処分保留で釈放とは? 処分保留になる理由や再逮捕の可能性
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令和5年11月に時効が成立しようとしていた千葉市内の死亡交通事故について、同年9月、千葉北署は自動車運転処罰法違反の容疑で男性を逮捕しましたが、処分保留で釈放されました。今後は任意で捜査を継続するとのことです。
このように、身柄拘束期間中に起訴・不起訴の判断が行われず、「処分保留」で釈放されるケースは少なくありません。
処分保留で釈放となった場合、それが何を意味するのか、またその後どのように手続きが進行するのか、よくご存じでない方も多いことでしょう。
この記事では、処分保留の意義や、逮捕・勾留の後に処分保留で釈放となった場合の手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、処分保留とは?
刑事事件における「処分保留」とは何なのか、どのような場合に行われるのかなどについて、基本的な点を解説します。
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(1)起訴・不起訴の判断を保留して身柄を解放すること
犯罪の疑いを持って被疑者(容疑者)を逮捕した場合、検察官は被疑者を起訴するか、それとも不起訴とするかを決定しなければなりません。
通常の事件であれば、逮捕とそれに続く身柄拘束の起訴前勾留が行われている期間中に、検察官は起訴・不起訴の判断を行います。
しかし、何らかの理由によって、身柄拘束期間中に「起訴・不起訴の判断を行うことができない」、または「機が熟していないと判断される」ことがあります。
この場合、起訴・不起訴の判断を保留して、被疑者の身柄を解放したうえで、引き続き捜査などを行うことになります。
これがいわゆる「処分保留」です。 -
(2)処分保留になるタイミングと理由
刑事事件の被疑者が処分保留となるパターンには、主に以下の二つがあります。
① 身柄拘束期間中に犯罪を立証できるだけの証拠が集まらなかった場合
検察官は、被疑者が罪を犯したことが間違いないと確信できる程度に犯罪の証拠が集まらなければ、基本的に被疑者を起訴することはありません。
(もちろん検察官の主観なので、刑事裁判で被告人が無罪になることはあり得ます。)
しかし、逮捕には最長72時間、起訴前勾留には最長20日間の厳しい期間制限が設けられています。
この期間内にすべての捜査を終えることができなかったり、決定的な証拠をつかみきれなかったりした場合には、身柄拘束期間中に被疑者を起訴することはできません。
この場合、起訴前勾留の期限が切れるタイミングで、検察官は直ちに被疑者を釈放しなければならないのです(刑事訴訟法第208条第1項)。
しかし、引き続き捜査を行えば、被疑者を起訴できるだけの証拠が集まるかもしれないと検察官が考える場合には、その段階で不起訴処分を行うことはせずに、処分保留で被疑者の身柄を解放することになります。
② 余罪の捜査状況次第で起訴することを検討している場合
逮捕・勾留されている罪自体は軽微であり、起訴猶予処分が相当と判断される場合でも、余罪と併せれば起訴相当になる可能性があるというケースがあり得ます。
このようなケースでは、余罪について犯罪事実を立証できるめどが立った段階で、余罪と併せて起訴を行うという判断がなされる場合があります。
この場合、「最初に逮捕・勾留をしていた罪」については処分保留で釈放とし、後日に起訴・不起訴の判断が行われます。 -
(3)処分保留と不起訴の違いは?
処分保留が起訴・不起訴の判断を保留したまま被疑者の身柄を解放することであるのに対して、「不起訴」は「公訴を提起しないことを確定させる処分」です。
したがって、身柄拘束から解放される段階で被疑者が不起訴処分となった場合には、それ以上当該犯罪についての捜査が行われることはなく、その後改めて起訴されることもありません。
2、処分保留後、後日起訴や再逮捕をされる可能性はあるのか
処分保留は終局処分ではないので、被疑者の法的地位は依然として不安定な状態に置かれています。処分保留で釈放となった被疑者が、その後起訴や再逮捕が行われる可能性があるのかという点について、法律上の整理を見てみましょう。
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(1)可能性は低いが起訴はあり得る
処分保留で釈放された被疑者については、まだ起訴・不起訴の判断が行われていない状態ですので、後日起訴されることはあり得ます。
しかし、身柄拘束期間に起訴されなかったということは、検察官としても、当該犯罪だけで起訴することは難しいという心証を抱いていることが多いです。
そのため、余罪の捜査が並行している場合を除けば、「処分保留後に起訴される可能性は低い」といえるでしょう。 -
(2)同じ犯罪での再逮捕は極めて例外的
処分保留で釈放された後、同一の犯罪事実について再逮捕による身柄拘束を行うことは、法律上禁止されているわけではありません(刑事訴訟法第199条第3項参照)。
しかし、身柄拘束の期間を厳格に定めている刑事訴訟法の趣旨から、再逮捕は原則として認められないというのが通説的な考え方です(一罪一逮捕一勾留の原則)。
しかし、例外的に同一犯罪事実について処分保留による釈放後に再逮捕されてしまったという場合には、速やかに弁護士へご相談いただくことをお勧めします。 -
(3)別の犯罪で再逮捕・起訴される可能性もある
一罪一逮捕一勾留の原則は、同一の犯罪事実についてのみ適用されます。
そのため、別の犯罪事実について余罪捜査が行われている場合には、その犯罪事実について再逮捕・起訴される可能性は十分考えられます。
処分保留後にも余罪捜査が続いている場合には、引き続き不起訴に向けた活動を行っていくことが重要です。
3、誤認逮捕されて処分保留となった場合の対処法は?
犯罪事実について身に覚えがなく、誤認逮捕であるにもかかわらず、不起訴ではなく処分保留で釈放された場合には、その後どのように対応すればよいのでしょうか。
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(1)引き続き検察官に対して無実を訴える
誤認逮捕である以上、検察官が犯罪に関する証拠をつかむことができず、被疑者の身柄を解放することになるのは必然といえます。
しかし、処分保留である以上は、その後起訴されてしまう可能性は否定できませんので、引き続き無実を訴えることが大切です。 -
(2)被疑者補償を受ける
処分保留後、結局不起訴処分となった場合には、検察官から「被疑者補償」を受けることができる場合があります(被疑者補償規程(法務省訓令))。
被疑者補償の金額は、拘束期間1日当たり1000円~1万2500円で、以下の事情を総合的に考慮したうえで決定されます(動規程第3条第1項、第4条の2)。- 拘束の種類と期間の長短
- 本人が受けた財産上の損失、逸失利益
- 精神的苦痛
- その他一切の事情
被疑者補償の内容や手続きについては、弁護士や検察官に確認してみてください。
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(3)虚偽告訴をした人を訴える
多くの場合、被疑者補償の金額は十分ではなく、被疑者が誤認逮捕によって受けた損害を埋め合わせるには足りません。
もし誤認逮捕が被害者を名乗る人などによる虚偽告訴により引き起こされた場合、虚偽告訴をした人に対して「民事上の損害賠償」を請求することも考えられます。
誤認逮捕による被害の回復を目指す場合には、訴訟を見据えた入念な準備が必要となりますので、一度弁護士にご相談ください。
4、刑事事件に発展してしまったらすぐに弁護士に相談を
捜査機関により逮捕・勾留されてしまった場合、まずは不起訴に向けた活動を行うことが何よりも重要です。
一度起訴されてしまうと有罪になる可能性が高いため、起訴前の身柄拘束がされている間の活動内容が大切になります。
しかし、身柄拘束をされた状態では、自力では外部とのコミュニケーションが取れませんので、弁護士に窓口を依頼することをおすすめします。
弁護士(弁護人)は、立会人なくして被疑者と接見することができますので、弁護活動についての入念な打ち合わせを、捜査機関に秘密の状態で行うことが可能です。
さらに、弁護士が被害者・家族・検察官・裁判官などとの窓口を務めることによって、示談交渉、身元引受人の確保、違法捜査の排除、身柄拘束に対する不服申立てなど、不起訴に向けた活動の選択肢が大きく広がります。
5、まとめ
刑事事件で逮捕・勾留後、処分保留で釈放された場合、その後検察官によって起訴・不起訴の判断が行われるのを待つことになります。
特に余罪の捜査が並行している場合には、その後起訴されるケースも多いため、弁護士に相談して、引き続き不起訴に向けた活動を続けていくことが重要です。
ベリーベスト法律事務所の刑事事件専門チームは、依頼者を一刻も早く身柄拘束から解放するために尽力いたします。
刑事事件の被疑者となってしまった方は、お早めにベリーベスト法律事務所 千葉オフィスまでご相談ください。
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