【前編】有給休暇の理由を聞くのは違法か? 有給取得を拒否された場合の対処方法について
- その他
- 有給休暇
- 拒否
- 対処方法
平成30年4月、ベトナムからの技能実習生が千葉県鴨川市にある監理団体(技能実習生の受け入れ窓口)に有給休暇の取得を申請したところ、それを理由に強制帰国させられたとの報道がありました。
この監理団体の行為は、違法となると思われます。理由に関係なく有給休暇の取得は労働者の権利であり、同じように有給休暇の付与は使用者の義務でもあるためです。今回は、有給休暇のさまざまな法的性質のご説明から、もし有給休暇の取得を拒否された場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所・千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、有給休暇の法的な性質
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(1)有給休暇付与は会社の義務
労働基準法第39条1項では、「入社してから6ヶ月以上継続して勤務し、かつ全労働日の8割以上出勤した労働者には、10労働(営業)日の有給休暇を与えなければならない」と定めています。
ほかにも同条には細かな規定がありますが、労働者が同条に定めるこの基準を満たすと、労働者には使用者へ請求を待たず当然に有給休暇を取得する権利が生じます。それと同時に、使用者には労働者へ有給休暇を与える義務が生じるのです。
また、平成31年4月から施行される改正後の労働基準法第39条7項では、「使用者は年次有給休暇の日数が10日以上の労働者に対して、そのうち少なくとも5日を1年以内の期間に取得させなければならない」と定めています。この有給休暇取得義務は、使用者に対して「年次有給休暇管理簿」の作成と3年間の保存義務が課されるなど、厳格な運営が要請されています。
このように、労働者の請求によらず有給休暇を取得させることは会社の義務とされるのです。
なお、年次有給休暇は1労働日を単位として取得するのが原則ですが、労働者が半日単位での取得を希望して時季を指定し、会社が同意すれば、半日単位での取得も可能です。
また、労働基準法第39条4項各号所定の事項を定めた場合で、使用者と労働者の労使協定による合意があれば、時間単位の年次有給休暇の取得も休暇の日数が5日以内に限り可能です。そして、時間単位での休暇は上記の有給取得義務の休暇日数5日から控除されません。つまり、労働者が時間単位で年次有給休暇を取得している場合は、その休暇とは別に使用者は労働者に少なくとも年次有給休暇5日を1年以内の期間に取得させる義務があります。 -
(2)パートタイム従業員でも有給休暇取得義務の対象になる?
正社員かつフルタイムで働く従業員でなくても、入社してから6ヶ月以上継続して勤務し、かつ、雇用契約で定められた全労働日の8割以上出勤しているのであれば、以下の条件のいずれかを満たせば有給休暇付与日数が10日の労働者に該当するため、最低5日の有給休暇取得義務の対象となります。
- 週30時間以上勤務していること
- 週5日以上勤務していること。
- 入社後3年半以上経過しており、かつ年間169日から216日または週4日以上勤務していること。
- 入社後5年半以上経過しており、かつ年間121日から168日または週3日以上勤務していること。
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(3)有給休暇の時季変更権
使用者は労働者からの有給休暇の申請に対して、基本的に拒むことができません。しかし、労働者からの有給休暇が業務の繁忙期に集中してしまうと、会社の事業に著しい支障が出てしまうことも考えられます。
このため、労働基準法第39条第5項では使用者は労働者の請求する時季に有給休暇を与えなければならないと規定する一方で、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」においては、労働者からの有給休暇申請に対し取得する日などを変更するように命じる「時季変更権」が使用者に認められています。
ただし、使用者が時季変更権で行使できるのは「正当な理由のもと、労働者が有給休暇を取得する時季を変更させること」であり、有給休暇の取得を拒否することではありません。
このため、使用者が正当な理由がなく時季変更権を何度も行使して実質的に労働者が有給休暇を取得できない状態とするような行為は、「時季変更権の濫用」あるいは「パワーハラスメント」に該当する可能性があります。
もし使用者が時季変更権を濫用し、それが明らかに違法であると認められた場合は、労働基準法第119条の規定により6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになります。 -
(4)有給休暇の買い取りは合法?
有給休暇の趣旨は、「労働者が賃金を受けながら休暇を取得すること」です。したがって、労働者が使用者に対して有給休暇の買い取りを請求すること、あるいは使用者が労働者から有給休暇を強制的に買い取るようなことは、労働基準法第39条に反したものとなります。
ただし、厚生労働省の見解によりますと、労働者が退職するときまでに消化し切れなかった有給休暇を使用者が買い取ることは問題ないとされています。また、就業規則や労使協定により使用者が労働基準法第39条に定められた日数を超えて有給休暇を付与していた場合は、その超過分の日数については労働基準法第39条の規定がおよびません。したがって、労使間合意による超過分の買い取りについても特段の問題はないと考えられます。
後編では引き続き、千葉オフィスの弁護士が、有給休暇取得の理由を聞くことは違法かどうかについて解説します。
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