郵便貯金(ゆうちょ銀行)に相続の期限はある? 相続手続きの流れを解説

2021年09月21日
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郵便貯金(ゆうちょ銀行)に相続の期限はある? 相続手続きの流れを解説

令和3年8月現在、千葉市内にはゆうちょ銀行の窓口が100件存在します。

ゆうちょ銀行は日本最大の店舗ネットワーク・預金量・口座数を持つ金融機関であり、相続が発生したときに被相続人(亡くなった人のこと)の預金のすべて、または一部が郵便貯金というケースが多くあります。したがって、相続が発生した場合には、ゆうちょ銀行への相続手続きも行う必要が出てきます。

本コラムでは、郵便貯金の相続についてゆうちょ銀行で行うべき一連の手続き、相続手続きの期限などについて、べリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。

1、ゆうちょ銀行の利用率は高い

ゆうちょ銀行は全国に2万4000の窓口、ATMは約3万2千台を有しています(令和3年1月末現在)。口座数は約1億2000万口座と、日本国民1人あたり1口座保有している計算になります。さらに、日本国民の家計における金融資産全体が約1900兆円といわれるなかで預金残高は約180兆円あり、実に国民の金融資産の約1割弱がゆうちょ銀行に預けられている計算になります。貸出機能がないため一概にはいえませんが、名実ともに日本最大の金融機関といっても過言ではありません。

明治8年に導入された郵便貯金に対する信頼性と、全国47都道府県すべてをカバーする他の銀行にはみられない広範な営業ネットワークによる利便性から、日本国民のゆうちょ銀行の利用率は高いものがあります。このため、相続が発生したとき被相続人(亡くなった人のこと)がゆうちょ銀行の口座を保有している可能性は高く、その場合はゆうちょ銀行への相続手続きが避けて通れないものになります。

2、一般的な預貯金の相続

  1. (1)預貯金の相続手続きの基本的な流れ

    民法898条では、相続人が複数いる人が亡くなると、その遺産は相続人全員の共有財産となることを定めています。これを相続人による共同相続といいます。つまり、被相続人の預貯金は、一旦相続人の共有名義となるのです。

    しかし、被相続人の預貯金が共有状態のままでは、いつまでも相続人は自由に使うことができません。そこで、「遺産分割」の手続きによって残された預貯金を各相続人に帰属させることによって、預金の共有状態は解消されます。

    残された預貯金を各相続人の名義に帰属させるためには、各相続人の相続割合を定めなくてはなりません。これについて、被相続人の預貯金を誰が・どの割合で相続するかを決める「遺産分割協議」が行われます。そして遺産分割協議の成立をもって、金融機関に預金名義の書き換え手続きを行います

    また、遺産分割協議がまとまると、その合意内容を明記した「遺産分割協議書」を作成します。遺産分割協議書の作成は、必ずしも法律で義務付けられているわけではありません。しかし、金融機関によっては相続手続きの過程で提出を求められることがあり、不動産の相続登記にも必要になります。

  2. (2)遺産分割協議成立前に預金は払い戻せる?

    以前は、遺産分割協議成立前は相続人全員の合意がないと単独では被相続人の預貯金を払い戻すことができないという規定がありました。

    しかし、この規定は被相続人の配偶者などの生活が困窮してしまう原因となり得る、規制の適用が厳しく現実に沿わない、という指摘が出ていました。
    このような指摘を受け、令和元年7月1日から民法第909条の2の新設と家事事件手続法第200条3項の改正により、遺産分割協議成立前でも生活費や葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などのために必要な場合は、相続人が単独で預貯金を払い戻すことができるようになったのです

    具体的には、以下の算式で求められる範囲において、他の共同相続人の合意や家庭裁判所の仮処分を得なくても、各相続人単独で預金を払い戻すことができます。ただし、金額の上限は150万円です

    • 相続開始時における預貯金の額(口座ごと)×3分の1×当該払戻しを請求する相続人の法定相続分=相続人が単独で払戻しをすることができる金額


    また、
    1. ① 遺産分割について調停・審判が申し立てられており、
    2. ② 相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を相続人が行使する必要性があると認められた場合で、
    3. ③ 他の共同相続人の利益を害しないときには、

    家庭裁判所から預金の全部または一部の仮払いの許可を受けることができます。

3、ゆうちょ銀行の相続手続きの特徴

ゆうちょ銀行の相続手続きの特徴は、被相続人の口座の支店名に関係なく、全国どこの窓口でも手続きが行える利便性にあります。

また、「相続Web案内サービス」というサービスで、相続状況や被相続人の家族関係などの情報に基づき、相続手続きに必要な書類の案内をインターネット上で受けることができます。このほかにも「相続コールセンター」が設置されており、相続について気軽に問い合わせることができる体制が整っています。

4、ゆうちょ銀行の相続手続きの流れは?

ゆうちょ銀行における相続手続きの具体的な流れについてご説明します。ゆうちょ銀行の繁忙ぶりや相続の態様にもよりますが、すべての手続きが完了し預金が払い戻されるまでは1か月程度を見込んでおくとよいでしょう

  1. (1)相続確認表を提出する

    相続確認表とは、被相続人を中心としたすべての相続人の関係や、相続の対象となる貯金の記号番号などを記入する書類です。相続確認表は、ゆうちょ銀行のホームページからダウンロードするか、窓口で入手することができます。これを漏れなく記載して、ゆうちょ銀行の窓口に提出します。

    このとき、被相続人の口座の有無が不明な場合、あるいは口座番号が不明な場合は、「貯金等照会書」を提出することで照会ができます。また、貯金残高が不明の場合は、「残高証明書」の発行を受けることで調査することができます。

    相続確認表を提出すると、1週間から2週間程度で相続手続きに必要な書類を列挙した「必要書類のご案内」が郵送されてきます。

  2. (2)必要書類を提出する

    相続手続きにおいて、ゆうちょ銀行に提出しなければならない必要書類は、主に以下のとおりです。特に戸籍謄本は他の相続手続きでも使用する場合がありますので、相続が発生したら早めに取り寄せてください。

    • ゆうちょ銀行から送られてくる「貯金等相続手続請求書(名義書換請求書兼支払請求書)」


    この書類には、各相続人の実印を押印する必要があります。
    また、この書類を提出するまでの間に、被相続人名義の貯金口座の残高を、払戻証書の送付を受けて現金で受け取るか、または、相続人代表者の名義を変更する方法で受け取るか(この場合には、あらかじめ、相続人代表者名義のゆうちょ銀行の貯金口座を開設しておく必要があります)、決めなければなりません

    • 被相続人の出生から死亡までがわかる戸籍謄本一式
    • 相続人全員の戸籍謄本
    • 相続人代表者の本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)
    • 相続人全員の印鑑登録証明書
    • 被相続人の貯金通帳及びキャッシュカード(ある場合)
    • 被相続人の遺言書(ある場合)
    • 遺産分割協議書(ある場合)


    なお、上記はすべて原本が必要です。また、必要書類は相続確認票を提出したゆうちょ銀行の窓口に提出します。

  3. (3)相続払戻金を受け取る

    すべての書類が揃うと、ゆうちょ銀行から、現金での受け取りを希望する場合には払戻証書(ゆうちょ銀行の窓口で現金の払戻を受けるための証書)が、また、口座の名義変更を希望した場合には、名義変更が行われた古い通帳等が送られてきます。

    どちらの場合でも相続した金銭は代表相続人1名の手元に全額入ることになります。したがって、代表相続人が相続払戻金を受け取ったら、それを遺産分割協議どおりに各相続人へ分配しなくてはなりません。

  4. (4)残高が少額なら簡易な手続きが可能

    被相続人名義のゆうちょ銀行の貯金口座の残高が、100万円以下の場合には、

    • 貯金等相続手続請求書(名義書換請求書兼支払請求書)
    • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
    • 被相続人と代表相続人の関係性の分かる戸籍謄本
    • 被相続人のゆうちょ銀行口座の通帳や証書
    • 代表相続人の印鑑証明書
    • 代表相続人の実印
    • 代表相続人の本人確認書類


    があれば、最寄りのゆうちょ銀行の窓口で、その場で現金で払い戻しを受けることができます。

5、相続手続きの期限とは?

法的には、ゆうちょ銀行など金融機関の相続手続きに具体的な期限が設けられているわけではありません。しかし、相続税の申告・納付は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内と決まっています。このときまでに相続手続き、あるいは遺産分割協議すらまとまらない場合、各相続人は法定相続割合で相続したものとして相続税が課税されます。納税資金として被相続人の郵便貯金を使うことを考えるならば、早めに相続の手続きを進めた方がよいでしょう。

また、平成30年から施行された「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金等活用法)により、預金の最終異動日(預金者が今後も預金を利用する意思を表示したものとして認められる取引があった日)から10年を経過した口座にある預金は、ゆうちょ銀行から預金保険機構へ移管され、民間公益活動のための資金として活用されることになります。

もっとも、預金保険機構へ移管されたとしても相続人が所定の手続きをとることで預金の引き出しを請求することができ、金融機関は所定の手続きにより払い戻すことができますが、この手続きには相応の手間と時間を要します。

したがって、法的な期限が設けられていないとはいっても、あまり先延ばしにすることはおすすめしません。

6、まとめ

相続手続きにおいて、手続き書類の様式やルールは金融機関ごとに異なります。当然、書類を作成する負担は、被相続人が取引していた金融機関の数に比例して増加します。また、預金の解約や投資信託などの換金・入金、各種費用清算・出金など、相続資金の入出金管理にも留意しながら、不動産など他の資産がある場合には、相続人の時間的な負担は相当に大きくなる可能性があります。

相続業務に経験と知見のある弁護士であれば、相続人の代理人として財産調査、財産目録の作成、遺産分割協議書の作成、相続財産の名義書き換えの手続きなど、相続に関するさまざまなサポートを行うことができます。相続に不慣れな方でも、弁護士に依頼することで円滑な相続手続きが期待できるのです。

べリーベスト法律事務所 千葉オフィスでは、相続全般に関するご相談を承っております。ぜひお気軽にご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています