前科があると就職は難しい? 前科がおよぼす経歴への影響を解説
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千葉県警察本部の発表によれば、令和2年に発生した県内の刑法犯認知件数は3万4685件となっており、千葉市は6075件ともっとも多いエリアとなっています。
過去に逮捕歴や前科がある場合、就職が難しいといわれますが、実際には、どうなのでしょうか。逮捕歴や前科がある場合は、不安に思う方も多いかもしれません。
この記事では、逮捕歴や前科をつけないためにすべきことや、逮捕歴や前科がついてしまった場合の対処などについて、弁護士が解説します。
1、前科について
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(1)前科とは?
「前科」とは、刑事裁判において有罪判決の言い渡しを受け、それが確定したという事実があることをいいます。これと似た言葉で「前歴」や「逮捕歴」というのがあります。
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(2)前歴との違い
「前歴」とは、警察や検察等の捜査機関によって、刑事事件の被疑者として、捜査の対象となった事実のことをいいます。
たとえば警察から被疑者として捜査の対象になった場合などです。また、嫌疑はあるものの、証拠不十分で不起訴になった場合や起訴されたが有罪判決を受けなかった場合も前歴として記録に残ります。
「不起訴」というのは、起訴されなかったことです。不起訴でもなぜ前歴が残るかというと、不起訴=無罪ということではなく、「嫌疑不十分」や「起訴猶予」などのケースもあるからです。
嫌疑不十分とは、被疑事実につき、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分な状態です。つまり、裁判で有罪にするには証拠が不十分で起訴しないということです。
「起訴猶予」は、犯罪の証拠もあるが、被害者の年齢や境遇、反省の程度、犯罪の内容や軽重などを総合的に判断し、検察官の裁量により起訴を見送ることです。
このように不起訴になったとしても、「犯罪を行っていない」ということではありません。記録に残すことによって、次に逮捕された場合に、慎重に判断される材料となり得るのです。
前歴は、警察や検察などの捜査機関に残るだけで、原則として外部に知られることはありません。
ただ、次に犯罪を行った場合、前歴があると不利に扱われる可能性があります。 -
(3)逮捕歴との違い
「逮捕歴」とは、刑事事件の被疑者として逮捕されたことがあるという履歴です。
警察に逮捕されたが、検察で不起訴になり釈放されるということはよくあることですが、逮捕されたという事実は警察に記録として残ります。前歴と同様、次回犯罪を行った場合、不利に扱われる可能性があります。
逮捕されて送検されたけれども不起訴になった場合には、前歴と逮捕歴があることになります。
2、前科があると就職できない?
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(1)前科と就職の関係
前科があると、就職はできないのでしょうか。結論からいうとそのようなことはありません。法務省や厚生労働省では、刑務所から出所した人の就職支援(求人情報の提供)も積極的に行っています。前科については市役所で名簿が管理されていますが、企業からの照会には応じていないので、基本的に企業が前科を調べることはできません。
ただし、ニュースになるような事件を起こした場合、名前がインターネット上に残る可能性が高くなります。企業が名前で検索すれば犯罪事実や前科が判明する可能性があります。
また、履歴書に「賞罰」欄がある場合には前科を記載しなければならず、面接で前科があるか聞かれた場合には、前科があることを答える必要があります。その結果、前科を理由に事実上入社を断られることはあるでしょう。
ちなみに、「賞罰」欄に前科があるのに記載しなかった場合や面接で前科があるのか聞かれて前科があるのに「ない」と答えてしまった場合には経歴詐称となるため、それを理由に解雇される可能性もあります。 -
(2)前科があるとつくことができない主な職業
① 公務員
禁錮刑以上の前科がある場合、あるいは刑務所に服役中または執行猶予中は公務員にはなれません(国家公務員法38条、地方公務員法16条参照)。ただし、刑期が終わり出所した場合や執行猶予期間が経過した場合には、公務員試験を受けることができます。
② 法律家
禁錮刑以上の前科がある場合には裁判官、検察官、弁護士(裁判所法46条、検察庁法20条、弁護士法7条参照)になることができません。
ただし、執行猶予期間が経過した場合や刑務所を出所後、罰金以上の刑に問われずに10年経過するなど「刑の言い渡しの効力がなくなった」場合にはなることができます。
もっとも、前科がある場合には、事実上裁判官や検察官として採用される可能性は低いといえるでしょう。
③ 医療関係者
罰金以上の前科がある場合には、医師(医師法4条)、歯科医師(歯科医師法4条)、薬剤師(薬剤師法5条)、保健師・助産師・看護師・准看護師になることはできません。
ただし、刑の言い渡しの効力がなくなった場合には可能です。罰金刑の場合、罰金を納めた日から、罰金以上の刑が確定することなく5年を経過したときに、刑の言い渡しの効力がなくなります。
④ 士業
禁錮刑以上の前科がある場合には、公認会計士・税理士・司法書士・行政書士(公認会計士法4条、税理士法4条、司法書士法5条、行政書士法2条の2参照)などの士業に就くことはできません。
ただし、執行終了または執行されなくなった時から3年間を経過すればなることができます。
3、前科情報や逮捕歴はいつまで残る?
結論から言うと、検察庁や裁判所で保管される事件記録の中では、犯罪履歴が残り続けます。
前科がついた事実は消えることがありません。
これは、執行猶予が取り消されずに、執行猶予期間が満了した場合も同じです。したがって、前科がつかないようにすることが大事になります。
前科は消えませんが、刑の言い渡しの効力は一定の要件を満たすと消えます。刑の言い渡しの効力が消えることで資格や就職の制限が解除されるものがあります。
執行猶予期間が満了すること(刑法27条)
② 罰金以下の刑になった場合:
罰金以上の刑に処せられずに刑罰の終了から5年経過すること(刑法34条の2第1項ただし書)
③ 禁錮以上の刑になった場合:
罰金以上の刑に処せられずに刑罰の修了から10年経過すること(刑法34条の2第1項本文)
なお、前歴や逮捕歴は、捜査機関が独自に保管している情報なので、こちらも消えることはありません。
気をつけなければならないのでネットに掲載された情報履歴です。話題となった事件であれば、逮捕歴なども氏名検索で判明する可能性があります。
このような場合の対処法としては、サイト運営者に対する削除請求の申し立てがあります。サイト運営者が削除に応じない場合、プロバイダに削除要請をすることもできます。ただ、強制できるわけではないので、最終的には裁判で削除を求める必要があります。
4、前科をつけないことが重要
前科があると、資格の制限を受けたり、事実上就職が難しくなったりするなどの不利益が生じます。そのため、犯罪を行ってしまった場合には前科がつかないようにすることが重要となります。
説明したとおり、逮捕されたとしても不起訴になれば、前歴や逮捕歴はつきますが、前科はつきません。前科がつかなければ、基本的に不利益は生じないため、逮捕された場合には不起訴を勝ち取ることがポイントです。
したがって、逮捕された場合には、すみやかに弁護士に依頼して不起訴となるように対策を講じることを検討しましょう。被害者に対する被害弁償や検察官との交渉などは、被疑者に代わり弁護士が進めます。
仮に起訴され、前科がついた場合でも、執行猶予がつけば、執行猶予期間の経過の満了をもって、刑の言い渡しの効力はなくなります。その場合、資格制限も解除されるものが多いので、執行猶予が得られるかもまた重要なポイントになります。
また、過去の逮捕に関するネットへの書き込みの削除要請や、ネット記事削除に関する裁判についても、弁護士に依頼することで解決できる場合がありますので、併せて相談することをおすすめします。
5、まとめ
今回は、前科と前歴・逮捕歴との違いや就職の制限などについて解説してきました。
何より大事なことは、前科がつかないようにすることであり、そのためには、逮捕後すぐに弁護士に弁護を依頼することです。
仮に前科がついてしまった場合でも、刑の言い渡しの効力がなくなれば、資格制限も解除されるので、前科があるからと自暴自棄になる必要はありません。当然、前科があることで、就職活動がうまくいかないこともあると思いますが、それも含めて罪を償うことだと考え努力するしかありません。
ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスでは、刑事弁護について経験豊富な弁護士が在籍しております。もしご自身やご家族が逮捕されてしまったという場合には、できるだけ早くご連絡ください。
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