熟年離婚で必ず決めておくべきことは? 生活費や年金の扱いはどうなる?
- 離婚
- 熟年離婚
- 生活費
- 年金
平成28年に行われた「同居期間別離婚件調査」の結果によると、同居期間35年以上の離婚数は5960件だったと、厚生労働省が発表しています。昭和60年はたったの1108件であり5.4倍ほどになっており、熟年離婚は大幅に増えているといえるでしょう。
ただし、熟年離婚は20~30代で行われる離婚とは大きく異なり、解決すべき問題が多いという特徴があります。そのため、離婚したくとも踏み切れないという方も少なくないでしょう。
そこで、ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスの弁護士が熟年離婚の際の注意点や手順をわかりやすく解説いたします。
1、離婚するために必要な条件
そもそも、離婚をするためには「双方が合意していること」がもっとも基本的な条件となります。したがって、双方が離婚することに同意していれば、離婚の理由はどのようなものであろうと問題ありません。
しかし、どちらかが離婚に合意していない場合は、最終的には裁判で争う事態になりかねません。その際、結婚生活を継続し難いと裁判所が認める理由、いわゆる「法定離婚事由」が必要になります。
民法で求められている「法定離婚事由」は以下の5つです。
- 相手が不貞行為をしている場合
- 相手から悪意で遺棄された場合(生活費を全く支払ってくれない、一方的な別居など)
- 相手の生死が3年以上明らかでない場合
- 相手が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない場合
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
相手が離婚に合意しないとき、あなたが離婚したい理由がこれらのいずれかに該当しなければ、裁判等の法的手段を講じても離婚は認められないと考えてよいでしょう。
婚姻関係の破綻原因につき、主として責任のある配偶者を「有責配偶者」と呼びます。法定離婚事由となる行為をした配偶者は当然「有責配偶者」となると考えられます。あなたが法定離婚事由に該当する行為をした「有責配偶者」である場合には、裁判所に離婚を求めても認められ難いので注意が必要です。したがって、「不倫相手と再婚したいから離婚したい」と望んだとしても、法的には認められないことが原則です。
熟年離婚を考えている方は、相手が離婚に応じるかどうか、応じない場合は法的に離婚が認められる条件を満たしているかを考えてみましょう。
2、離婚前に生活費と住居の確保と財産の把握を
熟年離婚と、若い世代の離婚でもっとも異なる点は、婚姻期間の長さでしょう。それに伴い、多くのケースで、夫はすでに退職をしているか、退職直前の状態であり、妻は長らく専業主婦で、生活費を稼ぐすべを持たないケースも少なくありません。
したがって、熟年離婚を考えるときは、まず考えなければいけないことが多いといえるでしょう。
-
(1)離婚後の生活
熟年離婚の際、特に妻側が気をつけるべきことは「今後の生活費」です。すでに働いていて、自分の生活費は自分で稼げるという方は問題ありませんが、現在専業主婦の方やパート主婦の方などは、離婚することによって生活が成り立たなくなる可能性があります。年金分割で年金を受け取ることは可能ですが、単体で生活できるほどの満足な金額ではありません。どのように生活費を得るのか、ある程度の計画性が必要となるでしょう。
また、夫側もすべての家事を妻に依存していたケースでは、生活が成り立たなくなる危険性があります。夫側であっても妻側であっても、相手がいなくても生活ができるのかについて改めて考え、できるような状態を作っておく必要があります。 -
(2)離婚後の住居
さらに、あらかじめ考えておかなければならないのが「住居」の問題です。住宅を所有していて、離婚の際に財産分与で受け取ることができればいいですが、そうでない場合や、現在賃貸住宅に住んでいる場合は、新たに家を借りなければなりません。
正社員で働いていれば問題ありませんが、すでに退職していたり、非正規雇用となっていたりする場合や、働いていない場合は賃貸住宅の審査に通らない可能性もあります。また、家賃を全額自己負担しなければならないので生活費も圧迫するでしょう。
熟年離婚を検討する場合は、これらの「生活と住まいの問題」もしっかりと検証してください。 -
(3)財産の把握
熟年離婚は結婚していた期間が長いため、「財産分与」などまとまった金額を受け取れる可能性があります。お金の心配がある方はまずは夫婦の財産を確認してみましょう。後ほど財産分与については詳しく解説いたしますが、離婚時に、結婚期間に築いた財産は基本半分ずつに分割することができます。
したがって、離婚前に夫婦で築きあげているだろうすべての財産を把握しておくことが重要です。離婚問題が表面化してしまうと、相手が財産分与を避けるために財産を隠す可能性も考えられます。離婚を切り出す前に、慎重に財産を把握してリストアップしておいてください。
3、離婚後の生活を左右する「年金分割・財産分与・慰謝料・退職金」
熟年離婚を決意した際、話し合う必要性や発生する可能性がある代表的なお金が以下の4つです。
-
(1)年金分割
年金分割とは、厚生・共済年金の保険料納付記録の合計額を当事者間で分割することをいいます。年金自体を分割するのではなく、分割された分の保険料を納付したと扱われその分将来年金を受け取ることができるようになるというものです。
合意分割は上限が2分の1と決められています。合意分割の場合は、分割制度が始まった平成19年4月1日以前の納付実績も分割対象となります。
「3号被保険者」と呼ばれるサラリーマンの扶養になっている配偶者が対象の制度もあります。この場合、双方の合意がなくても、配偶者側が申請するだけで認められます。ただ、3号分割制度がスタートした平成20年4月1日以前の年金は対象にならないので注意が必要です。
なお、以下のケースでは、「そもそも分割できる年金がない」ため、年金分割は行えません。- 婚姻後、夫婦そろって一度も年金を払ったことがない
- 厚生年金及び共済年金ではない。
- 離婚をした日の翌日から起算して2年が経過している。
-
(2)財産分与
財産分与とは、結婚期間中に築いた「共有財産」を夫婦で分割する制度です。原則、すべての共有財産を原則2分の1で分割することになるでしょう。
対象となる財産は、家や土地、車や預貯金、有価証券、家具、家電などです。不動産を所有している場合は、時価額を求めて分割しますので、まとまった金額を受け取ることができるでしょう。
妻が専業主婦であっても、妻が家事育児を行っていたからこそ夫は仕事に集中できたとみなされるため、分割割合の基本は2分の1です。同等の収入がある共働き夫婦や共同経営者だったなどのケースでは、状況によって割合を話し合うこともありますが、いずれにしてももれなく財産を把握しておきましょう。
ただし、結婚前から持っていた資産や貯金、親からの贈与、相続された資産は「特有財産」と呼ばれ、離婚時に行われる財産分与の対象外となります。 -
(3)慰謝料
財産分与とは、結婚期間中に築いた「共有財産」を夫婦で分割する制度です。原則、すべての共有財産を原則2分の1で分割することになるでしょう。
対象となる財産は、家や土地、車や預貯金、有価証券、家具、家電などです。不動産を所有している場合は、時価額を求めて分割しますので、まとまった金額を受け取ることができるでしょう。
妻が専業主婦であっても、妻が家事育児を行っていたからこそ夫は仕事に集中できたとみなされるため、分割割合の基本は2分の1です。同等の収入がある共働き夫婦や共同経営者だったなどのケースでは、状況によって割合を話し合うこともありますが、いずれにしてももれなく財産を把握しておきましょう。
ただし、結婚前から持っていた資産や貯金、親からの贈与、相続された資産は「特有財産」と呼ばれ、離婚時に行われる財産分与の対象外となります。 -
(4)退職金
すでに支給されている退職金は間違いなく財産分与の対象となります。また、将来確実に支給されるとみなされる退職金があれば、分与の対象となりえるでしょう。
ただし、退職金を分割する場合は、状況によって分割対象となる退職金の額や割合が異なるケースもあります。弁護士等に相談して目安を確認することをおすすめします。
4、熟年離婚の進め方
離婚には「協議離婚」、「調停離婚」、「審判離婚」、「裁判離婚」の4種類があります。協議離婚とは、話し合いで成立する離婚です。双方が離婚することに合意している場合は「協議離婚」に該当します。
協議離婚をするときは、離婚届を提出する前に、お金のことなどの問題をしっかり話し合い、合意を得ておくことを強くおすすめします。離婚した後に話し合おうとしても、そのまま連絡が取れなくなったり、長期にわたるトラブルにつながったりしてしまいがちです。
年金分割や財産分与などにも時効が設定されているため、受け取れるはずのお金を受け取れないという事態も考えられます。逆に、特に決めなかったがために、勝手に持ち逃げされてしまうケースも考えられるでしょう。
さらに、しっかり話し合った上で離婚するとしても、合意した内容を記した離婚協議書を作成して公正証書にしておくとよいでしょう。
財産分与などのお金の問題なので、文書にした上で強制執行が可能な公正証書にしておくことで、万が一約束が守られなくても差し押さえなどの手続きを行うことも可能です。熟年離婚の場合、財産分与の問題、特に所有している住宅をどちらが所有するのかなどの点をしっかりと話し合うことが重要なポイントとなります。
話し合いで離婚が成立しない場合は、調停離婚といって家庭裁判所で開かれる「調停」制度を利用することになります。調停では、離婚するかしないかなどの基本的な部分だけでなく、諸条件について話し合うことができます。ただし、当人同士の意見を戦わせるのではなく、それぞれが調停員に話をして、調停員を通じて交渉し両者の合意を目指すものです。調停では、待合室も別々となり相手方と顔をあわせることがないのが大きなメリットの一つです。
調停で、離婚そのものや離婚の際の諸条件に合意ができれば、公的な効力を持つ「調停調書」が発行され、これをもって離婚届を提出し、調停離婚が成立します。
調停でも合意できなければ訴訟に移行します。離婚することは合意しているけど財産分与の割合だけ、などの場合は審判になることもありますが、ほとんどは訴訟で争うことになるでしょう。訴訟では、手続きの複雑さもあり、弁護士に依頼し、弁護士が当事者に代わり訴訟活動をすることになるケースが多いです。個人で対応することは難しくなります。できるだけ早いタイミングで弁護士に相談してください。
5、熟年離婚はお金の問題が大きいので弁護士に相談すべき
熟年離婚は、数ある離婚の中でも特に弁護士に依頼すべき離婚です。なぜならば、財産分与や年金分割などで、受け取る金額が非常に大きくなる可能性があるためです。
熟年離婚した場合は、女性側も男性側も、離婚後の生活に苦しむことが少なくありません。きちんと状況を整理し、準備を整え、財産分与なども行えば、離婚後の生活も心機一転スタートすることも難しくないでしょう。
家や土地、預貯金や退職金などが十分にある場合は、離婚を検討している時点で弁護士に相談し、最適な「動き方」をアドバイスしてもらう必要があります。若年層の離婚とは異なり、離婚時の交渉によって今後の生活が大きく左右されます。専門家の意見が必要不可欠と考えたほうがよいといえます。
6、まとめ
熟年離婚は、婚姻年数が長い分、お金の問題が大きく絡むケースがほとんどです。こんなはずではなかったという事態にならないよう、離婚前にしっかりと準備をすることが重要なポイントとなるでしょう。退職金や住宅等々の資産を財産分与で受け取ることで、離婚後の生活をスタートするための資金にできるはずです。
熟年離婚を検討しているのであれば、相手に気づかれる前に熟年離婚問題に対応した経験が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所 千葉オフィスでも、親身になってアドバイスいたします。まずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています