相続したくないなら相続放棄を検討! 制度の特徴と注意点を千葉の弁護士が解説
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千葉県の平成30年分における相続税の申告書の提出に係る被相続人数は5,291人と平成28年分と比較しても114%と増加しており、課税価格の総額は6,840億円申告税額の総額は804億円となっています。
相続と聞くと裕福な家庭にだけ発生するものだと思われがちですが、近年ではごく普通の家庭においても身近な問題となりつつあります。相続の対象となる財産は、プラスの権利や義務だけでなくマイナスのものが含まれます。被相続人(亡くなった方)に多額の借金があった場合など、相続人はその借金を引き継ぐことになります。
被相続人の責任において生じた借金をそのまま背負わされる理不尽を避ける選択肢として、法律では「相続放棄」が認められています。
本記事では、相続放棄をお考えの方に向けて、制度の特徴や手続き方法、注意点をベリーベスト 千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、相続が発生してまず取りかかるべきこと
被相続人が亡くなると、葬儀の手続きや役所、金融機関への届け出など、やるべきことが多数あります。相続については「少し落ち着いてから」と後回しにしがちですが、期限が限られている手続きがありますので、それらと同時進行でおこなわなくてはなりません。
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(1)大前提となる知識を押さえる
民法では、被相続人と何らかの親族関係があった者を「相続人」と定めており、法定相続人と呼ばれます。
【相続人の範囲】- 配偶者…常に相続人となります。
民法は、被相続人と血縁関係にある相続人を3種類規定し、順位をつけています。 - 子ども…第1順位の相続人です。子どもが先に亡くなっている場合はその子ども(被相続人の孫)が代襲相続します。
- 直系尊属…第2順位の相続人です。子どもや孫がいない場合には父母、父母がいない場合には祖父母に順番がまわってきます。
- 兄弟姉妹…第3順位の相続人です。直系卑属、直系尊属ともにいない場合に相続人となります。
【相続割合】
被相続人が各相続人の相続分を指定していない場合に備えて、民法は法定相続分として、次のような割合を定めています。- 配偶者と子ども….配偶者1/2、子ども1/2
- 配偶者と直系尊属…配偶者2/3、直系尊属1/3
- 配偶者と兄弟姉妹…配偶者3/4、姉妹1/4
もっとも、相続人は、遺産分割の内容について協議で自由に決めることができます。
遺産分割協議がまとまれば、実際に取得する相続分が、法定相続分を下回ったり、0であったりしても問題ありません。 - 配偶者…常に相続人となります。
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(2)遺言書の存在を確認
次におこなうべきは遺言書の有無の確認です。遺言書があると法定相続分とは異なる結果になる場合があり、後になって手続きをやり直すことになりかねないからです。
公正証書遺言であれば公証役場に保管してあり、また、自筆証書遺言について法務局(遺言書保管所)に保管されているかどうか確認することができますが、そうでなければ探す必要があります。公正証書遺言及び遺言書保管所に保管されている自筆証書遺言以外は、裁判所の検認が必要であり、検認が完了するまでに1か月以上はかかるとされています。 -
(3)相続人は誰かを把握する
法定相続人が誰になるのかを把握するために、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍を取得します。戸籍を確認したところ、実は他に隠し子がいたといったケースも実際にあるものです。戸籍の取得に時間がかかることがありますので早急に調査を開始しましょう。
ご自身が相続人でなければ、そもそも相続放棄について考える必要はありません。ただし、先順位の者が相続放棄をすると、ご自身に順番がまわってくることがあります。先順位者の意思と行動を注視しておくべきでしょう。 -
(4)相続財産を調査する
被相続人の相続財産の種類や額、所在地などを調査します。預貯金や有価証券、不動産などだけでなく、借金の有無や誰かの連帯保証人になっていないかなどを把握することが大切です。
特に被相続人と疎遠になっていた方は、どこにどんな財産があるのかを知ることにかなりの時間を要します。こちらも早急に取りかかりましょう。
2、財産を相続したくないなら「相続放棄」を検討
前述のような手続きをへて諸々検討した結果、負債もふくめて相続財産を相続したくないと思う相続人のための手続が相続放棄です。相続放棄は単に口頭で意思表示をしただけでは足りず、裁判所へ申述して、受理されて完結します。
ここでは、相続放棄の主な特徴を確認します。
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(1)相続放棄の効果
相続放棄をすると、プラスもマイナスも含め、一切の権利・義務を放棄することになります。プラスの財産を受け取れない代わりに多額の借金があっても支払い義務を課されることはありません。相続人が複数いる場合に、一人の相続人だけが放棄することも可能です。
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(2)手続きの期限
通常、相続においては何もしなければ単純承認となりますが、相続放棄は「相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に」する必要があります。
やむを得ない事情があれば延長の手続きもできますが、延長手続き自体も3か月以内におこなう必要があります。できるだけ早い段階で調査にかかる時間を把握するようにしましょう。 -
(3)手続きにかかる費用
手続きに必要な費用は、収入印紙代や郵便切手、戸籍謄本の取得代など、それほど高額になることはありません。そのため、専門家に頼むよりも自分で済ませてしまう方がお得だと考える方も多くいます。
ただし、調査にともなう交通費や郵送費がかかる、手続きのために仕事を休んだりするなど、相続放棄に必要な準備をするために、想像以上に大きな負担がかかります。また、手続きに不備があり、結局は借金を背負ってしまうことになれば本末転倒です。費用を節約するためにご自身で取り組むよりも、最初から専門家に任せてしまう方が確実と考えられます。
3、相続放棄の流れ
相続放棄における手続きの流れを確認しましょう。
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(1)他の相続人へ伝える
同順位の血族相続人が複数人いた場合、そのうちひとりが相続放棄すると残りの相続人の割合が増えることになります。
先順位の血族相続人がすべて相続放棄した場合には、後順位の血族相続人に順番がまわってきます。
つまり、ご自身が相続放棄をすることは他の相続人へ影響をおよぼしますので、他の相続人に対して相続放棄する旨を伝えておくことが望ましいでしょう。 -
(2)申し立て場所と必要書類を確認
申し立ては、被相続人の最後の住居地を管轄する家庭裁判所にておこないます。裁判所の場所を把握し、不明な点があれば電話で問い合わせるなどすればよいでしょう。その際、提出書類もあわせて確認するとスムーズです。
相続放棄の申述書は不備のないよう、慎重に記入します。裁判所によっては郵送も受け付けていますので、詳細は各裁判所のウェブサイトなどで確認しましょう。 -
(3)照会書の返送
裁判所から「照会書」と呼ばれる質問状が送付されてきます。回答して返送すれば裁判所より「相続放棄申述受理通知書」が届き、通常はこれで完了です。
ただし、回答の内容によっては相続放棄が却下されることもあります。
4、相続放棄を弁護士に依頼するメリット
相続放棄を検討されている方は弁護士へ依頼することが好ましいといえます。弁護士へ依頼すると次のようなメリットがあるからです。
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(1)期限内で確実に手続きを済ませてもらう
相続放棄の手続きは一見すると簡単に思えますが、少しでも不備があると受理されず、期限も限られているなど厳しい面があります。弁護士に依頼すれば期限内で確実に手続きできますので安心です。
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(2)相続放棄の注意点を把握している
相続には「法定単純承認」といい、ある一定の行為をした場合に相続を承認したものとみなされ、相続放棄ができなくなる仕組みがあります。典型例は財産の全部または一部を処分する行為です。
たとえば、次のような行為です。- 借金を一部返済する
- 財産価値のある物を形見分けする
- 預貯金を自己用に消費する
- 不動産を売却する
弁護士であれば上記を含めた法的な注意点を伝えてくれますので、軽はずみな行動で後悔することを防ぐことができるでしょう。
5、まとめ
今回は相続放棄の特徴や手続き方法を中心に解説しました。被相続人に借金がある場合でも、相続放棄をすることで相続人は借金を背負わずに済みます。状況によっては利用を検討するべき制度だといえるでしょう。
一方で、相続放棄には法律上定められた手続きや注意事項があるほか、調査に手間や時間がかかることもあり、一般の方が単独でおこなうことは難しい面があります。期限内に確実な相続放棄を完了させるには、専門家の助けが必要不可欠といえるでしょう。
ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスにおいてご相談をお受けします。相続放棄をお考えの方はご一報ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています