不倫による慰謝料請求には時効がある? いつまでできるかを解説
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平成31年3月、千葉県木更津市在住の男性が娘婿に刺殺された事件が起きました。刺殺された男性の娘と犯人は離婚協議中だったと報道されています。離婚問題は、ときに周囲の人間を巻き込んだ大きなトラブルに発展してしまうのです。
特に、相手が不貞行為を行った場合は、憎しみや悲しみが大きく離婚の話し合いそのものが難航することが少なくありません。配偶者の不倫が原因で離婚する場合は、慰謝料を請求できますので、慰謝料の金額でもめるケースも少なくないでしょう。
では、慰謝料の請求には時効は存在するのでしょうか。今回は、不倫の慰謝料請求の時効についてベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が丁寧に解説します。
1、慰謝料が請求できる夫(妻)の不倫とは?
不倫の慰謝料請求の時効を確認する前に、慰謝料請求が可能かどうかをチェックしておきましょう。相手が不貞行為をしていても条件を満たしていなければ慰謝料を請求できない可能性もあります。
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(1)民法の定め
民法によると、「婚姻している夫婦はお互いに協力して扶助し合わなければならない」と規定されています(民法752条)。協力や扶助の中には、同居の義務や協力義務、扶助義務などが含まれていると考えられており、さらに、民法の条文では規定されていないものの、配偶者の不貞行為を離婚原因としていること(民法770条1項1号)や、重婚を禁止していること(同732条、刑法184条)などから、「貞操義務」もあると解釈されています。
これらの義務に違反している場合は、裁判上で離婚が認められますし、貞操義務に違反した場合は慰謝料の請求が可能です。
貞操義務に違反する不貞行為とは、一言でいうと「性行為が伴う交際」と考えられています。したがって、食事だけ、手をつないだだけ、キスだけなどは不貞行為とみなされづらい傾向があり、慰謝料請求が認められることは難しいケースがほとんどです。 -
(2)貞操義務違反には夫婦としての実体が必要
婚姻関係にある夫婦のどちらかが貞操義務に違反した場合でも、慰謝料の請求ができないケースが存在します。
それは、夫婦としての実体がない場合、つまり婚姻関係が破綻している場合です。不倫するまでは、仲むつまじく同居しており家庭が円満だった場合は、慰謝料の請求が可能です。しかし、不倫開始時以前に、すでに不仲になり別居していたなどのケースでは、婚姻関係がすでに破綻しており、貞操義務違反に問えず、慰謝料請求が難しくなる可能性があります。
この場合の別居とは、性格の不一致や夫婦生活問題などの夫婦のトラブルによる別居であり、単身赴任など夫婦仲とは関係の無い別居であれば、婚姻関係は破綻しておらず夫婦としての実体はあるので、慰謝料請求は可能です。 -
(3)不倫の証拠がなければ慰謝料請求は難しい
不倫開始までは、夫婦仲が円満で不貞行為の慰謝料を請求できる条件を満たしている場合でも、不貞行為の証拠がなければ慰謝料の請求は難しくなります。
ただし、配偶者や相手が、証拠がなくても慰謝料を払うといえば受け取ることは可能です。しかし、証拠がないからと開き直られたら、慰謝料請求はかなり厳しくなります。訴訟などの法的措置に移行しても、不貞行為の証拠がなければ、慰謝料請求が認められる可能性は極めて低いといえるでしょう。
不貞行為の証拠とは、不貞行為を行っている最中の写真や、それが明らかにわかるような写真です。具体的には、ラブホテルから出てくる写真や、行為の最中の写真などがあれば、不貞行為があった客観的な証拠になります。実際に、調査会社や探偵などに、調査を依頼することで、確実な不貞行為の証拠を集める方も少なくありません。
現時点で不貞行為の証拠がひとつもない場合は、配偶者や相手が不貞行為を認めた発言を録音したものなども不貞行為の証拠となります。不貞行為について問い詰める前に証拠を集めましょう。
証拠の集め方がわからない、証拠があるけど有効なものかどうかがわからない、という方は一度弁護士に相談し、慰謝料を請求する方法をアドバイスしてもらうことを強くおすすめします。
2、不倫後いつまで慰謝料の請求ができるか?
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(1)不貞行為に対する慰謝料請求の時効は3年
夫や妻の不倫が発覚してしばらく時間が経過してから慰謝料を請求することも可能です。不貞行為の慰謝料は、離婚せず婚姻関係が継続している場合でも、請求できます。ただし、慰謝料の請求には時効が存在します。不貞行為の慰謝料請求の時効は、不貞行為をされた側が、不貞行為の事実や相手の名前、住所を知ってから「3年以内」と規定されています。
また、夫や妻が浮気相手と最後に関係を持ってから20年が過ぎている場合も慰謝料の請求が不可能になります。これは、時効ではなく「除斥期間」と呼びます。
もっとも、不貞行為の事実や相手の名前、住所をしってから3年経過後であっても、離婚成立前であれば、不貞行為をした配偶者に対しては、慰謝料を請求できる可能性があります。民法159条に、「夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」という規定があるからです。不貞行為を含めた不法行為に対し慰謝料請求をした事案で、同規定を適用し、3年経過後であっても慰謝料請求を認めたと解釈できる裁判例もあります。どのようなケースであれば認められるかは判断が難しい場合もあるので、ぜひ弁護士にご相談ください。 -
(2)不倫後に離婚していても、今から慰謝料請求できる?
