【後編】有給休暇の理由を聞くのは違法か? 有給取得を拒否された場合の対処方法について
- その他
- 有給休暇
- 拒否
- 対処方法
千葉オフィスでも、労働問題に関する相談を受けることがあります。残念ながら、有給休暇を適切にとらせてくれない会社は少なくないといえるでしょう。そこで前編では、有給休暇の法的な性質について解説しました。
後半では、「有給休暇取得時に理由を聞かれることは違法かどうか」と、トラブルが起きたときの対応方法について千葉オフィスの弁護士が解説します。
2、有給休暇の申請に必ず理由を聞かれるのは違法?
有給休暇の申請や取得に際して、その理由を使用者に伝える必要はありません。したがって、もし使用者から有給休暇を取得する理由を聞かれたとしても、「私用のため」など当たり障りのない範囲で回答しておけばよいでしょう。
そもそも、労働基準法において労働者に有給休暇を取得する理由の説明を義務付ける条項はありません。
また、過去の判例において「休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である」とされています。
これらのことから、使用者が労働者から有給休暇を取得したい理由を開示させ、理由の内容しだいで有給休暇を付与するか否かを判断している場合、あるいは人事考課に不利な影響を与える行為は、使用者による違法行為と考えられるでしょう。
ただし、あくまでも先ほどの判例は使用者が有給休暇の過ごし方について使用者が「干渉」してくる場合についての解釈を示したものです。したがって、有給休暇の申請書に理由を書く欄を設け、あくまで労働者の任意に基づいた有給休暇取得理由の開示を求めることは違法行為ではありません。
なぜ理由を聞く必要があるのかといえば、特定の時期に有給休暇取得申請が集中したケースを想定するためでしょう。繁忙期であればなおさら、会社は労働者個別の事情や取得理由を考慮しながら、申請どおりに有給休暇を付与する労働者や時季変更権を行使する労働者などの優先順位を定めなければならない場合があるからです。このような場合に使用者が有給休暇取得の理由を聞くことは、過去の裁判例においても合法とされています。
3、有給休暇を取得する際、うその理由をついたら?
「使用者に有給休暇を取得する理由を伝える必要は本来ないのだから、もし聞かれたとしても適当なうそを言っておけばよい」と考える方がいるかもしれません。しかし、たとえ本来は必要のない有給休暇取得の理由であっても、虚偽の理由を申告することは控えるべきと考えられます。
特に就業規則などで会社への虚偽申請について罰則規定がある場合は、虚偽の申請理由が露見した場合に労働者としての立場を悪くしてしまう可能性があります。
また、先述したように使用者が時季変更権のもと申請理由の内容で各労働者の有給休暇取得の時季を調整しているケースもあるでしょう。その際、判断材料となる理由についてうそを申告したとすると、それにより使用者が時季変更権を行使する対象と理由について錯誤に陥らせたと捉えられる可能性もあります。
4、有給休暇には時効がある
労働基準法第115条の規定により、有給休暇は取得する権利が発生した日から2年で時効となります。したがって、有給休暇を完全に消化するためには労働者にも計画性が求められているといえるでしょう。
なお、民法改正により2020年から消滅時効が5年に延長される可能性があります。
5、有給休暇の取得を拒否されたときの相談先は?
先述した労働基準法第39条に定める規定に違反した使用者は、労働基準法第119条の規定により6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。
ここでいう違反行為とは、労働者の請求する時季に所定の有給休暇を「与えない」こととされています。労働者からの有給休暇取得の申請に対して、使用者は基本的に拒むことが認められていないのです。
このように、有給休暇の付与は使用者側の立場からすると非常に厳しい制度といえます。それにもかかわらず、なかには労働者に有給休暇を付与することすらままならない切迫した経営事情やコンプライアンス意識の欠如などを背景に、有給休暇の取得を不当に拒絶する使用者もいるようです。
以下では、もし使用者から有給休暇の使用を拒否された場合の相談先と対処法についてご説明します。
-
(1)労働基準監督署に相談する
労働基準監督署とは、厚生労働省管轄の機関です。その役割は、会社や経営者などの使用者が労働基準関係法令を遵守しているか監督することです。労働基準監督署の労働基準関係法令遵守に関する監督権限は強く、その職員である労働基準監督官は司法警察官として労働基準関係法令の違反などが疑われる企業や経営者に対して捜査を行う権限のほか、明確に法令違反が認められ悪質と判断される会社や経営者に対し逮捕、送検、告訴などを行う権限を有しています。ただし、事件性がない場合はあまり積極的に動かない傾向があるようです。
-
(2)弁護士に相談する
使用者が不当に有給休暇取得を拒否している場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
離職票不交付にかぎらず、労働問題全般について会社との交渉や裁判による解決に実績豊富な弁護士であれば、各種の法的なアドバイスはもちろんのこと、あなたの代理人として会社と交渉などを行い、あなたにとってよい方向への解決に動いてくれることが期待できます。なお、労働問題は社会保険労務士も詳しいのですが、訴訟となった場合、あなたの法的な代理人となる権限を持つのは弁護士だけです。
有給休暇を取得させてくれないという問題のほかにも、残業代請求を行いたいなどの目的があれば、弁護士に依頼したほうがスムーズに解決する可能性が高まります。
6、まとめ
有給休暇の取得拒否にかぎらず、労働問題は非常に複雑です。特に労働問題は会社など組織が紛争の相手方となるわけですから、あなたひとりだけの判断で誤った対応をとった場合、正当な権利を行使できないばかりか、勤務先で決定的に不利な立場に追い込まれかねません。
だからこそ、弁護士に相談しながら対処することが最善の策なのです。決してひとりだけで悩まず、労働問題について豊富な実績と経験を持つベリーベスト法律事務所・千葉オフィスの弁護士へ相談してください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています