必要な状態になった場合」など、非常に重い後遺障害がある場合に認定されます。一番症状が軽いとされる14級は「1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃した」場合や、むちうちなどで「局部に神経症状を残す」場合などが該当するとされています。ちなみに、これらの等級の基準は労災の際に支払われる労災保険の基準が元になって作られています。
むちうちの場合は痛みや痺(しび)れが残っているからといって全てが後遺障害に認定されるわけではなく、さまざまな条件を満たさなければなりません。
2、後遺障害等級が認定されるとどうなるのか?
後遺障害の等級が認定されると、受け取ることができる賠償金が増額します。通常、交通事故の賠償金は、怪我の治療費などの実費と、慰謝料や休業損害などが支払われます。
しかし、後遺障害が認定されると、後遺障害の等級に応じた慰謝料と逸失利益を受け取ることができます。
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(1)後遺障害が認定されると受け取ることができる「慰謝料」と「逸失利益」
後遺障害等級が認定されると、等級に応じた慰謝料と逸失利益が支払われます。慰謝料とは、後遺障害が生じたことによる精神的苦痛を補うものです。それに対して逸失利益とは後遺障害の影響で、将来に受け取るべき収入が減少することに対する賠償金です。自賠責保険では、等級ごとに、何%の収入の減少が生じるかが規定されています。むちうちで認定されやすい14級の場合は5%です。
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(2)後遺障害等級の賠償金額と計算方法
自賠責保険では、等級ごとに支払われる慰謝料と逸失利益の合計額が明確に規定されています。むちうちで認定されることが多い14級の場合は75万円が限度額です。1級の場合は4000万円が限度額になります。
ただし、これらの限度額は「自賠責保険基準」といって、後遺障害の慰謝料等の計算基準では一番低額なもので計算した場合です。後遺障害の慰謝料の計算基準も、通常の慰謝料の計算基準と同じく三つの計算基準があります。- 自賠責保険基準
- 任意保険基準
- 裁判基準
自賠責保険基準が一番低額で、同額か少し高額になる程度の任意保険基準、そして2倍以上の慰謝料を受け取ることができる可能性がある裁判基準です。裁判基準とは、裁判の際に使われる基準ですが、裁判をしなくても弁護士を通して交渉する際も利用されますので、弁護士に交渉を依頼するだけで、同じ症状でも高い後遺障害慰謝料を請求することが可能です。
3、後遺障害等級の認定は誰がするのか?
後遺障害等級の認定は原則として「損害保険料率算出機構」が行います。損害保険料率算出機構とは、自賠責保険の請求内容を確認したり、後遺障害に該当するかどうかや等級を認定したりする機関です。保険会社は損害保険料率算出機構のことを「調査事務所」と呼ぶこともあります。
なぜ、損害保険料率算出機構が認定するかというと、自賠責保険は国の強制保険だからです。自賠責保険から支払われる保険金は、公平でなければなりません。同じ症状を抱える人が、全く異なる基準で後遺障害の等級が認定されると、非常に不公平な状況が生まれてしまいます。そのため、損害保険料率算出機構という第三者機関が客観的に資料やレントゲン、診断書などから後遺障害の有無や等級を決定するのです。
ちなみに、損害保険料率算出機構は、後遺障害等級の認定だけでなく、治療費や慰謝料が妥当かどうかも判断しています。交通事故の被害者になった場合、任意保険の会社が窓口となり、怪我の治療費や慰謝料を支払いますので、被害者側には関わりがないかもしれませんが、支払われた治療費や慰謝料等が妥当かどうかは、損害保険料率算出機構と保険会社が直接やりとりしているのです。
4、後遺障害等級認定の流れ
後遺障害等級はどのような流れで認定されるのでしょうか。まずは、後遺障害の診断書を作成するまでの流れを解説します。
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(1)事故発生から後遺障害の診断書を作成するまでの流れ
●交通事故の発生と治療の開始
事故の被害に遭い、痛みや違和感、不快な症状がある場合は、整形外科などの医療機関を受診します。
●加害者の任意保険会社による対応がスタート
事故後、加害者が保険会社と連絡を取り、被害者側の怪我に対する対応が始まります。通常として治療費等は立て替える必要がなく、全額保険会社が負担します。
●継続的に通院
症状が全て無くなれば「完治」ですが、症状を感じている間は継続して通院します。完治していないのに保険会社が治療費の支払いを停止したり、治療をやめるように通知してくることもありますが,その場合は弁護士に相談しましょう。
●症状固定
治療を継続しても、これ以上症状が改善しないと医師が判断すると「症状固定」と言って、治療が終了することになります。症状は残っている状態なので、医師に後遺症の有無を判断してもらいましょう。
●後遺障害診断書を作成、レントゲンなどの撮影
医師が「後遺障がある」と判断した場合は、後遺障害の診断書を作成してもらいます。その際に、後遺障害があることが客観的にわかるレントゲンなどの画像があるとよりよいでしょう。 -
(2)任意保険会社に手続きを依頼する場合の流れ「事前認定」
後遺障害の診断書が完成したら、認定のための手続きを行います。後遺障害の請求手続きには任意保険会社が行う「事前認定」と、被害者や被害者の代理人である弁護士が行う「被害者請求」の2種類があります。まずは事前認定の流れを解説します。
●任意保険会社に「事前認定」の手続きを依頼する
保険会社に手続きを依頼する場合、後遺障害の診断書の準備やレントゲンの取得などの必要な手続きは全て保険会社が行います。被害者はほとんど手続きを行わなくてもよいので、多くの被害者が保険会社に手続きを依頼します。しかし、保険会社は被害者の利益を追求する「代理人」ではないので、後遺障害の認定がされるために、被害者の立場に立って手続きを進めてくれるわけではありません。
●任意保険会社が損害料保険率算出機構に書類を送付する
任意保険会社は、被害者が通院していた病院などの関係機関から必要書類を取りそろえて、損害保険料率算出機構に書類を送付します。
●損害保険料率算出機構が調査して該当するかどうかと等級を決定
損害保険料率算出機構は、書類を確認して後遺障害があるかどうかを判断します。後遺障害があると判断した場合は、何級に該当するかという等級も判断します。
●損害保険料率算出機構から保険会社に調査結果を通知、保険会社が被害者に通知
後遺障害に該当するかどうかや等級は損害保険料率算出機構から保険会社に通知されます。その結果を保険会社が被害者に知らせます。
結果に納得がいかなければ、「異議申し立て」という手続きを行います。 -
(3)被害者請求する場合の流れ
被害者請求とは、被害者が自賠責保険会社に直接保険金を請求する手続きです。
事前認定とは異なり、さまざまな手続きを全て自分で行わなければなりませんが、その分、後遺障害が認定されやすいように工夫することができるため、後遺障害の認定を受けたい方は被害者請求することが多い傾向にあります。
ただ、書類の収集や作成が非常に煩雑なため、自分で行うのではなく、弁護士に依頼して手続きを代行してもらう方が多数です。
●病院等の関係各所から書類を集める
後遺障害の認定のためには、診断書やレントゲンなどの画像が必要なので、各医療機関に依頼して必要書類を送付してもらいます。
●書類を自賠責保険会社に送付する集めた書類、作成した書類を自賠責保険会社に送付します。任意保険会社ではなく、自賠責保険会社に送付しなければならないので、注意しましょう。
●自賠責保険会社が損害保険料率算出機構に書類を送付する
自賠責保険会社は、後遺障害の有無を判断できませんので、損害保険料率算出機構に書類を送付します。
●損害保険料率算出機構が後遺障害の有無や等級を判断
送られてきた書類を確認して、後遺障害の有無や等級を決定します。
●結果を通知
損害保険料率算出機構は、自賠責保険会社に結果を通知し、自賠責保険会社が被害者に結果を知らせます。結果に納得がいかなければ異議申し立てを行います。
5、まとめ
後遺障害が認定されると、受け取ることができる賠償金の総額がアップするため、長期間通院しても、症状が改善されないとお悩みの方は後遺障害の認定を検討しましょう。ただし、任意保険会社に手続きを依頼すると、等級が認定されにくい傾向がありますので、弁護士に依頼して「被害者請求」を行うことをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスには後遺障害等級認定の実績が豊富な弁護士が在籍していますので、あなたの後遺障害認定の手続きを迅速かつ確実に行います。1人で悩まずまずは相談してください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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