改正独禁法が施行! これまでとの違いと企業が気を付けるべき点とは
- 独占禁止法・競争法
- 改正独禁法
令和2年に入ってから、独占禁止法への違反行為を理由として、千葉県により三つの株式会社が物品等入札参加業者の指名停止措置を受けています(5月28日現在)。
市場においてサービスを提供する企業としては、思わぬペナルティーを受けてしまうことがないよう、最新の独占禁止法の内容を踏まえて事業を運営する必要があります。
令和2年1月1日より、新たに改正独禁法が一部施行されました。
いまだ全面施行の段階には至っていませんが、この機会に最新の独占禁止法の内容を押さえておきましょう。
この記事では、改正独禁法の内容について、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が詳しく解説します。
1、独占禁止法(通称「独禁法」)とは
改正独禁法の内容を解説する前に、まずは独占禁止法(以下 独禁法)についての基本的な事項を確認しておきましょう。
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(1)独禁法の目的
独禁法とは、市場における公正かつ自由な競争を阻害する行為を禁止し、市場の効率化を図ることを目的とする法律です。
第1条 この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。
(独占禁止法第1条)
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(2)独禁法の規制内容
独禁法において規制されている行為は次のとおりです。
①私的独占
他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいいます(独禁法第2条第5項参照)。
②不当な取引制限
いわゆる「談合」を行うことにより、市場原理に反して価格その他の取引条件を決定し、公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいいます(独禁法第2条第6項参照)。
③競争を実質的に制限する企業結合
株式保有や合併などの企業結合の結果、それまで独立して活動していた企業間に結合関係が生まれ、ある程度自由に市場価格や供給数量を左右できるようになる場合、当該企業結合は禁止されます(独禁法第10条、13条から第17条参照)。
④独占的状態
市場においてその大部分のシェアを持つ事業者などがいる場合に、需要やコストが減少しても価格が下がらないなど市場への弊害が見られる場合には、当該事業者に対して事業の一部譲渡などの競争回復措置が命じられる場合があります(独禁法第8条の4参照)。
⑤不公正な取引方法
その他、市場における公正な競争を阻害すると考えられるさまざまな行為が規制の対象となっています(独禁法第2条第9項参照)。
2、改正独禁法の施行で何が変わったか(変わるか)
令和元年6月19日に成立した改正独禁法は同年7月26日の一部施行以降、現在に至るまで段階的に施行されてきています。
改正独禁法により、従来のルールがどのように変更されたか(あるいはこれから変更されるか)を見ていきましょう。
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(1)課徴金制度の見直し①|課徴金の計算方法の変更
独占禁止法違反に該当する行為へのペナルティーのひとつとして、公正取引委員会から違反事業者に対して、国庫への課徴金納付命令が行われる場合があります。
今回の改正では、違反行為の実態に応じた適切な課徴金を課すため、課徴金の計算方法が変更されています。
なお、この改正は現段階で施行日が未定ですが、2020年末までの施行が目指されています。
①算定期間の延長など
課徴金の金額は、算定期間における対象商品・役務の売上額に対して、一定の算定率をかけることによって求められます。
従来は、課徴金の算定期間は調査開始日からさかのぼって最長3年とされていたところ、改正独禁法では10年までさかのぼることが可能となりました。
また、違反行為がなくなった日から5年とされていた除斥期間が、7年に延長されました。
②算定基礎の追加
違反行為によって得た利益をより網羅的に捕捉するため、課徴金の算定基礎に以下の項目が追加されました。
- 対象商品・役務を供給しないことの見返りとして受けた経済的利得(談合金等)
- 対象商品・役務に密接に関連する業務(下請け受注等)によって生じた売上額
- 違反事業者から指示や情報を受けた一定のグループ企業(完全子会社等)の売上額
③違反事業を承継した子会社などに対する課徴金の賦課
独禁法違反による課徴金を逃れようとして、調査開始日前に子会社などに対して事業を承継した場合にも、課徴金が課されることとなりました。
現行法では調査開始日以後の承継のみが課徴金の対象となっているため、制裁の対象が拡大したことになります。
④算定率の変更
さらに、課徴金の算定率についても、業種別算定率が廃止されたり、早期離脱に対する軽減算定率の廃止など大幅な改正が行われています。 -
(2)課徴金制度の見直し②|調査協力減算制度の導入
課徴金制度に関する見直しのもうひとつの柱が、「調査協力減算制度」の見直しです。
この改正についても現段階では未施行ですが、2020年末までの施行が目指されています。
新たに事業者が事件の解明に資する資料の提出等をした場合に、公正取引委員会が課徴金の額を減額する仕組み(調査協力減算制度)が見直しされました。独禁法違反の談合・カルテル行為をした事業者は、公正取引委員会に対して自ら資料を提出する(いわば「自首」する)ことによって、課徴金の減免を受けることができます。
これを「課徴金減免制度」(リニエンシー制度)といいます。
現行法では、減免率は申請順位のみに対応して形式的に決定されることとなっています。
これに対して改正独禁法では、最初に申請した事業者について課徴金を100%免除することは変わらないものの、それ以降の事業者については、新たに協力度合いに応じた減算率が設けられました。
この改正により、違反事業者がより調査に対して積極的に協力するようになることが期待されます。 -
(3)罰則の引き上げ
公正取引委員会の調査における強制処分(出頭や報告、情報の提出義務など)に違反した場合の罰金の上限額を100万円から300万円に引き上げるとともに、法人についての両罰規定が設けられました。
また、公正取引委員会が行う検査妨害について、法人に対する罰金の上限額が2億円に引き上げられました。 -
(4)弁護士・依頼者間秘匿特権
新たな課徴金減免制度をより機能させるとともに、外部の弁護士との相談に係る法的意見等についての秘密を実質的に保護し、適正手続きを確保する観点から、審査官に対して事業者・弁護士間のやり取りを秘匿するための制度が設けられました。
この弁護士・依頼者間秘匿特権により、事業者は弁護士とより詳細な協議を経た上で、独禁法違反行為に関する公正取引委員会への報告を行うことができるようになると期待されています。
3、独禁法違反にあたるケースと課される罰則
独禁法違反に該当する行為の具体例や、各違反行為に対して課される罰則について解説します。
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(1)私的独占行為
私的独占行為の例としては、以下のような行為が挙げられます。
- 不当な低価格販売(ダンピング)などの手段を用いて、競争相手を市場から排除する行為
- 株式取得などの方法を用いて、他の事業者の事業活動に介入したり、制約を与えたりして市場を支配しようとする行為
私的独占行為については、行為者に「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」(独禁法第89条第1項第1号)が課されるほか、法人にも「5億円以下の罰金」(独禁法第95条第1項第1号)が課されます。
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(2)不当な取引制限
不当な取引制限には、以下の行為が該当します。
- 本来各事業者が自主的に決めるべき商品の価格などを、複数の事業者が共同で取り決める行為(カルテル)
- 公共工事などの入札に際して、複数の事業者が事前に協議を行い、受注事業者や受注金額などを決めてしまう行為(入札談合)
不当な取引制限についても、私的独占行為と同様、行為者に「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」(独禁法第89条第1項第1号)、法人に「5億円以下の罰金」(独禁法第95条第1項第1号)が課されます。
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(3)不公正な取引方法
不公正な取引方法には、独禁法第2条第9項に列挙されているとおり、非常に多様なパターンがあります。
不公正な取引方法の一例を挙げると、以下のとおりです。
- 不当な取引拒絶
- 不当廉売
- 不当高価購入
- 抱き合わせ販売
- 再販売価格の拘束
- 優越的地位の乱用
不公正な取引方法については、現行法上罰則は設けられていません。
4、改正独禁法により企業が受ける影響と取るべき対応
改正独禁法によるルール変更により、企業はどのような対応を取るべきかについて解説します。
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(1)基本的には従前どおり|独禁法違反を犯さないように努める
今回の独禁法改正は、独禁法違反の行為が行われた際の課徴金・罰金・弁護士への相談に関するルールの変更が中心となっています。
そのため企業としては、独禁法を順守して事業を運営している限り、特に追加で対応すべきことはありません。
したがって、基本的には従前どおり独禁法に違反しない業務運営を行うよう努めることで足ります。 -
(2)弁護士と協力して独禁法違反の可能性を排除する
とはいえ、事業の拡大にまい進しているうちに、いつのまにか独禁法上の問題が生じてしまうという場合も多々存在します。
そのため、弁護士と顧問契約を締結し、事業の中で独禁法との関係で違反している点がないかを定期的にチェックしてもらうことをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所には、独禁法に詳しい弁護士も多数在籍しておりますので、お気軽にご相談ください。
5、まとめ
独禁法は、特に大企業や成長著しい拡大志向の企業にとって重要な規制法です。
こうした企業の担当者の方は、最新の独禁法改正に関する情報を常にキャッチしておくようにしましょう。
独禁法に関するご質問や、会社の事業が独禁法に違反していないかのチェックについては、ぜひお気軽にベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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