すでに離婚が成立していても、その離婚の原因が不貞行為だった場合は離婚成立後に、離婚に伴う慰謝料として、不貞行為をした配偶者に対して請求が可能です。離婚に伴う慰謝料は、不貞行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めるものですから、消滅時効は離婚の成立とともに開始します。したがって離婚成立後3年間は、不貞行為をした配偶者に対して、離婚に伴う慰謝料が請求可能です。
ただし、離婚時に慰謝料を請求しないなどの取り決めをしていた場合は、それを覆して慰謝料を請求することは難しいと考えられます。
3、不倫による慰謝料請求の時効期間を延ばす方法
前述のとおり、慰謝料請求の時効は3年です。しかし、離婚前後のトラブルや、不倫による精神的ダメージにより不貞行為を知ってから3年近くの時間が経過していた場合は、早急に慰謝料を請求しなければ時効が成立してしまいます。そこで、不倫による慰謝料請求の時効を延ばす方法を解説します。
●時効を延長できるのは「裁判」や「調停」
慰謝料請求の時効のカウントを停止することを時効の中断といい、これができるのが、裁判や調停です。裁判や調停を申し立てて受理された時点で、時効が中断します。したがって、時効が完成して慰謝料の請求ができなくなるという事態を回避できます。
ただし、裁判や調停などを申し立てるためには、さまざまな書類が必要になり準備に時間がかかります。そのため、準備中に時効が完成してしまう危険性もあるでしょう。裁判や調停で時効の中断を目指す場合は、速やかに弁護士に依頼することをおすすめします。
●内容証明郵便による「催告」
裁判や調停よりも簡単に時効のカウントを停止できるのが「催告」という手続きです。催告とは、文書などで請求する意思を表示することです。催告を行うことで6ヶ月間時効のカウントを停止できます。ただし、6ヶ月間が経過すると時効が再びカウントされてしまいますのでその期間内に訴訟や調停などの準備を行う必要があります。
ただし、催告を通常の郵便等で行うと「受け取っていない」などの言い訳をされてしまう可能性があります。催告を行う場合は必ず「内容証明郵便」を使いましょう。内容証明郵便とは、日本郵便が行っているサービスです。送付した郵便の内容が郵便局に保管されるので、送付内容を証明してもらえます。また、配達証明を付ければ、送付した日時も記録されます。したがって、受け取っていないと言い逃れすることができません。
配達証明付き内容証明郵便は、郵便局や日本郵便の公式ホームページから送付することができます。内容証明の作成には細かいルールがありますので、ルールに従って必要事項を記載して送付しましょう。
自ら作成することが難しい場合や、より速やかな対応を望む場合は、弁護士に依頼することもひとつの案です。「個人名で請求したときは無視をされたのに、弁護士名で請求してもらったら、相手が速やかに対応した」というケースが多々あります。
4、時効完成後にも不倫による慰謝料を請求できるかもしれない?
すでに夫や妻、もしくは元夫や元妻の不貞行為を知ってから3年以上が経過してしまった、もしくは、不貞行為から20年経過してしまったという場合も、慰謝料請求の可能性がゼロになったわけではありません。
なぜならば時効は相手が「援用」しなければ、成立しないからです。時効の援用とは、「その請求は時効が成立しますよ」と、賠償責任がある側が意思表示をすることです。
つまり、あなたが慰謝料を請求したのち、相手が何も言わずに慰謝料を支払えば、受け取る権利があります。万が一あとから相手が、「時効が成立しているから返金してほしい」と言われても返金する必要はなく、裁判になっても、受け取った側が保護される可能性が高いでしょう。
つまり、法律的には時効が成立していても、相手がそれを知らずに支払う可能性があるので時効が成立していても、請求を諦める必要はないのです。相手が弁護士などに相談すれば時効を援用されてしまいますが、そうでなければ時効の存在に気づかずに、支払う可能性はゼロではありません。弁護士に相談しながら進めてみることもひとつの手です。
5、まとめ
不倫の慰謝料請求は、請求可能な期間に期限があるなど、注意すべき点がいくつもあります。また、慰謝料の請求は、離婚や精神的な苦痛の原因となった本人との交渉など、請求する側にも大きな負担を強いる作業です。請求される側と意見が対立し、結論が出るまで長引くことも考えられます。
時効が成立する前にスムーズに慰謝料を請求するためには、不倫慰謝料請求事件に対応した実績が豊富な弁護士のサポートを受けた方がよいでしょう。ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスでは、速やかにあなたの受け取るべき慰謝料を請求します。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています