法定相続人はどうなる? 子どもなしの夫婦が相続で注意するポイント
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平成27年の国勢調査によれば、千葉県内の核家族は153万6285世帯で、そのうち「夫婦のみ」の世帯は54万8009世帯という調査結果が出ています。子どもがいない夫婦は旅行や趣味など自由にお金を使える上に、共働きの世帯が多く、子育てにかかる費用も発生しないため、まとまった財産があるという世帯も多くあるでしょう。
子どもがいない世帯は、年を重ねて相続を意識しはじめると、自分たちの資産は誰が相続するのか気になるかもしれません。法定相続人はどうなるのか、たとえば配偶者にだけ遺産を残したい場合にはどのような手続きが必要なのでしょう。
本記事では、子どもがいない場合の相続の進め方を、法定相続人、遺言などの基本を中心に解説していきます。
1、法定相続分とは?
法定相続分(民法900条)とは、相続にあたって、相続人が複数人いる時に、民法上定められている相続人(相続によって財産を取得する人)の相続できる財産の割合をいいます。
被相続人(亡くなった人)の遺言がない場合や相続争いが発生した場合に財産を分ける目安となるよう、相続権が発生する人の範囲とその取り分について法律で定められています。
相続権が発生する人の範囲と優先順位は、被相続人との関係性で決められています。
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(1)法定相続人の優先順位
法定相続人の優先順位は次のとおりです。
配偶者 常に相続人となる 子ども(子どもが亡くなっている場合などには孫) 第1順位 直系尊属(被相続人の父母や祖父母など) 第2順位 兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合などには姪や甥) 第3順位
配偶者がいる場合は必ず相続人になります。そして、第1順位である子どもがいる場合には、その子どもに相続権があります。子どもがいない場合には第2順位である父母などが相続権を取得します。
子どももおらず父母・祖父母など直系尊属がすでに他界している場合は、兄弟姉妹が相続権を取得します。なお、配偶者以外に第1順位から第3順位までの相続人がいない場合、配偶者のみが相続権を有することになります。
子どもは、実子だけでなく、養子や認知した子どもも含まれます。胎児については、本来権利能力はありませんが、例外的に「相続については、既に生まれたものとみなす。」(民法886条1項)という規定があり、相続権が認められています。ただし、死産だった場合には相続権は発生しません(同条2項)。 -
(2)法定相続分
遺産の取り分である法定相続分は、次のとおりです。
配偶者と第1順位が相続する場合 配偶者が2分の1、第1順位者が2分の1 配偶者と第2順位が相続する場合 配偶者が3分の2、第2順位者が3分の1 配偶者と第3順位が相続する場合 配偶者が4分の3、第3順位者が4分の1 配偶者のみが相続する場合 配偶者がすべて
なお、同一順位者が複数いる場合には、法定相続分の範囲で均等に分割することになります。たとえば、遺産が1億円あって、配偶者と子どもふたりが相続する場合、1億円の2分の1である5000万円を配偶者が相続し、1億円の2分の1である残りの5000万円をふたりの子どもが均等に分割し、ひとり2500万円となります。
2、子どもなしの場合の注意点
子どもがいない夫婦の一方が亡くなった場合の法定相続分ですが、配偶者は常に相続人になるので、相続権を有することになります。しかし、第1順位である子どもがいないので、第2順位である父母が生きている場合には、父母も相続人になります。相続分は、配偶者が3分の2、父母が3分の1ということになります。
第2順位である父母などがすでに他界している場合、第3順位である兄弟姉妹が相続人となります。この場合、相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。
兄弟の仲が良く、被相続人が遺産も兄弟に少し分け与えたいと考えているならば、この配分でも問題ないかもしれませんが、兄弟の仲が悪い場合や不動産以外の遺産がないという場合には、トラブルに発展する可能性もあるので、何らかの対策が必要になります。
3、財産を妻だけに残すための方法
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(1)遺言
遺言は、被相続人が誰に遺産を相続させるかを指定することができます。
妻以外に遺産を渡したくない場合には、遺言書に「遺産についてはすべてを妻に相続させる。」と書いておくことが考えられます。
遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言があります。遺言者が遺言の中で遺言執行者を指定しておくと相続がスムーズに進みます。
ただし、一定の相続人には「遺留分」という最低限の取り分が決められています。
遺言があっても、遺留分の権利者から「遺留分侵害額請求」がなされると、一定の割合の金額を支払う必要があります。「一定の相続人」とは兄弟姉妹を除く法定相続人なので、遺言があれば兄弟姉妹に遺産が分割されないようにすることは可能です。他方、父母が存命の場合には、遺留分権利者に一定の金銭を支払う必要があります。遺留分が認められる割合は、相続人が父母のみである場合は相続財産の3分の1になります。 -
(2)生前贈与
あらかじめ相続争いを避けるため、生前に贈与するという方法も考えられます。ただし、贈与税が発生する場合もあるので、生前贈与を検討する際には、贈与税の基礎控除の額なども考慮しながら長期間にわたって行う必要があります。
また、一部の相続人に対して特別の利益を与えている場合、「特別受益」があるとして、やはり遺留分侵害額請求の対象とされる可能性があります。 -
(3)配偶者居住権
民法改正によって、配偶者居住権が認められるようになりました(民法1028条)。
配偶者居住権とは、相続開始時に居住していた被相続人所有の建物に終身または一定期間、配偶者に建物の使用を認める法定の権利です。
被相続人が遺言で配偶者に居住権を遺贈すれば、配偶者は、無償で居住建物に住み続けることができます。ただし、これまでと異なる用法で建物を使用することはできません(例えば、建物の所有者に無断で賃貸することはできません。)。
従来は配偶者が自宅を相続する場合、不動産の評価額は高く、自宅以外の財産を相続できず、今後の生活に不安を残すという問題がありました。配偶者居住権は、不動産の所有権より評価額が低く、不動産以外の現預金などの財産も受け取ることが可能になるため、生活の不安が解消されるというメリットが生まれました。
なお、配偶者居住権を設定するには、配偶者であることの他、被相続人が所有していた建物に亡くなったときに居住していたこと、遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判により取得したことなどの条件が必要です。また、取得した配偶者居住権を失わないためには、対抗要件として登記をしておく必要があります。
4、弁護士の活用
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(1)事前の相談
配偶者にだけ遺産を残したいという場合、生前贈与をする方法、遺言書を作成する方法、信託をする方法などを紹介しました。いずれも法律的な知識が必要となり、要件を満たさない遺言書である場合、遺言の効力が認められない可能性があります。
また、相続開始後、遺留分権利者からの遺留分侵害額請求を見越して、そのお金を準備するなど、事前の対策を立てておくことも重要になります。早ければ早いほど対策は立てやすいので、相続について気になりはじめたら、まずは、弁護士への相談をおすすめします。 -
(2)事後の相談
相続開始後は、①財産の調査と財産目録の作成、②相続人を特定するための戸籍謄本などの資料の取り寄せ、③遺言がある場合には家庭裁判所の検認手続きなど、④遺産分割協議が必要な場合には遺産分割協議書の作成、⑤相続人への名義変更等の手続き、⑥遺留分権利者からの遺留分侵害額請求がある場合の手続き、⑦相続争いが生じた場合の交渉など、さまざまな対応が必要になります。
これらを当事者だけで行うことは大変な手間が生じ、また仮に遺言があったとしても、内容に納得できない相続人がいると相続争いが生じる可能性が高くなることはいうまでもありません。当事者同士だと感情的な対立になりがちですが、間に第三者である弁護士が入ることで、落ち着いた話し合いを進めることが可能になります。
普段働きながら、財産目録を作成し、戸籍等の書類を取り寄せ、遺産分割協議書を作成することは大変な手間が発生します。弁護士というと紛争が生じてから依頼するというイメージがあるかもしれません。しかし、紛争が生じないための事前対策や各手続きの依頼も当然可能です。
5、まとめ
今回は、子どもがいない夫婦が相続で注意すべきポイントについて解説しました。
夫婦ふたりで生活している時には、何も問題なかったことが、一方が亡くなることで、相続財産をめぐり、疎遠な兄弟姉妹との「争族」が発生するケースなどがあります。
そのようなトラブルを避けるためにも、夫婦が健康なうちに遺言書を作るなど、早めに相続対策をすることが重要です。相続開始後にも、公的書類を取り寄せたり、遺言書を検認したりと、各種手続きは非常に手間がかかり複雑です。
弁護士に手続きを依頼すれば、複雑な手続きをする手間が省け、相続争いも生じにくくなります。仮に相続争いが生じたとしても、依頼人のために代理人となって対応してもらうことができます。
ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスでは、経験豊富な弁護士が在籍しておりますので、相続について気になる点がありましたら、お気軽にご相談ください。
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