ネットの誹謗中傷が法律で問われる罪は? 逮捕されるケースも解説
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千葉県では、県内すべての中学校・高等学校・特別支援学校などを対象に、生徒が保有するSNSアカウントなどについて検索・監視(ネットパトロール)を行っています。
千葉県が発表している「令和2年度青少年ネット被害防止対策事業(ネットパトロール)の実施結果について」によると、1014件の問題がある書き込みが発見されました。そのうち、個人を特定した誹謗・中傷は50件あったとのことです。
インターネット上に、軽い気持ちで他人の誹謗中傷記事などを投稿してしまうと、犯罪として罰せられるおそれがあります。そのため、SNSや掲示板などを利用する際には、許されない誹謗中傷について、正しい知識を持たなければなりません。
万が一、誹謗中傷の投稿をしてしまったことについて心当たりがある場合には、弁護士に相談することをおすすめします。本コラムでは、インターネットに誹謗中傷の投稿を行った方が問われる可能性のある犯罪などについて、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、誹謗中傷は法律上どのような罪に問われるのか?
他人に対する誹謗中傷は、犯罪に当たる可能性があるので、軽い気持ちであったとしても行うべきではありません。
まずは、誹謗中傷がどのような犯罪に当たるのかについて解説します。
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(1)名誉毀損罪
公然と事実を摘示したうえで、他人の名誉を毀損した場合には「名誉毀損罪」が成立します(刑法第230条第1項)。
(名誉毀損罪の例)
- 「Aは不倫をしている」
- 「Bは会社の金を横領したらしい」
- 「C社は食品偽装を行っている不届きな事業者だ」
名誉毀損罪のポイントは、なんらかの「事実を摘示」して誹謗中傷を行っている点です。
法律においては、「事実」と「真実」は異なります。
名誉毀損罪における「事実」には、内容が「真実」であるものも内容が虚偽であるものも両方とも含まれます。
つまり、摘示される事実が、客観的な正確性のある真実であるかどうかにかかわらず、名誉毀損罪は成立する可能性があるのです。
事実の摘示がされると、誹謗中傷の言動が信ぴょう性を増し、被害者の外部的名誉(他人からの評価)がより強く害されると考えられています。
そのため、名誉毀損罪の法定刑は「3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金」と、懲役刑の可能性もある重い犯罪とされているのです。 -
(2)侮辱罪
事実を摘示してはいないが、公然と他人を侮辱した場合には「侮辱罪」が成立します(刑法第231条)。
(侮辱罪の例)
- 「Dみたいなバカの考えていることは理解できない」
- 「Eは人間のクズだから何を言っても無視すべき」
- 「Fのような不細工はテレビに出るべきではない」
侮辱罪に当たる誹謗中傷は、事実の摘示がない分、第三者からも「主観的で根拠のない言動だ」という印象を持たれることが多いと考えられます。
そのため、名誉毀損罪よりは被害者の外部的名誉に与える悪影響が小さく、法定刑も「拘留または科料」と、極めて軽くなっているのです。
なお、「拘留」と「科料」の具体的な内容は、下記の通りになります。- 拘留:1日以上30日未満の間、刑事施設に拘置(刑法第16条)
- 科料:1000円以上1万円未満の金銭を納付する(刑法第17条)
もっとも、インターネット上での誹謗中傷により被害者が自殺する等、昨今のインターネットにおける誹謗中傷の深刻化に対し対策を強化するなどの目的から、令和3年の10月21日に、法制審議会は侮辱罪を厳罰化するための法整備について法務大臣に答申しました。
そして、令和4年3月8日、政府は、侮辱罪について「1年以下の懲役若しくは禁錮、30万円以下の罰金、または拘留若しくは科料」と厳罰化した内容の改正案を閣議決定しました。これによれば、従来は1年であった侮辱罪の公訴時効が3年となります。
そのため、今後は法改正されて侮辱罪にも懲役刑・禁錮刑が制定される可能性がある点に、ご注意ください。
2、誹謗中傷によって逮捕されるケースもある
犯罪にあたるような誹謗中傷を行った場合、警察によって逮捕されてしまう可能性があります。
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(1)罪証隠滅・逃亡のおそれがあると逮捕される可能性がある
警察が被疑者を逮捕するには、原則として、裁判官が発する逮捕状が必要となります(刑事訴訟法第199条第1項本文)。
逮捕状の発行には、「罪を犯したことを疑うに足る相当の理由」に加えて、逮捕の必要性として「罪証隠滅のおそれ」または「逃亡のおそれ」のいずれかが必要と解されています(刑事訴訟規則第143条、第143条の3)。
インターネット上の誹謗中傷は、投稿内容やアカウントの削除等によって加害者が誰であるか分かりにくくなるため罪証隠滅の余地が大きく、「罪証隠滅のおそれ」を理由に逮捕される可能性が決して少ないとはいえません。
一方で、以下のような場合に該当すれば、「逃亡のおそれ」が認められて逮捕される可能性もありますので、注意してください。- 単身者の場合
- 賃貸住宅に居住している場合
- 定職に就いていない場合
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(2)悪質な名誉毀損罪のケースでは特に逮捕リスクが高い
事実を摘示しない侮辱罪の場合、現行刑法・刑事訴訟法の下では、警察が被疑者を逮捕できるのは、住居不定の場合または正当な理由なく出頭の求めに応じない場合に限られます(刑事訴訟法第199条第1項但し書き)。
一方で、事実を摘示する名誉毀損罪の場合は、通常の逮捕に関する前述のルールが適用されます。
特に、誹謗中傷の内容があまりにもひどい場合や、被害者が自殺するなど深刻な被害を生じた場合には、加害者が罪証隠滅したり逃亡をする可能性は高くなるため、逮捕の可能性は飛躍的に高まるでしょう。 -
(3)改正プロバイダ責任制限法により、投稿者の特定が容易に
「匿名で投稿しているのだから、逮捕されるわけがない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、プロバイダ責任制限法に基づく「発信者情報開示請求」(同法第4条第1項)を活用すると、匿名の投稿者が特定される可能性があるのです。
なお、プロバイダ責任制限法の正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」となります。
発信者情報開示請求は、これまでその使いにくさが問題となっていました。
しかし、令和3年4月に改正法が成立して、令和4年9月までには施行される予定となっています。
改正プロバイダ責任制限法が施行された後には、発信者の情報開示請求を1回の手続きですませることができる新たな手続きが創設される等の改正がなされたため、投稿者の特定がいっそう容易になるでしょう。
そのため、今後は、インターネット上に匿名で誹謗中傷の投稿を行うことについても、これまで以上に厳しく慎まなければならず、決して行ってはいけないといえます。
3、誹謗中傷で逮捕された場合の流れ
もし誹謗中傷で逮捕されてしまった場合には、刑事手続きの流れに沿って処分が決定されます。
逮捕後の刑事手続きの大まかな流れは、以下のとおりです。
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(1)最大23日間の身柄拘束(逮捕・起訴前勾留)
逮捕の期間は最長72時間(3日間)(刑事訴訟法第205条第2項)で、その間に検察官が「勾留」に切り替えて引き続き身柄を拘束すべきかどうかを判断します。
検察官が勾留請求を行い、かつ裁判官が勾留の要件・必要性を認定すれば、「起訴前勾留」として引き続き被疑者の身柄が拘束されます(同法第207条第1項、第60条第1項)。
起訴前勾留の期間は10日間ですが(同法第208条第1項)、さらに最大10日間の延長が認められる可能性があります(同条第2項)。
したがって、逮捕・起訴前勾留の期間は、通算して最大23日間となります。 -
(2)起訴or不起訴
逮捕・起訴前勾留の期間中に、捜査機関が捜査を尽くして、被疑者を起訴するかどうかを判断します。
起訴・不起訴の判断は、犯罪事実の内容や重大性に加えて、被疑者に関する情状なども総合的に考慮したうえで、検察官が決定します。
犯罪事実が認められる場合でも、反省の態度や示談の状況などをふまえて、不起訴処分になることがあり得ます。 -
(3)起訴された場合は引き続き起訴後勾留
被疑者が不起訴処分となった場合、そこで刑事手続きは終了となります。
一方、被疑者が起訴された場合は、「起訴後勾留」へと自動的に切り替わり、引き続き身柄拘束が行われます。
起訴後勾留の期間は2カ月ですが、1カ月ごとに更新することが認められています(刑事訴訟法第60条第2項)。
なお起訴後勾留期間中は、裁判所によって保釈が認められる可能性があります(同法第89条、第90条)。 -
(4)公判・判決
被疑者は起訴されると被告人となり、公判手続きを経て、判決により有罪・無罪の判断および有罪の場合には量刑の判断を受けます。
公判手続きは、検察官が被告人の犯罪事実や情状事実を立証して、被告人がそれに反論する、という形式で進行します。
公判の最後に、裁判所から判決が言い渡され、有罪・無罪の判断及び有罪の場合には量刑の判断を受けます。
その後、判決が確定すれば、有罪の場合には刑事罰が科されることになるのです。
4、誹謗中傷で逮捕された場合に弁護士へ相談するメリット
誹謗中傷の投稿をしたことを理由に逮捕されてしまった場合には、いち早く弁護士へ相談することをおすすめいたします。
刑事手続きから一日も早く解放されるためには、不起訴処分を得ることがもっとも望ましいのです。
弁護士に依頼すれば、被害者との示談交渉などを中心とした、検察官に対して「被疑者を不起訴にすべきだ」と主張するための弁護活動を弁護士に一任することができます。
また、弁護士は、「被疑者と家族とのやり取りの窓口」という役割も担っています。
弁護士には接見交通権(刑事訴訟法第39条第1項)が認められており、原則として被疑者・被告人と立会人なく自由に面会できます。
そのため、家族が被疑者に何かを伝えたい場合には、弁護士に依頼することが必要となるのです。
また、弁護士に依頼すれば、起訴されてしまった場合に開かれる公判手続きへの準備も整えることができます。
公判手続きに発展する場合であっても、無罪判決や執行猶予付き判決を得られる可能性があるので、検察官の主張に対する適切な反論を準備することが重要です。
弁護士への依頼により、身柄拘束が行われている最中にも、充実した公判準備を行うことが可能になります。
誹謗中傷で逮捕されてしまうと、最悪の場合、懲役刑に処されてしまうおそれがあります。
もし誹謗中傷で逮捕されてしまった場合や、誹謗中傷に心当たりがあるという場合には、お早めに、弁護士にまでご連絡ください。
5、まとめ
誹謗中傷の投稿は、名誉毀損罪または侮辱罪に当たる可能性があり、場合によっては逮捕されてしまうおそれもあります。
そのため、まずは、誹謗中傷を慎むリテラシーが極めて重要です。
もし誹謗中傷の投稿を行ってしまった場合には、弁護士にまでご相談ください。
ベリーベスト法律事務所では、被害者との示談交渉、公判での弁護活動などを通じて、誹謗中傷の加害者となった方もサポートいたします。
千葉県内にご在住で、心ならずも誹謗中傷の投稿を行ってしまった方は、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスにまでご連絡ください。
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