相続財産法人とは? 相続人がいない場合における遺産管理・納税義務

2021年07月21日
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相続財産法人とは? 相続人がいない場合における遺産管理・納税義務

人口動態統計のデータによると、千葉県内における2019年中の死亡数は6万2004人でした。出生数は4万799人で、2万1205人の自然減少となっています。

相続人がいない相続においては、相続財産は法人とみなされます。相続人不在のケースでは、相続手続きの流れが詳細に民法で定められています。また、相続財産法人の納税義務については複雑な点も多いので、弁護士・税理士に相談して適切に対応しましょう。

この記事では、相続財産法人に関する遺産の管理方法や納税義務などを中心に、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「令和元年人口動態統計の概況(確定数)」(千葉県))

1、相続財産法人とは?

相続財産は、本来は「物」の集合体であり、権利能力の主体となり得る「人」ではありません。
しかし、相続に関する権利を持つ人がいない場合には、権利義務の清算に関する事務の便宜上、相続財産が「法人」とみなされることになっています。

  1. (1)判明している相続人がいない場合、相続財産は法人とされる

    民法第951条では、「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする」と定めています

    つまり、戸籍などをたどった結果、以下のいずれかに該当する者がいない場合には、相続財産は法人となります。

    • ① 配偶者
    • ② 子ども
    • ③ 直系尊属
    • ④ 兄弟姉妹


    また、上記の①~④に該当する者が、以下のいずれかの事由に該当して相続権を失った結果、相続人がいなくなった場合にも、やはり相続財産は法人とみなされます。

    (a) 死亡
    (b) 相続欠格(民法第891条)
    (c) 相続廃除(民法第892条)
    (d) 相続放棄(民法第939条)


    なお、後から相続人としての権利を主張する者が現れ、相続権を証明した場合には、相続財産法人は成立しなかったものとみなされます(民法第955条本文)。
    ただし、すでに相続財産管理人が権限内でした行為については、その有効性が失われることはありません(同条ただし書)。

  2. (2)相続財産全部の包括受遺者がいる場合、相続財産法人は成立しない

    最高裁の判例上、相続人がいないとしても、相続財産全部の包括受遺者が存在する場合には、相続財産法人は成立しないと解されています(最高裁平成9年9月12日)。

    なぜなら、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有し(民法第990条)、遺言者の死亡の時から遺言者の財産に属した一切の権利義務を承継するのであって、この場合には、包括受遺者が自ら相続財産を管理すればよく、相続財産管理人を選任しての清算事務は不要と考えられるからです。

  3. (3)相続財産法人は「相続財産管理人」が管理する

    相続財産法人が成立する場合、相続財産は「相続人のあることが明らかでない」財産であるため(民法第951条)、管理者が必要になります。

    そこで、相続財産が法人とみなされる場合には、利害関係人または検察官の請求によって「相続財産管理人」が選任されます(民法第952条第1項)

    相続財産管理人は、後述する手続きに従って相続財産を清算し、最終的には相続財産を国庫に帰属させるために職務を行います。

2、相続人がいない場合の手続き

相続人がおらず、相続財産が法人とみなされる場合、相続財産管理人は、以下の流れに沿って相続財産の清算を行います。

  1. (1)相続財産管理人の選任・公告

    まずは、利害関係人または検察官の請求により家庭裁判所によって相続財産管理人が選任されます(民法第952条第1項)。
    相続財産管理人の選任を請求できる利害関係人とは、相続債権者や受遺者などです

    家庭裁判所が相続財産管理人を選任した場合、遅滞なくその旨が公告されます(同条第2項)。

  2. (2)相続債権者・受遺者に対する弁済の請求申出の公告

    相続財産管理人選任の公告があった後、2か月以内に相続人が判明しなかった場合、相続財産管理人は、遅滞なくすべての相続債権者・受遺者に対して弁済の「請求の申出をすべき旨の公告」を行います(民法第957条第1項)。

    弁済の請求申出の公告期間は2か月以上で、その間に相続債権者・受遺者は、相続財産法人に対して弁済を行うよう請求することができます。
    なお、相続債権者・受遺者による弁済の請求は、請求申出の公告期間が過ぎたとしても、後述する「相続人の捜索」の公告期間が終了するまでは認められます(民法第958条の2)。

  3. (3)相続人の捜索の公告

    請求申出の公告期間が満了した後、依然として相続人が判明しなかった場合には、相続財産管理人または検察官の請求によって、家庭裁判所が「相続人の捜索の公告」を行います(民法第958条)。

    相続人の捜索の公告期間は6か月以上で、この期間内に相続人が判明しなかった場合には、相続人の不在が確定したものとして手続きが進められます

  4. (4)特別縁故者に対する相続財産の分与

    相続人の捜索の公告期間が満了した時点で、相続人としての権利を主張する者がいない場合、相当と認められる場合は、「特別縁故者」に対する相続財産の分与の手続きへと移行します。

    特別縁故者とは、被相続人と生計を同じくしていた者や、被相続人の療養看護に努めた者など、「被相続人と特別の縁故があった者」をいいます(民法第958条の3第1項)

    特別縁故者は、生前の被相続人への貢献度が高かったため、一定の遺産を分与することが被相続人の意思に沿うものと考えられます。
    そのため、特別縁故者の貢献度に応じて、相続財産を国庫へ帰属させる前に、その全部または一部を特別縁故者へ与えることが認められているのです。

    特別縁故者が相続財産の分与を受けるためには、相続人の捜索の公告期間が満了してから3か月以内に、家庭裁判所に対して請求しなければなりません(同条第2項)

    特別縁故者からの請求があった場合、家庭裁判所は審判手続きを開催し、生前の被相続人に対する貢献度などを審査したうえで、分与の可否および金額を決定します。

  5. (5)他の共有者への共有財産の帰属

    特別縁故者への相続財産分与の手続きまで終了した段階で、残った相続財産に共有物が含まれている場合には、被相続人が有していた共有持分権は、他の共有者に帰属します(民法第255条)。

    なお、民法第255条の条文上は、共有者が「死亡して相続人がないとき」に共有持分権が他の共有者に帰属するとのみ定められていることから、共有持分権が特別縁故者に対する財産分与の対象になるかどうかが法的な論点になります。
    この点については、共有持分権も特別縁故者に対する相続財産の分与の対象に含まれるというのが、最高裁判例の立場です(最高裁平成元年11月24日判決)。

  6. (6)国庫への残余財産の帰属

    上記の手続きがすべて完了しても、なお処分されなかった相続財産は、国庫に帰属します。(民法第959条)。

    相続財産管理人は、残った相続財産の名義変更(登記)などを行います。
    そして、すべての清算事務が完了した段階で、遅滞なく相続財産に関する管理の計算を行い、家庭裁判所に管理終了報告書を提出します。

    これで相続財産管理人の職務は終了です。

3、相続財産法人化時の注意点

相続人がおらず、相続財産が法人とみなされる場合には、相続財産法人に「相続財産管理人への報酬」と「税金」の支払い義務が発生します。

基本的には相続財産管理人の職務の範囲なので、それ以外の方が心配すべきケースは少ないですが、念のため取り扱いを理解しておきましょう。

  1. (1)相続財産管理人への報酬が発生する

    家庭裁判所が相続財産管理人を選任する場合、職務の難易度や負担の大きさに応じて、一定額の報酬を定めます。

    相続財産管理人の報酬は、原則として相続財産法人が支出します
    ただし、相続財産の金額が報酬額に不足する場合には、相続財産管理人の選任申し立てをする利害関係人に対して、家庭裁判所が予納金の納付を求めるケースがあるので注意が必要です。

  2. (2)法人としての納税義務がある

    相続財産法人は、以下の税金を納付する義務があります。

    ① 被相続人の所得税
    被相続人が亡くなった年に係る所得に対しては、所得税が課税されます。
    相続人がいる場合は、相続人が「準確定申告」という手続きを行い、税務署に被相続人の所得を申告しなければなりません。
    しかし、相続財産法人が成立する場合は、相続人がいないので、相続財産管理人が代わりに準確定申告を行い、相続財産法人から納税を行います。
    なお、被相続人の住民税については、亡くなった年の所得に関しては課税されないことになっています。

    ② 固定資産税
    相続財産に土地・家屋・償却資産(=固定資産)が含まれている場合、毎年固定資産税が課税されます。
    固定資産税の税率は自治体によって異なりますが、固定資産税評価額の1.4%前後です。

4、まとめ

相続人がいない場合、相続財産は法人とみなされ、家庭裁判所が選任する相続財産管理人によって管理されます。
この場合、被相続人の意思とは関係なく相続財産が清算されてしまうので、できる限り遺贈などを活用して、被相続人ご自身の意思で財産の承継方法を決めておくことをおすすめいたします。

ベリーベスト法律事務所では、相続に向けた生前対策のご相談を全般的に受け付けております。
ご自身の死後、財産がどのように引き継がれるかについてご不安をお持ちの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスにご相談ください。

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