従業員に円満に合意退職してもらうための注意点とは。弁護士が解説
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雇用や労働条件などをめぐりさまざまなトラブルが日々多数発生しています。千葉県でも千葉県労働相談センターが設置されていて、労働者からだけでなく、使用者からの相談にも対応しています。
労働基準法における「使用者」とは、その事業において、賃金の支払いや労働時間の管理など労働基準法が規定する事項について、現に権限と責任を有している者を指します。ですから、労働契約の当事者である雇用主のほか、労働基準法各条規定の事項に関する実質的責任者も含まれます。
使用者から見て、トラブルばかり起こしてしまう従業員がいると、場合によっては、貴重な人材が流出してしまうという事態にも陥りかねません。そのようなとき、その従業員本人に悪意がなくともいっそ解雇してしまいたいと考えるのではないでしょうか。
しかし、ご存じのとおり、一度正社員として雇った従業員を解雇することは容易なことではありません。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、権利濫用として無効となるためです。
そこで、従業員と円満に話を進め、合意退職をしてもらいたいという使用者のために、知っておきたい解雇の種類と合意退職の手続き方法、注意点について、千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、従業員解雇の種類
従業員の解雇には以下の3つの種類があります。
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(1)懲戒解雇
従業員が著しく悪質な規律違反もしくは非行を行ったことを理由に懲戒処分として行う解雇です。
ただし、どのような場合に懲戒解雇となるのかについて、就業規則や労働契約書に具体的な明示が必要です。 -
(2)整理解雇
会社が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇です。
整理解雇がどのような場合に有効となるのかを判断するにあたり、次の4要素が考慮されています。整理解雇の4要素- ①人員削減の客観的な必要性があること
- ②使用者が解雇回避の努力をしたこと
- ③解雇対象者の人選における基準や運用が合理的に行われたこと
- ④手続の妥当性
なお、整理解雇直後に同一の職種で求人募集を出すことは慎んだ方がよいでしょう。
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(3)普通解雇
「懲戒解雇」「整理解雇」以外の解雇をさし、従業員との労働契約を継続することが難しいと判断される事情によって解雇をすることです。
たとえば、従業員が与えられた業務をこなせないなどの能力不足の場合や社員が病気やけがなどで働けない場合等が考えられます。
ただし、指導を行ってもなお改善の見込みがないこと、休職制度を利用してもなお復帰のめどが立たないことなど、会社がしかるべき措置を実施することが必要となります。
2、合意退職と注意点
合意退職の場合は解雇とは手続きが異なります。
概要と手続きの流れ、注意すべき点について解説します。
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(1)合意退職とは?
合意退職は合意解約とも呼ばれます。合意という言葉が示すとおり、労働者と使用者の双方が同意のもと、労働契約を将来に向け解約することを指します。
労働者が退職を申し入れ、使用者がこれに応ずることもあれば、反対に、使用者が労働者に退職してほしいと申し入れ、労働者がこれに応ずることもあります。
要するに、労働者と使用者との間で、退職について意思が合致することに意味があります。 -
(2)合意退職の手続きの流れ
辞めてもらいたい労働者がいる場合、使用者がその労働者に対して退職勧奨をすることは違法ではありません。最終的に双方の合意のもとに退職が決定すれば、合意退職となります。
ただし、その方法に気を付けなければ、後日トラブルになってしまう可能性があります。
そこで、とるべき手続きについて知っておきましょう。
①労働者と話し合いをする
まずは退職してもらいたい労働者と話し合いをすることからスタートします。
その労働者本人にまだ退職の意思がない場合、次の職を探す労力や時間などを考えても、退職に向かうハードルを下げないと同意を得ることは難しいでしょう。
②退職条件を明示する
そこで退職が望ましい理由や早期優遇退職について説明し、かつ再就職先を探している間に業務時間の融通を利かせる、退職金の増額をするなど、退職を受け入れやすい条件などを提示することが多いです。
③合意退職であることを証明する書面を残す
話し合いの結果、退職に同意がなされたとしても、口頭での約束では不十分です。
そのときは同意をしたが、後から考えるとやはり同意できないと退職の撤回をする可能性もあり、後の紛争などの原因ともなりかねません。
そこで労働者から退職届を出してもらうか、使用者と労働者との間で退職合意書を作成し、書面として残しておくとよいでしょう。これらの書面には、最低でも、退職の日付と退職することを銘記すべきです。
万が一、退職後に不当解雇だと従業員から訴えられた場合には、合意退職であったことを証明するには書面が有効です。
ただし、労働者が自ら提出する退職届には使用者側の意思表示がないため、退職に合意した証明にはなりません。別途、使用者が労働者の退職を承諾するという手続が必要です。
そこで退職届を受理し、合意退職が成立したという旨を明らかにした上で、コピーをとり、そのコピーを労働者に返却するようにしましょう。退職合意書の場合には、労働者と使用者側双方の名義のものを作成し、双方の自筆サインが必要です。できれば押印もある方が望ましいでしょう。 -
(3)退職の強要にならないように注意
使用者側が退職勧奨を行うことは、あくまでも退職を促しているに過ぎません。
したがって、従業員はそれを拒否することは可能です。
ただし、退職勧奨が強要になってしまわないよう注意しなければなりません。
なんとか従業員に辞めてもらいたいと思うあまり、使用者側が以下のような行為をすると違法と判断される可能性があります。違法と判断される可能性がある行為の一例- 複数回、長時間にわたり、繰り返し退職勧奨を行う
- 大人数で威圧的な態度で退職勧奨を行う
- 会社外、たとえば自宅に押し掛けて退職勧奨を行う
- 退職勧奨を受け入れなければ、配置換え、異動、解雇するといった脅しをする
- 退職勧奨に対して拒否の意思表示を行ったにもかかわらず、繰り返し退職勧奨を行う
少なくとも、話し合いの内容は記録して残しておくこと、1対1ではなく複数が立ち合うことが必要です。
また退職するかどうかの判断は従業員の自由であるということを明確に伝えることで、肩たたきや退職の強要でないことを理解してもらうように努めましょう。
3、合意退職に解雇予告手当は必要か?
解雇を行う場合は、少なくとも30日前に従業員に予告する必要があります。
この日数を満たさない場合は、不足分として解雇予告手当を支払う必要があります。
もし、予告なく解雇した場合は、30日分の解雇予告手当を支払う義務が使用者側に生じます。
しかし合意退職の場合は解雇予告手当の支払いは不要です。解雇されたわけではなく、あくまでも双方の同意のもとに退職を行ったと判断されるため、解雇予告手当といった保障は不要となるのです。
退職勧奨によって退職した場合も、最終的に従業員が退職勧奨に同意したのであれば、合意退職であり解雇にはなりません。よって解雇予告手当は不要です。
4、まとめ
会社側から従業員を解雇にするには、定められた条件を満たす必要がありハードルが高いものです。また解雇後に不当解雇だと訴えられる可能性もゼロではありません。
そこで従業員に円満に辞めてもらいたい場合は、退職勧奨を利用した合意退職を利用することをおすすめします。ただし過度な退職勧奨は労働者保護の観点から違法行為となるため、注意が必要です。
従業員を合意退職させたいとお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所千葉オフィスにご相談ください。
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- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています