遺言の基本知識と財産整理。相続争いを避けるための準備とは?
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平成28年度の司法統計年報によると、家庭裁判所が扱った遺産分割事件は全国で1万2188件となっています。高齢化が進む昨今、さらに相続に関する争いが増加すると考えられていて、全国の傾向とたがわず高齢化が進む千葉県千葉市でも、「終活支援事業」がスタートしています。
自分の死後、遺族間で争いが起こる事態は考えたくないものです。そこで、遺言書の準備を検討しているケースが増えつつあります。今後、法改正もあることから、法的に有効な遺言を遺すためには、正しい知識を得ておく必要があるでしょう。
今回は、遺言の目的や種類、無効となるケースなどの基本事項をお伝えするとともに、財産調査や財産目録作成の必要性について、千葉オフィスの弁護士が回答します。
1、遺言とは
遺言とは、財産の相続や、身分上の事項について、亡くなった本人の意思を表示し、法的に効力を発生させるための書類のことです。
遺言は、特定の要件を満たすことで、法的な効力を有します。法的な効力を有するためには、法に定められたとおり、正しく作成する必要があります。要件を欠く単なるメモ書きや、録画・録音では、正式な遺言とは認められません。
なお、遺言に関しては、意思能力のある満15歳以上の者であれば遺言をすることができます。
2、遺言がないとどうなるのか?
相続の際、民法では、ある人の死亡(死亡した人のことを「被相続人」といいます。)により、被相続人の財産を相続する「法定相続人」が定められています。法定相続人は、民法第887条、第889条、第890条に規定されています。
また、被相続人が財産を承継する割合(「相続分」といいます。)を指定しない場合、法定相続人の法定相続分は、民法第900条及び第901条に規定されています。
しかし、民法は、法定相続分について、抽象的に「2分の1」などと相続分の割合を定めているだけですので、相続人の誰が、遺産のうち何をどれだけ取得するのか、具体的に決めるためには、相続人全員で話し合いをして合意する必要があります。これを「遺産分割協議」といいます。遺産分割協議がまとまったときには、遺産分割協議書を作成し、相続人全員の署名・押印が必要となります。相続人全員が同意するのであれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも可能です。
遺産分割協議によって、スムーズに話がまとまれば、もちろん問題ありません。しかし、相続人たちにはそれぞれ「金銭がほしい」「不動産がほしい」といった主張があるため、争いとなるケースは少なくないでしょう。
つまり、遺言がなければ、せっかくの相続財産も相続人たちの争いの種になる可能性が高いといえます。また、被相続人が法定相続人以外に財産を相続させたいと考えていたとしても、遺言がなければそれもかないません。
3、遺言には種類がある
遺言には「普通方式」と「特別方式」の2つの方式があります。
特別方式とは、病気や災害で死期が迫っているなど、緊急性が高い特別な場合に認められた遺言です。普通の方式によって遺言をすることができるようになったときから6ヶ月間生存するとその内容は無効になります。
そのため、自分が亡くなった後のために余裕を持って準備しておく場合は、普通方式の遺言を遺すことになります。普通方式の遺言は3つの種類があります。
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(1)自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が、全文、日付および氏名を自書し、これに押印した遺言のことです。代筆やパソコンでの作成はできません。費用がかからず手軽に作成でき、内容を誰にも知られずに済む点がメリットです。
一方で、第三者のチェックが働かないため要件を欠く不備があり無効となるおそれがある、紛失、何者かによる隠匿、改ざんなどのリスクもあるなど、不確実性がある遺言書ともいえます。遺言の形式や状態を調査し、遺言の偽造や変造を防止し、遺言を確実に保存するため、開封時は家庭裁判所における検認が必要となります。
なお、平成30年7月の法改正により、自筆証書遺言の方式が緩和されることが決定しました。平成31年1月13日から施行されることが決定されているため、施行日以降に自筆証書遺言を作成する際は、財産目録の作成に関しては手書きでなくてもよいものとなります。詳しくは弁護士に相談したほうがよいでしょう。 -
(2)公正証書遺言
公正証書遺言とは、原則として、遺言者が公証人に遺言内容を口授し、公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者に読み聞かせるという順で作成する遺言のことです。公証人とは、法律実務に精通した公務員で、法的な有効性を確認しながら遺言が作成されることになります。さらに、原本が公証役場で保管されるため確実性が高いという点も大きなメリットとなるでしょう。
確実に法的な効力を持たせた遺言をしたい方は、公正証書遺言の作成が適しています。ただし、証人が2人以上必要となること、公証人の手数料等の作成費用がかかること、財産の詳細を確認できる書類が必要となること、公証人に遺言書の内容を知られることなど、確実な遺言書を作成するために、必要となるプロセスをデメリットとして受け止める方もいるでしょう。
公正証書遺言は、自筆証書遺言と異なり、遺言者の相続が開始しても家庭裁判所における検認は不要です。公正証書遺言の原本は、公証役場で保管されているため、万一、公正証書遺言の正本や謄本を紛失しても、再発行してもらうことができます。 -
(3)秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者が自分で作成した遺言証書に署名押印をしたうえで、封書に入れ、この封書を遺言証書に押したものと同じ印鑑で封印し、この封書を公証人と2人以上の証人に提出して自分の遺言書であることと氏名及び住所を申述し、公証人がその封書に日付と遺言者の申述を記載した上で、遺言者、公証人及び承認がそれぞれ署名押印をするという方法で作成する遺言です。
本文をパソコンで作成することも可能なうえ、公証人にも内容を知られずに済む点がメリットです。また、手続に証人が立ち会うため、遺言者の相続が開始したときに、その証人が遺言の存在を伝えてくれる可能性もあります。
一方で、内容を確認する人がいないため不備が生じやすい、原本を自身で管理するため紛失する可能性があるなどのデメリットがあります。あえて秘密証書遺言にするメリットがさほどないことから、利用者がかなり少ない遺言です。
4、自筆証書遺言が無効となるケース
準備を十分にしないまま、自筆証書遺言を作成しても、法で定められた要件を欠くと、その遺言は無効となってしまいます。せっかく手間をかけて作成しても、遺言者の希望がかなわなかったり、かえって相続人同士の争いの種になったりしてしまう可能性もあるのです。
無効となるケースはいくつかありますが、主なケースは以下のとおりです。
- 署名がない、他人が署名した
- 押印がない
- 日付の記載がない、日付が遺言書作成日と異なる
- 加除訂正の方法が違う
- 複数人が共同で書いた
- 本人以外の人が書いた
- 自筆証書遺言の本文をワープロで作成した
遺言書の作成は厳格にルールが定められています。それは、亡くなった人の意志かどうかを明確にし、争いの種にならないよう配慮されているためでもあります。この点をよく理解し、不備がないように作成しなくてはなりません。
5、財産の整理について
遺言の作成とともに重要となるのが、財産の整理についてです。遺言でも、遺言に書いた財産と実際の相続財産が大きくかけ離れていると、遺言のとおり実現できないことがあります。
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(1)自分の財産を整理しておく必要性
遺言を作成するにあたって自身の財産を整理しておかなければ、そもそも誰になにをどれぐらい遺すといった内容を遺言に記すことができません。
また、亡くなった後に遺された家族は、短期間に相続財産を調査しなければなりません。相続人には、相続税を申告し納付する義務があり、また、マイナスの相続財産が多いときには相続放棄の必要性も生じますが、こうした手続きにはそれぞれに期限があるためです。
相続争いを避けるためだけでなく、遺された家族を相続手続きの負担で疲弊させないためにも、あらかじめ財産整理をしておきましょう。 -
(2)整理しておくべき財産とは
財産を整理する際には、預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナス財産も整理しておく必要があります。財産を遺したつもりでも、実は負債の方が大きいなどの理由で、家族の負担になってしまうケースも考えられるからです。
まずは、すべての財産を書き出していきましょう。以下に、財産の主な例を挙げます。
【プラスの財産】- 預貯金
- 土地、家屋
- 株式、投資信託など有価証券
- 生命保険金
- 自動車、宝石、絵画、骨董品などの動産
【マイナスの財産】- ローン、借入金、クレジットカードの残債
- 保証人、連帯保証人になっている契約の債務
- 税金、健康保険料などの滞納分
- 病院の入院・治療費未払い分
次に、それぞれの項目について、どのぐらいの価値になるのかを整理します。
預貯金などは額面どおりとなるので明白ですが、土地や家屋など不動産は価値や配分方法次第で相続人たちがもめる原因となることがあります。ご自身が所有する不動産については、固定資産税納税通知書や登記事項証明書(登記簿謄本)をみて確認しておくとよいでしょう。
自動車や宝石など高額な動産については一度査定に出しておくと、査定時点での評価額を把握することができるでしょう。 -
(3)財産目録を作成する
財産を整理したら、財産目録を作成して遺しておくことをおすすめします。
「財産目録」とは、所有財産の一覧表のことです。ご自身の死後、遺産分割協議が円滑に進むほか、遺された相続人が相続税を申告する際にも役立ちます。財産目録には、特に決まった書式はありません。しかし、相続人の方々が分かりやすい内容に仕上げることが大切です。「どのような財産が、どこに、どのくらいあるのか」を意識して作成するとよいでしょう。
以下は、財産目録で書いておきたい基本的な項目です。
- 財産の名称、種類
- 財産の数量、面積、口座番号など
- 財産の所在地や管理会社
- 財産の評価額
そのほか、注意点や伝えておきたいこと、あなたの気持ちなどを、備考欄などを設けて書いておいてもよいでしょう。なぜそのような相続にしたのかが家族に伝われば、争いにならずに相続が終わる可能性もあるでしょう。
6、まとめ
今回は、遺言書の種類や無効となるケース、財産整理について解説しました。自分がこの世を去った後に遺された家族が困らないためには、遺言書の作成や財産の整理が必要となります。とはいえ、自分だけの力で有効な遺言書を作成したり、財産を調査・整理したりすることはそう簡単ではありません。
弁護士などの専門家にサポートを依頼することで、確実で網羅性の高い遺言書や財産目録を遺すことができるでしょう。弁護士であれば、遺産相続争いが起こりそうな場合の対処法についてもアドバイスができます。
遺言書の作成について悩む部分があるときは、ベリーベスト法律事務所・千葉オフィスへ相談してください。相続問題への対応経験が豊富な弁護士が尽力するとともに、税理士とも連携した対応が可能です。
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