家族がストーカーの容疑者に? 弁護士が改正ストーカー規制法を解説
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平成30年8月、千葉県浦安市で20代の女性が元交際相手の男性から首を絞められる事件が発生しました。男性は、被害者の女性に対するストーカー行為について法に基づく警告を受けていたと報道されています。
ストーカー規制法の改正によって、規制対象となるストーカー行為は、より実態に即した内容に改正されています。意中の相手に自らの感情を何としても伝えようとする、恋愛にはつきものと思われている行為でも、その方法によっては、ストーカー規制法によって刑罰の対象になることがあるのです。
ここでは、改正されたストーカー規制法の内容や罰則などについて、千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、規制が強化されたストーカー規制法の概要
平成11年に発生した桶川ストーカー事件を契機に立法された「ストーカー行為等の規制等に関する法律(通称:ストーカー規制法)」は、当時想定されたストーカー行為を規制する目的で作られたものでしたが、新たな態様の行為など、日々発生する社会情勢の変化に即していない面が多々あったことから、非常に速いペースでの改正が行われています。
平成29年から適用されている最新のストーカー規制法では、ストーカーの定義や規制する行為、罰則などについて、次のように定めています。
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(1)ストーカーの定義
ストーカー規制法で規制対象としている行為は、その目的も詳細に定められています。具体的には、恋愛感情、その他の相手を好きだというような感情やその感情が満たされなかったことに対する恨みの感情を満たす目的でその相手・元交際関係にあった相手・これらの相手の家族などに対して、つきまとったりなどの行為です。
もし、恋愛感情などはなく、別の目的でつきまといなどの行為をしたとしても、ストーカー規制法が規制する行為とはみなされません。この点を勘違いしている方が多いようです。ただし、この場合は、各都道府県で規定されている迷惑防止条例などで取り締まりを受ける可能性があるでしょう。
それでも状況的にストーカー規制法違反と考えられるような行為をしていると、ストーカー規制法に基づいた取り締まりを受ける可能性もあるでしょう。ストーカー規制法の規制対象となる行為をしていると疑われそうな、もしくは疑われている状況下で、どうしても本人に伝えたいことがあったり、貸金の返済を求めたりするために面会を求めたいときなどは、法的な手段で対応したほうがよいかもしれません。 -
(2)つきまとい等
ストーカー規制法には、第2条第1項に「つきまとい等」を規定しています。今お話ししたような目的で、次の8つの類型に当たる行為をすることとされています。
①つきまとい、待ち伏せ、進路の立ちふさがり、住居等の見張り、押し掛け、うろつき等
尾行したり、つきまとったり、自宅や職場、学校などの付近で見張りをしたり、訪問したりのほか、改正後は新たに「みだりにうろつくこと」も規制の対象へ。
②監視していると告げる行為
服装や行動などについて、電話やメールなどを使って告げたり、「監視しているぞ」などと伝えること。
③面会や交際の要求
「会ってほしい」「付き合ってほしい」「復縁してほしい」と求めたり。
④乱暴な言動
大声で怒鳴ったり、乱暴な内容のメールを送ったり、自宅などの前で車のクラクションを鳴らし続けたりすること。
⑤無言電話、拒否した後の連続した電話、ファクシミリ、電子メール、SNS等
電話をかけても無言を続ける、拒否しているのに連続して電話や電子メールなどを繰り返すほか、本改正でSNSを用いたメッセージや書き込みなども規制対象になった。
⑥汚物などの送付
汚物や動物の死体などを自宅や職場に送りつけたり、それを知り得る状態に置いたりすること。
⑦名誉を傷つける
中傷するような内容の文書やメッセージを送りつけたり、その内容を知り得る状態に置いたりすること。
⑧性的しゅう恥心の侵害
卑わいな内容の電話やメッセージの送信のほか、裸体の画像などをメールで送りつけたりすること。 -
(3)ストーカー行為
ストーカー規制法の第2条3項では、同一の者に対して(2)のつきまとい等を繰り返すこと(①から④、⑤のうちメールを送信等する場合については、身体の安全が害されるような方法で行われた場合などに限られます。)を「ストーカー行為」と規定しています。
つきまとい等を1回だけ行い、その後は一切行為に及ばない場合は、ストーカー行為とはみなされません。ただし、強要罪・名誉毀損(きそん)罪・軽犯罪法などの各種法令に触れる可能性はあるでしょう。 -
(4)罰則
ストーカー規制法による罰則は次の3つです。
●ストーカー行為をした者
1年以下の懲役または100万円以下の罰金
●禁止命令等に反してつきまとい等・ストーカー行為をした者
2年以下の懲役または200万円以下の罰金
●その他の禁止命令等に違反した者
6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金
改正前と比べると罰則が2倍に定められた行為もあり、禁止命令等の違反には懲役刑も新設されました。
2、ストーカー規制法違反で事件化された場合の流れ
これまでのストーカー規制法は、被害者の告訴がないと検察官が公訴を提起することができない「親告罪」でした。以前は、告訴という強い処罰意思がない限りは処罰できなかったのです。
ところが、告訴という手続きの煩雑さが、真の被害者保護の妨げとなっていたと判断され、平成29年から全面施行された改正版では、「非親告罪」になっています。つまり、この改正により、被害者が告訴(犯人の処罰を求める意思表示)をしなくても、取り締まりの対象となるということです。これにより、ストーカー事件は、より「事件化されやすい犯罪」になりました。
まず、被害者が警察にストーカー被害を申告し、まずは警告によって行為をやめさせることを希望した場合、警察署長は犯人に「警告」を発して行為の禁止を申し渡すことになります。
さらに、警告によっても行為がやまない場合や、警告を出すよりも強く規制する必要がある場合などには、公安委員会からの「禁止命令」が発出されます。禁止命令が発出されてもなおストーカー行為を犯せば、禁止命令違反(前記のとおり、罪が重くなります。)として逮捕されることがあります。
また、被害者の身に危険や強い侵害が及んでいる場合等、危険度や侵害が強いと認められれば、警告や禁止命令が出る前でも逮捕されることがあります。
もしストーカー規制法違反で逮捕されてしまった場合は、通常は、次のような流れで刑事手続きが進んでいきます。
- 逮捕(48時間以内の警察施設での身柄拘束)
- 送致(検察官への身柄引き継ぎ)
- 勾留(送致から24時間以内に決定、警察に身柄が戻されて10日~20日間の拘束を受ける)
- 起訴(勾留満期までに決定、検察官が裁判所に刑事裁判の開始を提起する)
- 被告人勾留(判決までの間、拘置所などで身柄を拘束)
- 判決(処罰の決定)
ストーカー事件では、警告や禁止命令という予告があった上での違反や、危険度や侵害度が強い被害に対して事件化することから、強制手段である逮捕に踏み切られるケースが少なくありません。したがって、適切な対応をしなければ、身柄の拘束が長期化する可能性も高いといえるでしょう。身柄の拘束を受けている間は、仕事や学校へ行くことはもちろん、帰宅することも許されません。身柄拘束が長期化すればするほど、さらに有罪となり前科がつけばなおさら、日常へ大きな影響を及ぼすことは否定できない事実です。
また、逮捕された犯人にとっては「ただ気持ちを伝えたかっただけ」「ストーカー行為はしていない」など、納得していないケースが多く、また、被害者に対する憎悪を持っていたりなどのため、入念な取り調べが必要なことが多く、勾留期間が長くなる傾向もあります。
3、ストーカー規制法違反事件で弁護士を選任するメリット
もし、あなた自身や家族や周囲の友人などがストーカー規制法違反事件の被疑者となった場合は、まずは弁護士に相談して適切なアドバイスを請うことをおすすめします。
警告や禁止命令を受けた場合は、その意味や遵守すべき事項をしっかりと把握する必要があるでしょう。これくらいなら大丈夫という自己判断は禁物です。また、これからどのように対応していけば良いのかを法律知識の専門家である弁護士の視点からアドバイスを受けることで、命令違反による逮捕を防止することができます。
警告の段階で被害者との接触を断つことができれば、逮捕による実名報道や勾留・刑罰による社会生活からの隔離などの不利益を被る可能性を限りなく低く抑えることができるでしょう。
被疑者として逮捕されてしまった場合も、できるだけ早いタイミングで弁護士を依頼することをおすすめします。逮捕後48時間以内で検察庁に送致されるまでの間は、たとえ家族でも面会が事実上制限されます。自由な面会が許され、状況を本人から聞いて把握し、本人に対して適切なアドバイスを行えるものは、弁護士に限られてくるのです。
ストーカー行為について真摯に反省している姿勢を弁護士に主張してもらうことで、勾留期間の短縮や刑罰の軽減など、不当に重い刑罰に処される可能性を回避することも期待できるでしょう。
4、まとめ
平成29年に改正されたストーカー規制法の概要などに触れながら、刑事手続きの流れや事件化された場合の対処法を解説しました。
強い恋愛感情が行動に移ってしまうと、ストーカーとして事件化されてしまう危険があります。もし、家族や友人などがストーカー規制法違反の容疑者として事件化されたり、逮捕されたりした場合は、すぐにベリーベスト法律事務所 千葉オフィスで相談してください。刑事事件に対応した実績が豊富な弁護士が、全力で弁護活動を行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています