人を突き飛ばしてケガを負わせたら傷害罪? 問われる罪と量刑について
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千葉県警察の統計によると、令和4年度の千葉県内における刑法犯の認知件数は32728件で、そのうち粗暴犯は1937件でした。
他人ともみ合った拍子に、その人を突き飛ばしてケガをさせた場合には、「傷害罪」に問われる可能性があります。もし傷害罪で逮捕または書類送検されてしまった場合は、速やかに弁護士に相談し、不起訴に向けた弁護活動を依頼されることをおすすめします。
本コラムでお伝えすることは、大きく以下の3つです。
・他人を突き飛ばしてケガを負わせたら「傷害罪」に問われる可能性がある
・傷害罪と暴行罪の違い
・傷害罪で逮捕されたら、どう対処すべきなのか
人を突き飛ばしてケガを負わせてしまった方に向けて、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が解説します。
1、他人を突き飛ばしてケガを負わせたら「傷害罪」に問われる可能性あり
どのような理由が背景にあるとしても、正当防衛などに当たらない限り、他人に暴力を振るうことは犯罪に当たります。
他人を突き飛ばしてしまったようなケースも例外ではなく、場合によっては「傷害罪」としての刑事責任を負わなければなりません。
まずは、傷害罪の成立要件と、傷害罪に当たる行為の例を見てみましょう。
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(1)傷害罪の成立要件
傷害罪(刑法第204条)にいう「傷害」とは、人の生理的機能を害する行為を意味すると解されています(大審院明治45年6月20日判決など)。
かみ砕いて言えば、他人に対して何らかの加害行為(主に暴力など)を行い、その結果としてその人がケガをしたり、病気になったりした場合には「傷害罪」が成立します。
なお傷害罪が成立するには、加害者の加害行為と、傷害の結果の間に因果関係が認められる必要があります。
また、加害者に傷害罪の「故意」があることも要件となりますが、「故意」の意味するところについては後述します。 -
(2)傷害罪に当たる行為の例
傷害罪が成立するのは、加害者の暴行等により、被害者が直接ケガを負わされた場合に限られません。
もし実行行為と傷害結果の中間に何らかの事情が介在したとしても、両者の間に因果関係が認められる限りは、傷害罪が成立します。
たとえば以下に挙げる場合は、いずれも傷害罪が成立する可能性が高いです。- 相手を強く突き飛ばしたところ、力が強すぎたため、突き飛ばした箇所の骨が折れてしまった。
- 相手を強く突き飛ばしたところ、体勢を崩した相手が転倒して頭を打ち、むちうち症になってしまった。
- 相手を何度も突き飛ばしているうちに、恐怖を感じた相手が逃走を図って道路に飛び出したところ、偶然走ってきた車にはねられてケガをしてしまった。
2、傷害罪と暴行罪の違いは?
同じ「相手を突き飛ばす」という行為でも、被害者に生じる結果次第で「傷害罪」と「暴行罪」(刑法第208条)に分かれます。
傷害罪は、暴行罪よりもはるかに重い罪であり、法定刑や公訴時効の点で、加害者にとって大きく不利になってしまうので注意が必要です。
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(1)ケガがあれば傷害罪、ケガがなければ暴行罪
前述のとおり、傷害罪は相手に対する加害行為の結果として、相手にケガや病気等、人の生理的機能を害する結果を生じさせてしまった場合に成立します。
これに対して暴行罪における「暴行」とは、他人に対する不法な有形力の行使を意味すると解されています。
この有形力の行使によって、相手がケガをした場合には傷害罪になります。
その反面、「相手に対して有形力を行使した(暴行した)けれども、相手はケガをしなかった」という場合には、暴行罪が成立するにとどまるのです。
このように、傷害罪と暴行罪の分かれ目は、「被害者がケガをしたかどうか」の点にあります。
なお、たとえ擦り傷などの軽傷であったとしても、わずかでも被害者がケガをしていれば傷害罪が成立することに注意しましょう。 -
(2)傷害罪と暴行罪の法定刑は大きく異なる
傷害罪と暴行罪のもっとも大きな違いは、その法定刑の差です。
暴行罪の法定刑は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」とされており、比較的軽くなっています。
これに対して傷害罪の場合、「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」という極めて重い法定刑が設定されています。
それほどに「傷害」という結果は重大であり、万が一他人をケガさせてしまった場合には、重い刑事処分を覚悟しなければなりません。 -
(3)傷害罪と暴行罪は公訴時効期間も異なる
傷害罪と暴行罪は、法定刑の違いに伴い、公訴時効期間も異なります。
暴行罪の場合、法定刑の上限が懲役2年であるため、公訴時効期間は3年です(刑事訴訟法第250条第2項第6号)。
これに対して傷害罪の場合、法定刑の上限が懲役15年であるため、公訴時効は10年とされています(同項第3号)。
このように、特に傷害罪についてはかなり時間的余裕のある公訴時効期間が設定されているため、加害者が訴追される可能性は高いでしょう。
3、ケガをさせるつもりがなくても傷害罪が成立する可能性がある
「相手を突き飛ばしはしたけど、ケガをさせるつもりはなかったのだから、傷害罪は成立しないのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、傷害罪の成立には「他人を傷害すること」についての故意は要求されていません。
つまり、相手をケガさせるつもりがなかったとしても、傷害罪に問われる可能性があるのです。
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(1)傷害罪の故意は「暴行の故意」で足りる
最高裁の判例によれば、傷害罪の成立に必要な「故意」は、「暴行」について存在すれば足りるとされています(最高裁昭和25年11月9日判決)。
仮に相手をケガさせるつもりがなくても、「暴行すること」についての故意があれば、結果的に相手をケガさせてしまったこと(傷害)についても、犯罪の責任を負うということです。
これを「結果的加重犯」といいます。 -
(2)暴行と傷害の間に因果関係があれば、傷害罪が成立する
結果的加重犯として傷害罪が成立するためには、暴行と傷害結果の間に因果関係が認められる必要があります。
なお、両者の間に中間的な事情が介在したとしても、因果関係が肯定される場合があることは前述のとおりです。
ただし、あまりにも異常な傷害の経緯をたどった場合や、暴行とは全く関係がない事情が介在した場合には、暴行と傷害結果との間の因果関係が否定されると考えられます。(例)
相手を軽く突き飛ばしたところ、そのタイミングでたまたま相手が持病の貧血を生じて倒れ、頭を打って出血した。
4、傷害罪で逮捕された場合の対処法
万が一暴行事件を起こし、相手がケガをしたため傷害罪で逮捕されてしまった場合、刑事手続からの出来る限り早期の解放を目指して行動することが大切です。
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(1)速やかに弁護士に依頼する
まずは、速やかに弁護士と連絡をとり、不起訴に向けた弁護活動を依頼することが重要です。
逮捕されている状況では、外部とのやり取りも満足に行えませんし、後述する示談交渉も自力で行うことはできません。
また、捜査機関による取り調べに臨む際にも、自分自身で正しい心構えを整えるのは難しく、捜査機関の誘導に乗って不利な供述をしてしまうことになりかねません。
早い段階で弁護士に相談すれば、外部とのやり取りの窓口を依頼できるほか、短期間で迅速に不起訴に向けた弁護活動を行ってもらえます。 -
(2)被害者と示談をして被害弁償を行う
傷害罪が問題となる事案の場合、起訴・不起訴の判断を分ける大きなポイントとなるのが、被害者との示談が成立したかどうかです。
もし示談が成立していれば、被害の回復が図られ、かつ被害者の処罰感情がある程度収まっていると評価され、不起訴処分となる可能性が高まります。
そのため、早い段階で被害者に連絡を取り、誠心誠意謝罪を尽くしたうえで、適正な金額の示談金を提示して交渉することが大切です。
特に、逮捕・勾留されてしまうと自力で示談交渉を行うことができないので、弁護士への依頼が必須となります。 -
(3)公判手続きの準備を進める
傷害罪のような重い罪の場合、残念ながら検察官に起訴されてしまうケースも少なくありません。
被害者が大きなケガをした場合等、起訴されることが十分に想定される事案の場合は、早い段階から公判手続きの準備をする必要があります。
具体的には、まず罪を認めるか否認するかの方針を定めます。
そのうえで、罪を認める場合は情状に関する有利な事実を、否認する場合は検察官が証明しようとしている犯罪事実を崩せる事実を主張していくことになります。
公判手続きに向けた準備は、弁護士に相談しながら進めましょう。
早期に弁護士に依頼すれば、それだけ公判手続きへの準備にも時間的余裕が生まれます。
5、まとめ
他人を突き飛ばしてケガをさせてしまった場合、傷害罪として重い刑罰を科されるおそれがあります。
もし傷害罪で逮捕されてしまった場合には、不起訴処分や執行猶予付き判決を得られるように、早い段階で弁護士に依頼することをおすすめいたします。
ベリーベスト法律事務所の刑事事件専門チームは、刑事事件の加害者として逮捕された方に対して、さまざまな角度から弁護活動を展開いたします。
ふとした拍子に他人に暴行を加えてしまい、ご自身の行為を悔やんでいらっしゃる方は、お早めにベリーベスト法律事務所 千葉オフィスへご相談ください。
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