【弁護士が解説】 相続放棄を強要された場合の対処法は?
- 相続放棄・限定承認
- 相続放棄
- 強要
千葉県の人口動態統計によると、2019年中の千葉県内における死亡者数は6万2773人で、前年比2576人の増加となりました。
相続放棄は、相続財産中に借金などがある場合に、債務の負担を逃れるための方法として有効です。
しかし、他の相続人などから強要されて相続放棄をした場合、意に反して遺産を相続できなくなってしまいます。もし、相続放棄を強要された場合には、弁護士に相談をして、法律上の厳正な対応を取りましょう。
この記事では、相続放棄を第三者から強要された場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「人口動態統計速報」(千葉県))
1、相続放棄を強要することはできない
一般的に相続放棄を強要することは法律上許されていません。
法定相続人には、被相続人の遺産を一定の範囲で相続できる法律上の権利(法定相続分、遺留分)があります。
この権利を行使するかしないか、またどのように行使するかについては、相続権を有する法定相続人の完全なる自由です。
もし相続放棄の強要が行われた場合、次の項目以降で解説するように、犯罪が成立する場合や、法律により救済される可能性がありますので、弁護士に相談して適切に対応しましょう。
2、相続放棄の強要は犯罪になる?
相続放棄の強要は、違法であるというにとどまらず、犯罪に該当する可能性もあります。
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(1)強要罪が成立する
相続放棄の強要について問題になり得るのは「強要罪」です(刑法第223条第1項)。
強要罪の法定刑は、「3年以下の懲役」となります。
強要罪は、以下の要件①②満たす行為に成立します。- ①他人の生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対して害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いたこと
- ②①によって、他人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害したこと
相続放棄の強要が、上記の脅迫・暴行によって行われた場合は、強要罪の構成要件に該当する可能性があります。
なお、「他人の生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対して害を加える旨を告知」するような脅迫の例としては、以下のものが挙げられます。- 「相続放棄をしなければ、親族の間で村八分にする」
- 「相続放棄をしなければ、家族をただじゃおかない」
- 「相続放棄をしなければ、次の相続で財産を一切与えない」
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(2)未遂についても罰せられる
強要罪は、未遂についても処罰規定が置かれています(刑法第223条第3項)。
したがって、相続放棄をするように強要が行われた場合、実際に相続放棄をさせるには至らなかったとしても、強要した人には強要未遂罪が成立し、やはり「3年以下の懲役」の刑が科される可能性があるのです。
もし相続放棄に関して、不当な強要行為があった場合には、刑事告訴も視野に対応を検討することをおすすめします。
3、もし強要に応じて相続放棄してしまったら?
相続放棄を強要するプレッシャーが強く、応じてしまったとしても、まだ法律上の救済手段は残っています。
このような場合に備えて、強要に応じて相続放棄をしてしまった場合の対処法を正しく理解しておきましょう。
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(1)強要による相続放棄は取り消しが認められる
強要に応じて相続放棄をした場合、それは相続人の真の意思によるものではありません。
つまり、相続放棄の意思表示について瑕疵(かし)があることになりますので、民法総則の意思表示に関する規定に従い、相続放棄を取り消せる可能性があります。
民法第96条第1項によれば、「強迫」による意思表示は取り消すことができるとされています。
民法上の「強迫」とは、他人に害意を示し、恐怖の念を生じさせる行為をいい、強迫者が、相手方にある意思表示をさせるため不法に害悪を告知し、相手方がこれに畏怖した結果、意思表示がなされた場合に認められます。
相続放棄の強要は、この民法上の「強迫」に該当する可能性があり、該当すれば同規定に従い、相続放棄の意思表示を取り消すことが認められます(民法第919条第2項)。 -
(2)相続放棄の取り消しは消滅時効に注意
ただし、相続放棄の意思表示を取り消すことのできる期間には、消滅時効による制限が存在する点に注意が必要です。
民法第919条第3項によれば、強迫による意思表示の取消権は、以下のいずれかの期間が経過した時点で、時効により消滅します。- ①追認をすることができる時から6か月
- ②相続放棄の時から10年
相続放棄を強要された場合、基本的には上記のうち①が適用されると考えればよいでしょう。
「追認をすることができる時」とは、相続人本人について、取消の原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後ということとなります(民法124条参照)。
相続放棄は、他の相続人や債権者の権利・義務に大きな影響を及ぼす重大な意思表示です。
したがって、相続放棄に関する法律関係を早期に確定させる必要性が高いといえます。
その一方で、強迫によって相続放棄を強いられた相続人の保護を図る必要性もあることから、両者のバランスを取って、6か月の消滅時効期間が設定されているのです。
よって、相続放棄を強要され、それに応じて相続放棄をしてしまった場合は、一刻も早く弁護士に相談をして、相続放棄の取り消しを行うことをおすすめします。
なお、相続放棄の取り消しは、家庭裁判所に対して申述する方法によって行う必要があります(民法第919条第4項)。
手続きについて不明点がある場合には、弁護士に確認しましょう。 -
(3)強要した人を刑事告訴することも可能
すでに解説したように、相続放棄を強要する行為は、強要罪に該当する可能性があります。
相続放棄を強要されたことについて被害感情が強い場合には、捜査機関に対して強要の事実を刑事告訴することも考えられます。
刑事告訴をすると、捜査機関はそれに応じて一定の捜査を行う義務を負います(刑事訴訟法260条、261条参照)。
その後、犯情(犯罪の事情)によっては逮捕・起訴が行われ、相続放棄の強要をした人に刑事罰が科される可能性もあります。
「親族同士で刑事告訴をするなんて忍びない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、相続放棄の強要が犯罪に当たりうることは、親族同士であっても変わりがありません。
そのため、ご自身の心情に向き合ったうえで、真に望まれる行動をとることをおすすめします。
4、相続放棄を強要されても遺産を相続したい場合の対処法は?
相続放棄を強要されたとしても、遺産を相続したいと考えている場合には、それに応じる必要はありません。
しかし、相続放棄の強要を断っても、引き続き言動などによってプレッシャーをかけられる可能性もあります。
その場合、主に以下の方針に従って対応しましょう。
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(1)弁護士を通じて強要の違法性を訴える
まずは、相続放棄の強要が違法であることを、法律上の根拠とともに訴えましょう。
その際、弁護士を通じてその旨を訴えると、より説得力を持った強いメッセージを伝えることが可能です。 -
(2)遺産分割協議で自らの権利を主張する
相続人である以上は、遺産分割協議に参加する権利があります。
遺産分割協議の場では、ご自身の法定相続分を把握したうえで、公平な遺産分割を行うように主張しましょう。
また、相続放棄の強要が特定の相続人のみから行われている場合には、遺産分割協議の場で強要を受けていることを訴え、他の相続人に助けを求めることも考えられます。
遺産分割協議にどのような方針で臨むかについては、弁護士に相談して決定するのがおすすめです。
弁護士は、相続人としての権利内容や、他の相続人が交渉に臨む態度などを総合的に考慮して、依頼者にとってもっとも利益となる交渉戦略についてのアドバイスをしてくれます。 -
(3)必要に応じて調停・審判手続きを利用する
遺産分割協議では、相続人全員が納得のいく結論をすんなり得られるとは限りません。
特に、一部の相続人から相続放棄の強要が行われているケースでは、その相続人が遺産分割協議の議論を混迷に陥れる可能性が非常に高いでしょう。
この場合、必要に応じて遺産分割調停や、遺産分割審判といった法的手続きを取る必要があります。
事前に弁護士に依頼しておけば、遺産分割協議が不調に終わり、法的手続きへと移行する必要が生じた場合にも、スムーズに準備を整えることが可能です。
5、まとめ
相続放棄は、相続人本人の真の意思によって行われなければなりません。
したがって、他の相続人などの第三者が、相続人に対して相続放棄を強要することは態様によっては違法であり、場合によっては強要罪にも該当しうることになります。
もし相続放棄の強要を受けた場合は、ご自身の相続人としての権利内容を踏まえて、法律にのっとった厳正な対応を取ることが大切です。
その際には、ぜひベリーベスト法律事務所にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所では、相続紛争を専門的に取り扱う弁護士で構成されるチームが、依頼者の抱えている問題を解決するために全力を尽くして対応いたします。
また、グループ内に税理士も所属しているため、相続税に関するご相談についてもワンストップで対応可能です。
相続放棄の強要を受けてしまいお悩みの方、その他相続に関するさまざまなご不安・ご懸念をお抱えの方は、お早めにベリーベスト法律事務所 千葉オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています