みなし残業のメリット・デメリットは? 導入時の注意点などを解説

2020年12月17日
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みなし残業のメリット・デメリットは? 導入時の注意点などを解説

千葉県のデータによると、平成31年・令和元年(2019年)における千葉県内の労働者の平均月間総実労働時間は、規模5人以上の事業所で134.8時間(前年比0.9%減)、規模30人以上の事業所で138.4時間(前年比1.4%減)でした。
働き方改革の考え方が全国的に広まってきていることもあり、千葉県内の労働時間も全体的に減少傾向にあることが分かります。

従業員に対する残業代の支払いは使用者の義務ですが、残業代計算にあたって「みなし残業(固定残業代)制度」を導入している企業が一定の割合で見受けられます。

みなし残業制度には使用者側にとってのメリットもありますが、制度の法的な内容を正しく理解していないと、労働者との間で残業代未払いなどの紛争が生じてしまう可能性があるので注意しましょう。

本記事では、みなし残業制度のメリット・デメリットや、導入時の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「平成31年・令和元年毎月勤労統計調査地方調査年報」(千葉県))

1、みなし残業(固定残業代)制度とは?

みなし残業(固定残業代)制度とは、月間の実労働時間にかかわらず、残業をしたものとみなして一定の残業代(時間外労働手当)を労働者に対して必ず支給する制度です

たとえば、基本給に加えて毎月30時間分の残業代を必ず支給することが、就業規則に定められているとします。
この場合、固定残業時間を「30時間」とするみなし残業制度が採用されていることになります。

このケースでは、仮に労働者の月間残業の実労働時間が15時間だったとしても、みなし残業制度に基づき、使用者から労働者に対して30時間分の残業代が支払われます。
一方、残業時間が30時間を超えた場合には、企業は労働者に対して、超過分に対応する追加の残業代を支払わなければなりません。

2、企業側から見たみなし残業制度のメリット・デメリット

企業側にとって、みなし残業制度を導入することには、メリットとデメリットの両面があります。
企業担当者としては、みなし残業制度の法的な性質を正しく理解したうえで、メリットとデメリットを自社の就労形態に照らし合わせ、導入の可否を検討しなければなりません。

  1. (1)メリット①:見た目の賃金総額が増えるため求人の際に有利

    企業が労働市場に向けて求人広告を出す場合、賃金(給与)の金額目安を提示しなければなりません。

    その際、基本給に加えて、みなし残業による固定残業代を加えた総額を記載することによって、見た目の賃金総額を増やすことができます。

    当然、賃金の高い求人にはより優秀な人材が集まる傾向にありますので、企業としては採用活動を有利に進められる可能性が高まるでしょう。

    ただし後述のように、採用活動において応募者に賃金を提示する際には、基本給と固定残業に相当する時間・手当金額・超過分を支払う旨を明示し、固定残業代を明確に区別しなければならない点に注意が必要です。

  2. (2)メリット②:残業代の計算が少し簡単になる

    みなし残業制度を採用している場合、月間の実労働時間が固定残業時間以下の労働者については一律で固定残業代を支給すれば良いので、企業にとっては残業代の計算が少し簡単になります。

    ただし、固定残業時間を超えて残業を行った労働者に対しては、残業代を追加で支払う必要があります
    したがって、労働時間の管理をしなくて良いというわけではないという点に注意が必要です。

  3. (3)メリット③:仕事に対する労働者のモチベーションが上がる

    みなし残業制度が採用されている会社でも、労働者は必ずしも固定残業時間分の残業をしなければならないというわけではなく、定時で退社することも認められます。

    その一方で、毎月固定残業代は必ずもらえるため、時給換算で考えると、できるだけ毎日定時で退社する方が労働者にとっては得になります。
    このような事情から、みなし残業制度には、定時退社までに仕事を終わらせるように進める工夫をするなど、労働者の仕事に対するモチベーションを高め、労働効率を上昇させる効果があると考えられているのです。

  4. (4)デメリット:実労働時間計算よりも残業代の総額は増える

    みなし残業制度を導入する場合においても、企業は労働者に対して、実際に固定残業時間を超えて業務を行った場合には、労働者に対して固定残業代を超えて残業した分の残業代を支払う必要があります。

    このことの帰結として、企業としては残業代を節約できるわけでは決してなく、むしろ固定残業時間未満の時間外労働しか行っていない労働者に対して、残業代を多めに支払うことになってしまうのです。
    結果として、みなし残業制度を導入する企業は、一律で実労働時間を用いて残業代を計算する企業に比べると、支払うべき残業代の総額が増える可能性があることにも注意しましょう。

3、みなし残業制度を導入する際に注意すべきことは?

企業がみなし残業制度を導入しようとする場合、法的なトラブルを防止するため、以下の各点に留意しましょう。

  1. (1)固定残業時間を超えた時間外労働には残業代を支払う義務あり

    これまで説明したとおり、みなし残業制度を導入している場合でも、固定残業時間を超えて残業した労働者に対しては、追加の残業代を支払う必要があります。

    もし固定残業時間を超過している労働者に対しても、固定残業代のみを支給しており、追加の残業代を支給していなかった場合には、労働基準法に違反します。
    この場合、労働者が残業代の未払いを主張して法的措置をとってきた場合、企業は不利な立場に立たされてしまう可能性があります。

  2. (2)みなし残業に関して一定の事項を労働者に明示する必要あり

    みなし残業制度を導入する場合、企業はその内容を就業規則などに定めたうえで、以下の事項を労働者に対して明示する必要があります。

    • 固定残業代を除いた基本給の額
    • 固定残業時間
    • 固定残業代の金額の計算方法
    • 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨


    これらの事項が労働者に対して明示されていない場合、みなし残業制度が法的に無効と判断され、固定残業時間に対応する分も含めた未払い残業代全額の支払いが命じられるおそれがあるので注意しましょう。

  3. (3)三六協定の上限を超える固定残業時間を設定しない

    労働基準法上、いわゆる「三六協定」によって定めることができる時間外労働の上限は原則として月45時間とされています(労働基準法第36条第4項)。

    みなし残業制度を採用し、上記の上限時間を大きく超える固定残業時間を定めている場合には、みなし残業制度自体が公序良俗違反として無効になってしまう可能性もあります。

  4. (4)最低賃金法に違反しないように注意

    使用者である企業は、労働者に対して、都道府県ごとに定められた最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません(最低賃金法第4条)。

    みなし残業制度を導入している場合、所定労働時間に対応する賃金は「基本給のみ」であり、固定残業代は含まれません。

    たとえば、最低賃金が1時間あたり1013円(2020年11月現在)である東京都において、

    • 所定労働時間100時間
    • 基本給10万円
    • 固定残業代1万2500円(固定残業時間10時間)


    という賃金ルールを定めている企業があったとします。

    この場合、基本給と固定残業代を併せた総賃金は11万2500円です。
    これを総労働時間の110時間で割ると、1時間当たり約1022円となり、東京都の最低賃金をぎりぎり上回ります。

    しかし、所定労働時間(100時間)と基本給(10万円)だけで考えると、1時間当たりの賃金は1000円ですので、最低賃金法違反となってしまいます。

    このように、みなし残業制度を採用した結果として、最低賃金法違反の状態が発生する可能性も見逃さないようにしましょう

4、実労働時間が固定残業時間を大幅に下回ったら?

労働者の実労働時間が固定残業時間を下回った場合、企業としては余分な残業代を支払うことになってしまいます。
企業側としては、支払っている賃金分は労働者に働いてもらいたいところですが、どのような対処法が考えられるのでしょうか。

  1. (1)就業規則に規定があれば繰り越しが認められる

    実は、みなし残業制度における固定残業時間が余った場合には、残業代を前払いしたものとみなして、翌月に余った分の残業を(残業代なしで)行ってもらうルールを採用することも可能です。

    ただし、このようなルールを採用する場合には、就業規則においてルールの内容を明記したうえで、労働者に対してあらかじめ周知する必要があります。みなし残業代の未消化分の繰り越しを認めた判決(東京地判平21・3・27)では、原告の労働条件通知書兼同意書に固定的な時間外手当の内払いとして支給すると規定されていたこと、給与規定にも超過分について会社はこれを次月以降に繰り越すことができるものとするとの規定がされていたことを認めて残業代の繰り越しを認めた点に留意する必要があります。

  2. (2)時間外労働規制は月ごとに適用されることに注意

    なお、上記の繰越制度を導入する場合であっても、労働基準法に基づく時間外労働規制は月ごとに適用される点に注意が必要です。

    たとえば、

    • 三六協定において定められた時間外労働の上限時間は、固定残業時間が繰り越された月についても、繰り越しがなかった月と同様に適用される
    • 会社の規模によっては、月60時間を超える時間外労働を行った労働者に対しては、50%以上の割増賃金を支払わなければならない(労働基準法第37条第1項)


    などの点に注意が必要です。

5、まとめ

みなし残業制度は、「定額の残業代を支払っておきさえすれば、それ以上の支払いは不要」などと誤解されていることも多いため、導入の際には、企業担当者は制度の法的な内容について正確に理解しておく必要があります。

みなし残業制度の導入を検討している企業担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスへご相談ください。
企業の労務管理の経験豊富な弁護士が、親身になって対応いたします。

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